
それでも山に行く理由 vol.35 本当の宝物 Rossの町角で。
10:04
閉まったままの
Ross Village Bakery の前で、
スマートフォンを開き、
お店のことを調べてみる。
なんとも惨めな話だけれど、
仕方がない。
調べてみると、
このお店は『魔女の宅急便』を
真似して造られたわけではなかった。
もともと建物や店の雰囲気が、
映画の世界によく似ていたらしい。
そのことを日本から訪れた人たちに
何度も教えられ、
店主自身も驚いたという。
その後、
併設されている宿泊施設
Ross Bakery Inn の一室を、
キキが暮らしていた部屋を
イメージした内装にしたそうだ。
なるほど。
私が思っていたのとは逆だった。
てっきり、
映画の制作側が
この店をモデルにしたのだと
思い込んでいた。
つまり、
偶然が、
このパン屋と映画を
結び付けたのだ。
素敵なのは、
パン屋だけではない。
この町全体が、
まるで一つのテーマパークだった。
私の頭に浮かんだのは、
シルバニアファミリー。
小さな動物たちが暮らす、
あの絵本のような世界だ。
広い道路の両側には、
大きな街路樹が並ぶ。
季節は秋。
黄色く色づいた葉が、
緑の芝生へと静かに舞い落ちていく。
その奥には、
木造や石造りの
可愛らしい西洋建築が、
ゆったりとした間隔で並んでいた。
手作りの木工雑貨店。
ウール製品の博物館。
世界で一番かわいいんじゃないかと
思ってしまう郵便局。
道路の突き当たりには、
大砲とライフルを携えた人物像と、
小さな記念碑が静かに立っている。
もちろん、
すべてが絵本のような店ばかりではない。
ガレージセールのような店もある。
TREASURE(宝物) と書かれたワゴンには、
色とりどりのアクセサリーが並んでいた。
どれでも 5ドル。
宝物にしては、
ずいぶん安い。
だけど、
本当の宝物というものは、
案外、プライスレスなのかもしれない。
私がこの町で見つけた
一番の宝物は、
そこではなかった。
それは、
普通の民家の勝手口だった。
思わず立ち止まってしまうほど、
美しかった。
深まる秋のRossで、
私は、
本当の宝物を見つけた気がした。
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