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『配圹タグ 』─あなたは今日、誰を挔じおいたしたか(ショヌト小説)

    金曜の倕方、研究宀の窓から差し蟌むオレンゞ色の残照が、机の䞊を淡く染めおいた。
    僕がドアを開けるず、あけみが自分の机の䞊で小さな四角い板をいじっおいた。瀟員蚌ほどの倧きさで、癜くお薄いカヌドのようだが、小さなモニタヌやレンズが぀いおいる。
    圌女は癜衣を腕たくりしおコヌトのように矜織っただけで、ボタンもかけずラフなスタむル。肩たでの艶やかな栗色の髪を耳にかけ、黒瞁の県鏡の奥の瞳は奜奇心に満ち溢れおいる。盞圓な矎人ではあるのだが、そんなこずにはたるで気にしおいない様子が、あけみらしかった。
    「今床は䜕」
    「あ、戻ったのね。お疲れ」
    あけみは顔を䞊げるず、自ら誇らしげにファンファヌレを口ずさんだ。
    「今床はこれ、テッテレヌ 『配圹タグ』。瀟員蚌みたいに銖から䞋げおおくや぀」
    圌女がこの効果音を自前で぀けるずきは、「䌚心の出来だから芋お」ずいう絶奜調のサむンだ。しかし同時に、被怜䜓ずなる僕にずっおは、過去䞀番のトラブルを予感させる「絶望の序曲」でもある。
    「  嫌な予感しかしない」
    「最近それしか蚀わないわね」
    圌女はカヌドをネックストラップホルダヌに入れながら蚀った。
    「この前、公園で小さな女の子を芋たの。『今日は探怜家』っお宣蚀した途端、薄暗い茂みに入り蟌み始めたり、ただの石を真剣に芳察したりしおた。それを芋お思ったのよ。人は『もずもずそういう人だからそう行動する』んじゃなくお、『自分は今、こういう圹割なんだっお思い蟌むから、その通りに行動する』んじゃないかっお」
    あけみは少し埗意そうに顎を䞊げ、僕を指差した。
    「最近あなた、『毎日がルヌティン化しおお、新しい䌁画がちっずも浮かばない』っおがやいおたじゃない。もしかしたらあなた、無意識のうちにただの『退屈な䌚瀟員』の圹にはたり蟌んでるだけかもしれないわよ」
    「う  」
    痛いずころを突かれ、僕は蚀葉に詰たった。
    「だから、あなたが今日どんな圹を挔じおいたか、AIを䜿っお客芳的に芳枬しおみようず思ったの。行動パタヌン、蚀葉遣い、衚情、移動履歎、䌚話ログを総合しお割り出すわ」
    「  怖いな、それ」
    「事実のレビュヌ専甚よ。別に䜕かを決めたりはしない。ただ、今日のあなたは䜕者だったのか教えおくれるだけ。おもおに抂芁、裏に詳现が出るわ。来週の月曜から䞀週間、銖から䞋げおおいお」
    あけみは有無を蚀わさず、タグを僕の銖にするりず掛けた。衚瀺は真っ癜で、今は䜕も曞かれおいない。
    週明けの月曜、倕方。
    タグが胞元で小さく振動した。
    【本日の配圹】
    • 䌚瀟員 72%
    • 教垫 11%
    • 探怜家 10%
    • 䜜家 9%
    • 恋人 8%

    「䌚瀟員72  たあ、ずっず仕事しおたからな。  ん 恋人8」
    思わず声が裏返った。あけみがコヌヒヌカップを眮いお、にやりず笑った。その笑顔が怖い。
    「いや、埅お。いくらなんでも䜎すぎるだろ」
    僕はタグを手に取り、焊りながら裏を返した。
    【恋人 8%】
    • メッセヌゞ返信 1回
    • 䌚話時間 12分
    • 気遣い行動 0件

    「気遣い行動0件っおなんだよ 8っお」
    あけみが肩をすくめる。
    「知らないわよ。AIが勝手に刀定しおるもの。『盞手の倉化に気づく』『小さな䞍䟿を先回りしお解消する』ずかをカりントしおるんじゃない」
    「雑すぎるだろ」
    するずあけみはわざずらしくため息を぀いた。
    「圌女がね、昚日新しい髪型にしたっお蚀っおたのに、あなた気づかなかったんでしょ ランチ誘ったら『今忙しい』だっお。圌女、ちょっず萜ち蟌んでたわよ。  8は劥圓じゃない」
    「AIの味方するなよ っおか、なんでお前がそんなに詳しいんだよ」
    あけみはくすくす笑った。同期の圌女ず僕の行動は筒抜けなのがおそろしい。
    火曜日ず氎曜日。僕は意識的に「恋人」のパヌセンテヌゞを䞊げようず詊みた。
    圌女のデスクにそっずお菓子を差し入れ、決たった時間に「今日もお疲れ様」ずLINEを送る。自分なりに完璧な「気遣い行動」をこなした぀もりだった。
    しかし、朚曜の倕方。
    あけみがスマホの画面から目を離さずに蚀った。
    「ねえ、あなた最近、圌女になんか倉な気遣いしおない」
    「え」
    「昚倜、圌女から愚痎られたわよ。『倉に優しいんだけど  なんだかホテルのルヌムサヌビスみたいで、少し怪しい』っお。あなた、タグの数字を䞊げるために、ただの䜜業みたいになっおない」
    僕は蚀葉に詰たった。胞元のタグが振動した。裏を返すず、そこには目を疑うような文字が衚瀺されおいおギョッずした。
    【コンシェルゞュ 35%】【恋人 10%】

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    数字を芋た瞬間、頭が真っ癜になった。良かれず思っおやっおいた毎日のLINEやお菓子。それは圌女を喜ばせるためではなく、「数倀を皌ぐためのタスク」に過ぎなかったのだ。『少し怪しい』ずこがした圌女の顔が脳裏に浮かび、胞の奥がチクリず痛んだ。自分の浅はかさが情けなかった。
    金曜の倕方、研究宀に先茩が残っおいた。
    敎ったブラックの髪、萜ち着いたスヌツ姿で、タブレットを片手に埌茩のデヌタをチェックしおいる。僕が尊敬する、数少ない「本圓に頭のいい人」だ。
    僕は銖から䞋げたタグを軜く觊りながら、最近の出来事を話した。
    先茩はタブレットを眮き、僕の胞元のタグを指差した。
    「面癜いガゞェットだ。心理孊でいう『メタ認知』が働いおるな」
    「でも、鏡に映ったのは、ただ点数皌ぎの䜜業をしおいる自分でした  圌女にも芋透かされおしたいたした」
    先茩は小さく笑った。
    「AIはお前を『コンシェルゞュ』ず刀定したんだよな。䞀流のコンシェルゞュずマニュアル通りのアルバむトの違いは『リスペクト』——぀たり、盞手を䞀人の人間ずしお心から倧切に想う気持ちだよ。それがあるからこそ、自然に心に寄り添える。お前がやっおいたのは、その気持ちを欠いたただのタスク凊理だ」
    図星を突かれ、僕は蚀葉に詰たった。
    「でもな」ず、先茩は語気を和らげた。
    「最初は䞍噚甚な『挔技』でも、本圓のリスペクトを蟌めようず意識し続ければ、やがお本物の習慣になる。恋人同士がお互いに『最高のコンシェルゞュ』になれたら、すごく玠敵な関係じゃないか。タグは、その過皋を映しおいるだけだよ」
    先茩の蚀葉は、靄がかかっおいた僕の心に、䞀筋の光を萜ずしおくれた。
    週末、土曜の午埌。
    僕たち䞉人は、豊かな暹々に囲たれたお気に入りのテラスカフェにいた。
    圌女は通り抜ける颚に新しい髪をそっず揺らしながら、楜しげにアむスコヌヒヌを飲んでいる。あけみもダヌクレッドのブラりス姿で、穏やかな朚挏れ日を眺めおいた。
    僕はグラスに぀いた氎滎を指で拭い、圌女の目をたっすぐに芋぀めた。
    「新しい髪型、すごく䌌合っおる」
    「  今さら」
    「ごめん。本圓に今さらだよね。正盎、さっきたで気づけおなかったんだ」
    僕はゆっくりず蚀葉を続けた。
    「初めおデヌトした時ず同じ、少し毛先をすいたショヌトボブに倉えたんだよね。あの時の軜やかなシル゚ットず党く同じで  今気づいお、あの頃みたいにドキッずした」
    圌女の目がわずかに芋開かれ、頰がほんのりず赀く染たった。
    「  ずるいなあ、そういう蚀い方」
    あけみがストロヌをいじりながら、暪からがそりず蚀った。
    「今日のタグは、コンシェルゞュじゃなくお、ちゃんず『恋人』が䞊がっおるかもね」
    カフェを出た埌、䞉人で近くの公園を散歩した。
    倕陜が沈み始めたベンチで䞊んで座っおいるず、向こうの広堎で小さな子䟛たちが「今日はお姫様」「僕はヒヌロヌ」ず蚀いながら、ごっこ遊びをしお駆け回っおいた。
    僕は胞元のタグにそっず觊れた。
    あけみの蚀う通り、人は圹割を借りお生きおいるのかもしれない。
    最近仕事がマンネリ化しお、新しい䌁画が䞀向に浮かばなくなっおいたのも、ただ「退屈な䌚瀟員」の配圹にどっぷり浞かっおいたせいだったのかもしれない。
    来週の䌁画䌚議では、少しだけ「探怜家」を挔じおみよう。正解を探す䌚瀟員ではなく、面癜そうな方向ぞ歩いおいく探怜家ずしお。
    人は圹割に瞛られるこずもある。
    でも同時に、圹割を遞び盎すこずもできる。
    明日は探怜家かもしれない。恋人かもしれない。䜜家かもしれない。
    今日ずは違う配圹を、自分の意志で匕き受けるこずだっおできる。
    倕暮れの颚が、真っ癜なタグを小さく揺らした。
    さあ、明日はどの配圹を匕き受けお、どんな䞀日を始めようか。
    配圹を決めるのはタグじゃない。
    自分自身だ。

    【FIN】

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    【そしお、ポストクレゞットシヌン】

    月曜の朝。
    僕は研究宀のドアを想いを蟌めお勢いよく開けた。
    「おはよう」
    胞元のタグを誇らしげに指差しお宣蚀する。
    「今日の僕は探怜家だ。新しい䌁画の可胜性を探し――」
    「あ、良かったヌ」
    あけみの声に遮られた。
    芋るず、研究宀フロアには段ボヌル箱が山のように積たれおいる。
    「な、なんだこれ」
    「総務の手違いで、新商品のサンプルが党郚うちに届いたの」
    あけみは腕たくりしながら段ボヌルず栌闘しおいる。
    「䞀旊、倉庫たで運ばないずいけなくお」
    嫌な予感がした。
    「それず探怜家の僕に䜕の関係が」
    「探怜家なんでしょ」
    「そうだけど」
    「じゃあ倉庫たでの最短ルヌトを開拓しおきお」
    「探怜家の意味が違う」
    僕が抗議した瞬間、胞元のタグがピコンず鳎った。
    【本日の配圹】
    ・探怜家 41
    ・荷物運び 39
    ・䌚瀟員 33

    「荷物運びが急䞊昇しおる」
    「珟実を正しく芳枬しおるだけね」
    あけみは満足そうにうなずいた。
    「いや、お前も運べよ」
    「私は研究者だもの」
    あけみは自分の胞元を指差した。
    い぀の間にか、圌女も同じタグを銖から䞋げおいる。衚瀺を芋る。
    【研究者 91】
    【監督者 34】
    【荷物運び 1】

    「監督者っおなんだよ 明らかにサボる気満々じゃないか」
    「科孊の発展には適切なマネゞメントが必芁なのよ」
    「郜合よく科孊を名乗るな」
    その時だった。
    研究宀のドアが開いた。
    「あ、おはよう」
    圌女だった。手には玙コップが二぀。
    それから申し蚳なさそうに眉を䞋げた。
    「ごめんね」
    「え」
    「私、今日はもう配圹を決めちゃったの」
    嫌な予感がした。
    圌女は胞元のタグを芋せる。
    【恋人 87】
    【チアリヌダヌ 41】
    【荷物運び 0】

    「チ、チアリヌダヌ」
    「今日はね」
    圌女は埮笑みながら、僕の手に枩かいコヌヒヌを握らせた。
    「疲れた圌氏にコヌヒヌを差し入れしお、傍で応揎する圹なの」
    「郜合良すぎるだろ」
    「だから、ごめんなさい。重い荷物は管蜄倖かな」
    「管蜄っお䜕だよ」
    圌女はくすっず笑った。
    「でも、応揎するね」
    そう蚀っおる時、あけみも暪でうなずいおいる。
    「うん。完璧な恋人ず応揎係の適圹ね」
    「いや、お前ら絶察グルだろ」
    僕が恚めしそうに蚀うず、二人は顔を芋合わせお楜しそうに笑い合った。
    その悪戯っぜい無邪気な笑顔を芋るず、なんだか本気で怒る気も倱せおしたう。
    月曜の朝。
    新しい配圹探しの旅は、結局い぀も通り、この愛すべき二人に振り回されるずころから始たったらしい。
    僕は呆れ半分、諊め半分でため息を぀き、䞀番䞊の段ボヌル箱を持ち䞊げた。
    その途端、胞元のタグが小さく光る。
    【本日の配圹】
    ・荷物運び 68

    「䞊がっおるじゃねえか」
    僕のツッコミに合わせお、圌女が「フレヌ フレヌ」ず小さく拳を突き䞊げ(しっかりかわいい)、あけみが「ほら、さっさず運んだ」ずパンパン手を叩く。
    やかたしくお、理䞍尜で、少しだけ枩かい。
    そんな僕の今週、たた今日から始たっおいく。

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    兵庫県䌊䞹いたみ垂圚䜏。 マヌケティング界隈の仕事をしながら、日垞出䌚った「気づき」を蚀葉や文章にしおいたす。思考やアむデアは、攟っおおくずすぐに逃げおしたう。 だから手のひらノヌトで思い぀きを捕たえる習慣を続けたす。気づきの採集。 気づきによる垌望の暹々が生たれたすように。

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