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「またいつか会おう」と誰もが

    サッカーの間は、ずっと同じ方向を向いていた。

    キャプテンは今日も、
    優しく、ずっとずっとニコニコとしてくれた。

    ありがとう。

    仲間と過ごす最後の日になった。

    キャプテンは、
    家の都合でアメリカへ渡る。

    本来なら、
    今日の試合が最後になるはずだった。

    ……「はずだった。」

    そうなのだ。

    GW中の強豪校との試合から、
    どうやら腰を痛めていたらしい。

    それでもキャプテンは、

    「病院では大丈夫と言われたので、いつも通り出させて下さい。」

    と、真剣な眼差しでコーチに伝えている。

    母親も、
    「あと2試合です。よろしくお願いします。」

    と頭を下げていた。

    先週の試合、
    親達はとても不安だった。

    「無理しないでよ。」

    私も声をかけた。

    「市販のコルセット!ほらっ。」

    キャプテンは、
    いつもの笑顔でそう答えて、ユニフォームをめくって
    腹巻きの様なコルセットを見せてくれた。

    でも、
    私の隣にいた母親には、
    「ちょっと痛い。」

    と、小さく漏らしていた。

    試合開始。

    キャプテンはセンターバック。

    いつも以上に、
    周りへ声を掛けていた。

    残り少ない皆との時間を、
    大切にしたい気持ちが、伝わってくる。

    相手チームには、
    上手いなと感じる子が何人かいた。

    こちらの弱いところをすばやく見つけると、
    同じルートを何度も狙ってくる。

    キャプテンは、
    よく気付く子だ。

    相手トップの動きにも、
    ずっと神経を張っていた。

    時折、
    腰を押さえる姿が見えた。

    応援席の他の子の母親が言う、

    「ちょっと大丈夫?
    キャプテン、腰を押さえているよねぇ、
    痛そうじゃない?」

    キャプテンの母親は、

    「大丈夫、大丈夫。」

    と、子どもを観たまま答える。

    祈りみたいに
    「大丈夫、大丈夫。」

    その時だった。

    守ろうとしたキャプテンの前へ、
    相手のトップの子が勢いよく入ってきた。

    「ボンッ‼︎」
    と激しく、ぶつかった音が聞こえてきた、
    瞬間、
    キャプテンは激しく地面へ叩きつけられた。

    応援席の空気が変わった。

    何人かの親が立ち上がる。

    「もうやめさせてあげて!」

    「一生出来なくなったら大変!」

    皆、
    本気で心配していた。

    しばらく、
    立ち上がらない。

    まだ、
    立ち上がらない。

    時間が止まったようだった。

    ようやく、
    よろよろと起き上がる。

    コーチへ向かって、
    「動けない」
    そんなジェスチャーをしているのが見えた。

    私は、
    泣きそうなのを堪えていた。

    でも、
    キャプテンのお母さんはまだ言う。

    「絶対に大丈夫。あの子はきっとやる。」

    私は、
    ごくりと唾液を飲み込んだ。

    その時だった。

    キャプテンは、よろよろとコーチのいるベンチへ歩いて行ったが、途中まで歩むと、
    コーチへ右手を上げ、
    手のひらをコーチへ向けて、
    大丈夫、大丈夫との仕草をすると、
    元のポジションへ戻っていった。

    コーチも複雑な気持ちに違いない。
    「大丈夫か?」
    とだけ言った。
    ……やるんだ。

    笛が鳴る。

    再開した瞬間、
    チームの気持ちがひとつになった気がした。

    応援席まで、
    その空気が伝わってきた。

    十字靭帯の手術を終えた仲間も、
    松葉杖をつきながら、
    ユニフォーム姿で応援に来ていた。

    ベンチの子たちも真剣だ。

    後半も、
    なんとキャプテンは出続けた。

    「無理しないで欲しい。」

    「でも最後まで出ていて欲しい。」

    親達も
    そんな気持ちが交差していたに違いない。

    だれもが目を離せなかったと感じた。
    試合終了。

    2-1

    勝てた。

    でも試合後、
    キャプテンは、
    腰の骨を骨折していたことが分かった。

    骨折したまま、
    彼は最後まで戦っていたのだ。

    そして今日なのだ。
    キャプテンは
    「最後のリーグ戦の日」
    と、カレンダーに丸をつけていた日。
    もう試合には出られなくなった。
    それでも朝からずっと、
    ニコニコと笑顔で皆に接する。
    そう決めて、今日、応援に参加してくれたのであろう。

    チームは、
    これから先の形を探るようなポジションだった。

    出る子も、
    応援する子も、
    コーチも、
    親も。

    皆の心に
    「最後」
    を感じながらそこにいた。

    親たちは横に一列に並んで応援した。
    キャプテンの母親は
    たまに、込み上げるものがあるのか、ハンカチで目や鼻を押さえる。
    私との間に3人もいたのに、
    その想いは、電線してきた。

    なんでも無いシーンなのに、私は涙を拭った。
    ゴール前でハンドを取られ、ど真ん中から相手にシュートを決められた。
    1-2

    できれば取り返してほしい。

    私はずっと、
    胸の前で両手の指を重ねてを握りしめていた。
    お願い。

    入った!

    同点。

    我が子が交代で下がる。
    珍しく、とても悔しそうなのが見えた。
    せっかく流れが乗ってきて、いけると思っていたのかも知れない。そんな空気を感じた。
    今日の試合は特別な思いだったのであろう。

    試合終了。

    同点だった。

    別れの時間
    長いこと皆、帰らずにいた。

    後の試合の審判を終えたコーチが来ると、
    皆で写真を撮った。

    コーチは

    「泣きそうだ。1年生の練習行ってくる。」

    と言った。

    コーチは無理をして、GWに時間を設けてくれた。
    キャプテンとたっぷり楽しい時間をつくれる様、
    急ではあったが合宿をしてくれた。
    練習だけではなく、カレーをつくらせたり、ボーリングや焼肉、温泉へ連れて行ってくれた。

    本当にありがたかった。
    コーチ、いつもありがとうございます。

    キャプテンと家族、
    いよいよ、
    新しい土地で、
    新しい時間が始まる。

    元気でね。

    サッカーの間は、
    ずっと同じ方向を向いていた、
    大切な仲間だよ。

    「またいつか会おう。」
    と誰もが言った。

     
     
    自分でも知らない自分に出会える場を作りたい。人と出会い、心が動く。自分も、誰かも、人生を大切にしたい。温かくて、楽しみになる。そんな、人を知り、人らしく、優しさを感じ合い、話せなかったことも話せる温かい場。きっと良い感じに人生進んで行きそう(2026年9月誕生日に思ったこと)

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