メインコンテンツへスキップ
見出し画像

ドキドキ💓新生活デスゲーム

     

     コンクリートにペンキを塗っただけの壁が、五月のまだ冷える夜をいっそう際立たせている。日は落ちてしまっているのに、電気は付けられていない。窓を挟んで向こう側の部屋たちの照明が、カーテンで弱まって届くだけ。

    自分だけが照明を付けられていない気がする。私は、上体を起こし、下半身にだけ毛布をかけた姿勢でベッドの上にいた。何をするでもなく、毛布の端を掴んでベッドの上にいた。よその照明に弱く照らされて、ただお腹を動かして呼吸をしているのが、きっと客観としての私だった。

    主観の私は、ただ呼吸をしているだけではなかった。考え事をしていた。いままでを振り返って、自分を含め、過去を出来事として処理する作業をしていた。これは、主体性を放棄しているから、もしかすると、主観とも言えないのかもしれない。

    私の意識から見える私は、以上のようなことをしていた。

    では、具体的に何を振り返っていたのかと言うと、今朝起きてから、今とっているこの体勢になるまでのことを振り返っていた。

    まず、アラームで目が覚め、アラームを止めた。ベッドのすぐそばのカーテンを開け、自分の目覚めを促した。毛布を取り払って冷蔵庫まで歩き、牛乳を取ってシェイカーに注ぐ。プロテインを入れて振り、飲み干してから、沸かしたお湯を時間をかけて飲んだ。胃腸が強くないため、こうやってバランスをとる必要がある。そして、一息ついたら外に出られるだけの身支度をする、までが私の朝のルーティンで、ここまでは特筆すべきことはない。

    いつも通り、朝の光は温かみがなく、体を起こしたことによる拍動を強調するように、床のフローリングが冷たかった。フローリングに反射した、棚や掃除機などの私の家具家電が、朝らしく輝いているだけだった。

    その後は人と会う約束があった。その人との用事を済ませたが、対人のためにリソースを使ったから、私の感受性が何かを受け取ることはなかった。

    用事を済ませたあとは、買い物をした。冷蔵庫に足りないものは分かっているし、食べたいものの目途もついていた。しかし、売り場の情報量が多く、自分が何をしたいのか分からなくなった。往来の少ないコーナーで立ち尽くして、売り場に自分を馴染ませた後、買い物を再開した。

    買い物袋を持った帰路では、重さで伸びて張った持ち手の食い込みと、歩くと足に当たる卵のパックを気にして歩いた。日差しがジリジリ暑いのが、いたませる気がして早歩きした。自分の脚の振り子と、買い物袋の振り子が行違って重なるのが、私の気を遠くさせた。

    帰り着いて、購入品の整理をした。冷蔵庫を補充して、その他も片した。手を洗えば一日が終わった気になって、着替えてベッドに上がった。

    ジッと座って考え事を始めた。

    まだ沈んでいない太陽が、部屋に明るさを与えていた。換気扇は、入居時にはしなかった、カラカラした音を立てている。私は原因を知ろうと、その換気扇を覗き込んだことがあったが、手前のフィルターは素人が外していいように見えなかったため、究明はできていない。音の変化があったせいか、私はこの部屋で、あの換気扇以外の音を感じ取れずにいた。冷蔵庫の音やエアコンの音という表現を思い起こす度、それらを聞き取ろうとするが、どうしても換気扇のカラカラとなるのだけ、耳に入ってくる。

    自室を感じさせるその音は、私を部屋に閉じ込めて考え事を促す。今日一日を頭のなかでリプレイ、する中でリプレイ、する中でリプレイしていって、今何層目なのかはわからない。

    毛布が規則なく折り重なっているのが、段々突起のそれぞれが上下にうごめいて見え、蛇が這いずりながら私の下半身を食っているようだった。

    あなたへのおすすめ