
No Woman, No Cryに関するあれこれ

ボブには代表曲と言われるナンバーがたくさんありますが、1970年代、彼が世界的なスターになった当時一番人気だったこの曲こそ生前のボブを知るオールドファンにとって代表曲だと思います。
恩人タタ
実はこのメガヒット、クレジットを見ると作者はボブではなく、ビンセント・タタ・フォード (Vincent Tata Ford)となっています。

タタはボブの恩人で長年の親友です。彼はボブたちが暮らすゲットー、トレンチタウンでsoup kitchenと呼ばれる貧しい人たちのための炊き出し施設を運営していた糖尿病で足を失った障がい者でした。


15歳で学校教育を終えて、17歳でレコードデビューしたボブは、再婚した母Cedellaが合衆国に移民し、母親代わりとなった叔母も遠隔地へ引っ越したため、18歳からキングストンのゲットーでひとりで生活していました。音楽活動を続けるためです。
この頃、住む家を失いホームレスになってしまい、トレンチタウンの友人宅や路上を転々とする最底辺のハードな生活を体験しています。
食うに困っていた彼に食事を与え、励まし、助けたのが炊き出しをしていたタタでした。ボブ本人だけでなく、彼の音楽を愛するわれわれにとっても恩人としか言えない偉大な存在です。
実際にこの曲を書いたのはボブだと言われていますが、作者をタタとクレジットすることにより、ボブは曲が生み出す印税を将来に渡って恩人に渡す形にしました。
印税収入のおかげでタタは2008年に亡くなるまでトレンチタウンでsoup kitchenを続けることができたそうです。
ケイマン対策
Island Records時代にボブが発表した曲には、No Woman, No Cry以外にも本人以外の作とクレジットされているものがかなりあります。
特にNatty Dreadに続くアルバムRastaman Vibrationでは、ほとんどの曲がほかの人物の作品とされています。

実際にはボブが作ったと言われているこれらの曲のクレジットが周囲の仲間たちに振り分けられているのには理由があります。
1971年にIsland Recordsに移籍するまで、ボブはCayman Music(ケイマン・ミュージック)という音楽出版社と契約していました。
ケイマンはレゲエを合衆国に紹介したアフリカ系アメリカ人シンガーJohnny NashがビジネスパートナーのDanny Simsと共同でジャマイカに設立したレコード会社JADの著作権管理会社でした。
ボブが世界的なスターになった後も、Simsはケイマンとボブの間の契約はまだ有効だと主張し、ボブが作った曲から印税を得ようと画策していました。
当時は、ソングライターと音楽出版社が印税を半分ずつ分け合うのがジャマイカのミュージックビジネスにおける慣習だったそうです。
ケイマン=Simsに印税を半分持っていかれるのを嫌ったボブは、ケイマンと契約を結んでいない家族や友人をソングライターとしてクレジットすることによって(1)ケイマンに収益が一銭も流れないようにすると同時に(2)印税収入という形でお金を必要としていた家族や友人に資金援助したわけです。
賢いですね。そしてハートがある男です。
ジャマイカから世界へ
実際、今なお世界中で歌い継がれている名曲No Woman, No CryはアルバムNatty Dreadのリリースから一年と少し経った頃、欧米でメガヒットとなって莫大な印税をタタにもたらしました。
ボブの名前を世界に知らしめる大ヒットとなったのは1975年にリリースされたアルバムLive!からシングルカットされた大合唱で有名なロングバージョンです。
1975年ロンドンで録音されたこのライヴバージョンは、同年にイギリスのシングルスチャートで22位、オランダのTop 40チャートで23位を獲得しています。
1981年ボブの死後、再びチャートインして、イギリスのシングルスチャートで8位を記録しています。
バビロンは続く
ちなみにSimsは2012年に亡くなっていますが、ケイマン・ミュージックは今も存続しています。もちろんウエブサイトもあります。
サイト内のHistoryというページを見ると、より大きなチャンスを手にするためにIsland Recordsに移ってロックマーケットを開拓することをボブに許可したと書いてあります。もちろん何と書いても勝手なわけですが、明らかに自分たちを正当化するために事実をねじ曲げてます。
Babylonの手先だとボブが判断したのも無理ないよな~と思いました(個人の感想です)。
Babylon system is a vampire
バビロンシステムは吸血鬼なんだ
後日ボブはハッキリとそう歌ってます。ご一聴ください。
今回はストリート出身の苦労人ボブが知恵をひねって考え出した「悪を遠ざけ、弱きを助ける」一石二鳥のアイデアについて書いてみました。それじゃまた~