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珈琲と【#シロクマ文芸部】

    「珈琲とナポリタンをお願いします」
    「かしこまりました」

    和彰は3年前に都内の大手商社に就職した。就職を機に都心から電車で30分ほど離れた郊外に手頃なアパートを見つけて一人暮らしを始めた。

    今では馴染みとなった喫茶店『ロイヒテン』は駅とアパートの中間点にひっそりとたたずんでいた。アルコールが苦手な和彰にとって、ロイヒテンは居酒屋よりも世間のしがらみを忘れられる憩いの場となっていた。

    残業で帰りが遅くなるとロイヒテンで夕食を済ませることが多かった。珈琲はもちろん、軽食も美味しかった。シンプルだがケチャップの酸味と少し焦げた玉ねぎの甘みが絡み合ったナポリタンは絶品だった。

    「マスター」
    「はい」

    「例えばの話なんですけど」
    「はい」

    「実の母親がいたらどうします?」
    「実の母親?ですか」

    「ええ」
    「育ての母親とは別の産んでくれた母親ということですか?」

    「そうです。会ってみたいと思いますか?」
    「そうですねぇ」

    マスターはなぜそのそうな話をするのかと、問いかけることはしなかった。自分のことのように悩んでいるようであった。

    「唐突にすみません」
    「…会わないかもしれませんねぇ」

    「えっ」
    「別れるだけの理由が、あったのでしょうから」

    和彰は生みの母親に会いに行くため、朝早く起きて秋田へと向かった。駅前で買ったりんごをかじりながら病院行きのバスを待っていたのだが、バスには乗らずに帰ってきたのだった。

    (つづく)



    (ひとつ前の話はこちら)


    小牧幸助さんの企画に参加しています。
    毎週ありがとうございます。

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    ショートストーリー(というよりは端的に物事を伝える練習)を主に投稿してます。ドイツを一人旅しました。阪神タイガース、埼玉ワイルドナイツ、越谷アルファーズ、浦和レッズのファンです。ラジオを聴きながら、あちこち食べ歩き回ってます。たまに演劇を鑑賞します。21~24時頃に現れます。

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