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【家族のこと】血の気の引いた真夏の1日

    ウバといいます。
    訪ねていただきありがとうございます。



    左手の薬指に指輪がないことに気付いたのは、宿泊したホテルを出で半日経ったころだった。

    血の気が引くとは、まさにあの瞬間のことをいうのだろう。真夏なのに少し寒くすら感じた。いや、まあ車内のエアコンのせいでもあるのだけど。

    「嫁さん、わたしの指輪がありません。ご存知ありませんか?」と、いちおう聞いてみたが、想像通り「知らないんだけど……無くしたの!?」と返事が返ってきた。

    ああ、怒ってるなあ……。そうだよなあ、怒るよなあ。と、感心してる場合ではない。わたしは全力で焦っていた。

    久し振りの家族旅行の締めが、結婚指輪探しとは誰も予想しなかっただろう。結論から書くと指輪は見つかった。ホテルにあったのだ。



    今から書くのは、ピンチのときにこそ人間の本質的な部分が見えるということだ。どんな人間も、ピンチのときにこそ本心を見せるのである。



    とりあえず、わたしは近くのコンビニに車を停めた。アイスコーヒーを購入し一服。もう一度車を探すが、やはり指輪は無かった。そんな気はしていたのだけれども。

    わたしは、とりあえず宿泊したホテルに電話をかけることにする。その様子を出来るだけ忠実に書いてみよう。

    ホテル「お電話ありがとうございます。こちらホテル〇〇でございます。」

    ウバ「あのお、わたくし昨日そちらに宿泊したウバといいますけど、指輪ありませんでした?」

    ホテル「はい?」

    ウバ「あ、いやあ、その。指輪が無くて。小さくて丸い指輪なんですけど……」

    ホテル「……」

    ウバ「あ、いや、スミマセン。シルバーの指輪なんですけど、もしかしたら部屋に忘れてないかなと思いまして。」

    ホテル「清掃に確認します。少々お待ち下さい……………………………。もしもし、只今清掃中とのことですので、何か分かり次第ご連絡というカタチでも大丈夫でしょうか?」

    ウバ「はい、助かります。ありがとうございます」
    ピッ。ツーツーツー……

    ちなみに最後の「ピッ。ツーツーツー」はセリフではない。そんなセリフを言うほどには壊れてないわたしです。

    電話の最中、助手席の嫁さんは爆笑していた。「小さくて丸い指輪って!?大きくて四角い指輪見たことあるかっての」と笑っている。

    そりゃあ、わたしも口にして思ったよ。大体の指輪が小さくて丸いだろうが!ってさ。でも、こちとら焦っとんねん!

    後部座席では、相変わらず息子さんが鼻歌を歌っている。「ブリンバンバン、ブリンバンバン……」と。ウルサイなあ、まったく。

    悩んでも仕方ないと、わたしはホテルに向けて車を走らせる。ホテルを出て半日は経っているが、ホテルからは車で1時間ほどの場所にいた。

    とにかくわたしは焦っていた。もしホテルに無かったら?もし、あの公園で落としていたら?もしごみと一緒に捨てていたら?と、もう吐きそうなほど焦っていた。

    前を走る軽トラにイライラしたりした。もう少し速く走れないのか?ああ、イライラするなあ!こっちは急いでるんだ!

    と焦ってイライラしても、車は速くならず。ちなみに、法定速度はしっかり守って走った。焦ってもルール違反は禁物である。

    嫁さんはのんきだ。「ねえ薬指ちゃん?もしかしたら新しい指輪をもらえるかもよ?楽しみだねえ」とか指に話しかけている。コイツ、大丈夫か?

    ホテルに向かいだして10分ほどたった時、わたしの電話が鳴る。ホテルからだ。運転中のため、嫁さんが電話に出る。

    「はい、はいそうです」と嫁さん。出たよ、いつものよそ行きの声。「はい、あ、そうですかあ。わかりました。ありがとうございます。はい、失礼します」ピッ。ツーツーツー……。

    ちなみに、最後のピッ。ツーツーツー……。はセリフではない。しかも電話に出たのは嫁さんなので、そもそもわたしには聞こえていない。

    「指輪、あったってよ。よかったねえ。あたらしい指輪は諦めるかねえ」と嫁さん。

    よかったあああああああぁぁぁぁぁ!!!と、わたしは安堵した。安堵するとは、こういうことかと確認するほどに安堵した。

    そこからホテルまでは上機嫌でドライブである。わたしも鼻歌を歌いながら運転していた。ブリンバンバン……ボン。

    ホテルで指輪を受け取ったあと、車の中で嫁さんに聞いてみた。

    「ちなみにやけど、指輪がなくなってたら怒ってた?」と。

    嫁さんは答えた。

    「うんにゃあ、怒らんよお?たかが指輪やし。なくなったら無くなったで仕方ない。最後に体を張ってアンタの焦って死にそうな顔を見せてくれたって思えば笑えるし」と。

    ……カッコイイなあ。なんだよ、その余裕。本当に男前やなあ。と、感心した。

    人間は、ピンチの時に本心が出る。わたしは、ただただ焦ってイライラして情けないだけのオトコだった。嫁さんは、どんな時でも肩の力を抜いて対応できる強い女性だった。息子さんはブリンバンバンだった。

    血の気の引いた真夏の1日。まったくもって強くなりたいものだ。



    ここまで読んでいただきありがとうございます。
    指輪事件の最中、ずっと寝てた娘さんが1番強い。



    それでは、佐世保の隅っこからウバでした。

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