メインコンテンツへスキップ
見出し画像

国づくり神話──大国主命はどんな国を作ろうとしたのか

    じっくり歴史クラブ

    大国主命(おおくにぬしのみこと)の国づくりは、島を生み出す「国生み」とは違う。少彦名命との協力、大物主神を祀る物語、そして人々の暮らしに関わる伝承から、国を作り堅めるとは何だったのかを見ていく。大国主命が整えようとした国の姿をたどる。

    大国主命の神話を追っていくと、繰り返し現れる言葉が国づくりである。

    しかし、伊邪那岐命と伊邪那美命が島々を生んだ国生みと、大国主命の国づくりは同じものではない。大国主命が向き合うのは、すでに存在している葦原中国であり、その土地を少彦名命や大物主神と関わりながら整えていく物語である。

    では、大国主命はどのような国を作ろうとしていたのだろうか。神話に残された国づくりの場面から、その姿をたどっていく。

    大国主命の「国づくり」は国生みと何が違うのか

    日本神話には、「国をつくる」という言葉から連想される物語がいくつかある。

    その代表が、伊邪那岐命と伊邪那美命による国生みである。二柱は天沼矛(あめのぬぼこ)を使い、オノゴロ島をはじめ、日本列島を形づくる島々を生んでいく。

    こちらは、文字通り国土そのものが生まれる物語といってよい。

    一方、大国主命の国づくりは少し違う。

    『古事記』では、大国主命は根の堅州国で須佐之男命の試練を乗り越えたあと、八十神(やそがみ)を退け、葦原中国を治める存在へと成長していく。そしてその先で、少彦名命とともに国を作り堅めると語られる。

    つまり、何もないところから島を生み出すのではない。

    すでにある土地を、人々が暮らせる世界へ整えていくのである。

    ただし、『古事記』はその内容を細かく説明してはいない。道を通したとか、田を開いたとか、現代的な意味での政策を神話の中にそのまま読むことはできない。

    それでも、少彦名命との共同の国づくりや、後に伝わる病や災いに関わる話を重ねていくと、大国主命の国づくりが、単なる領土の獲得や支配ではなかったことは見えてくる。

    国があるだけでは、人は暮らせない。

    そこに住む人々や生き物、作物、そして土地に宿る見えない力との関係まで整えていく。大国主命の国づくりは、そうした暮らせる世界を形にしていく物語として読むことができる。

    少彦名命と二柱で「作り堅める」

    大国主命の国づくりで、最も重要な協力者となるのが少彦名命(すくなひこなのみこと)である。

    少彦名命は、海の彼方から小さな船に乗って現れる不思議な神として描かれる。

    その正体が神産巣日神(かみむすひのかみ)の子であると分かると、神産巣日神は大国主命に、この神とともに葦原中国を作り堅めるよう告げる。

    『古事記』では、その後の国づくりについて、二柱が並んで国を作り堅めたことが簡潔に語られる。

    何をしたのか、細かな内容までは詳しく書かれない。

    けれども『日本書紀』の一書には、大己貴神(おおなむちのかみ)と少彦名命が協力し、人や家畜の病を治す方法を定め、鳥獣や昆虫による災いを防ぐ方法を考えた、という伝承が残されている。

    ここには、国づくりの意味を考える手がかりがある。

    人が病に倒れれば、その土地で暮らし続けることは難しい。作物や家畜が損なわれれば、生活も成り立たない。国を整えるとは、土地の境界を定めるだけではなく、人が生きていくための知恵や秩序を整えることでもあったのだろう。

    少彦名命には、後世になると医薬、温泉、酒造などと結びつく伝承も重なっていく。

    そう考えると、大国主命と少彦名命の国づくりには、壮大な神話でありながら、意外なほど人の暮らしに近い部分が見えてくる。

    そしてもう一つ大切なのは、大国主命だけがすべてを成し遂げるのではないことだ。

    大きな国を治める神と、海の彼方から来た小さな神。異なる力を持つ二柱が協力することで、国は作り堅められていくのである。

    画像
    大国主命と少彦名命

    一柱になった大国主命と大物主神

    しかし、大国主命と少彦名命の共同の国づくりは、ずっと続くわけではない。

    二柱で国を作り堅めたあと、少彦名命は常世国(とこよのくに)へ去ってしまう。

    大国主命は、一柱で国づくりを続けることになる。

    『古事記』では、このとき大国主命が、この国を自分一柱でどのように作ればよいのかと思い悩む場面が描かれる。

    そこで現れるのが、大物主神(おおものぬしのかみ)である。

    海を照らしながら現れた神は、自分を倭の青垣の東の山に祀れば、ともに国づくりをしようと告げる。その場所が御諸山(みもろやま)、現在の三輪山とされる。

    ここでも、大国主命は一柱だけで国を完成させない。

    少彦名命が去ったあとには、今度は大物主神を祀ることによって国づくりを進めていく。

    この流れはとても興味深い。

    国を作るために必要なのは、大国主命自身の力だけではない。異なる神の力を受け入れ、その神を正しく祀り、関係を結ぶこともまた国づくりの一部になっているからである。

    これは、力だけで押さえ込む姿とは少し違う。

    土地には土地の神がいる。

    人の目には見えない力もある。

    それらを無視して支配するのではなく、祀ることで関係を整えていく。

    大物主神との物語からは、大国主命の国づくりに祭祀によって土地の力と結びつくという側面もあったことが見えてくる。

    大国主命はどんな国を作ろうとしたのか

    では、大国主命は結局、どのような国を作ろうとしたのだろうか。

    『古事記』には、「このような国家を目指した」という大国主命自身の言葉は残されていない。そのため、「理想国家をつくろうとした」「平和国家を目指した」といった現代的な価値観を、そのまま神話へ当てはめることは避けたい。

    ただし、物語の中で大国主命が何をしているのかを見ることはできる。

    傷ついた白兎を助ける。

    少彦名命とともに国を作り堅める。

    病や災いを防ぐ知恵に関わる伝承が残る。

    少彦名命を失えば、新たな協力者を求める。

    そして大物主神を三輪山に祀り、見えない神の力も国づくりの中へ取り込んでいく。

    そこから浮かび上がるのは、ただ領土を広げるだけの国づくりではない。

    土地、人の暮らし、神々との関係を整えていく国づくりである。

    大国主命は、「支配する神」としてだけではなく、異なる存在を結びつける神として描かれている。それは、後世に縁結びの神として広く信仰されることと、そのまま同じ意味ではない。けれども神話の中でも、大国主命が一柱で完結せず、多くの神や土地、人との関係の中で国を形にしていくことは確かである。

    大国主命が作ろうとした国の姿を一言で言い切ることは難しい。

    それでも、その国づくりが誰かを倒して終わる物語ではなく、関係を結びながら世界を整える物語として語られていることは、大きな特徴だといえる。

    画像
    国づくりを進める大国主命

    国づくりは土地を生むだけではなかった

    大国主命の国づくりは、伊邪那岐命と伊邪那美命の国生みとは違う。

    大国主命が向き合ったのは、すでに存在している葦原中国だった。

    そこを少彦名命とともに作り堅め、人や生き物が暮らすための知恵へつながる伝承が残され、少彦名命が去ったあとは大物主神を祀って国づくりを続けていく。

    そこから見えてくるのは、国とは土地だけで完成するものではないという神話の姿である。

    暮らしがあり、病や災いに備える知恵があり、神々との関係があり、それらが結びついて初めて「国」が形になっていく。

    大国主命の国づくりは、国土の誕生の次に何が必要だったのかを語る物語でもある。

    作り上げた国が「国譲り」へ向かうまで

    大国主命は、多くの試練を越え、少彦名命と協力し、大物主神を祀りながら葦原中国を作り上げていく。

    しかし、この物語は「立派な国が完成した」で終わらない。

    大国主命が整えた葦原中国に対して、やがて高天原の神々が動き始める。

    天照大御神(あまてらすおおみかみ)を中心とする天つ神は、葦原中国を自分たちの子孫が治めるべき国だと考え、地上へ使者を送る。そこから始まるのが、次の国譲り神話である。

    ここで忘れてはいけないのは、譲る対象となる国が、最初からそこに完成した状態で置かれていたわけではないことだ。

    大国主命は、その国を自ら作り堅めてきた。

    だからこそ、国譲りは単純に「土地を渡す」話ではない。大国主命が長い時間をかけて形にした世界を、これから誰が治めるのかという、大きな転換点なのである。

    国づくり神話を先に見ておくと、国譲りの重さも少し違って見えてくる。

    大国主命が譲ることになるのは、ただの土地ではない。

    神々との関係を結び、人の暮らしを支えながら、ようやく作り上げた自分たちの国だったのである。

    前回:三輪山信仰──山そのものを神として祀る理由

    次回:国譲り神話──なぜ出雲は天つ神に国を譲ったのか

    ひとつ上のまとめ:神話の痕跡

    全体の入口:総合案内|シリーズ入口

     
     
     
    日本史を、人物の決断から物語として読み直す「じっくり歴史クラブ」です。 固定の自己紹介記事に、時代別の人物史/都道府県の歴史/仕事人図鑑/日本神話のリンクをまとめています。そこから気になる記事へどうぞ。

    あなたへのおすすめ