
【ショートショート】先輩曰く、世の中は、あの動物に似ている(973文字)
「いいか、世の中ってのはな、パンダみたいなものなんだ」
蕎麦屋の席に着くや否や、先輩は湯呑みを手にしながら言った。
「パンダって、レッサーじゃなくて、あの白黒のですか?」
「そうだよ。じゃあ、慰安とパンダにちなんで、せっかくだから“竹”を食べよう」
今月いっぱいで会社を辞め、故郷に帰ることを打ち明けたところ、教育係だった先輩が昼食に誘ってくれたのだ。いつもは“梅”の昼定食だが、今日は“竹”をご馳走してくれるという。
「世の中もパンダもな、お前が思うほどキレイじゃない。どちらも期待よりちょっと薄汚れているもんだ。意外と白黒はっきりしない」
先輩は、店員を呼び止めて「竹定食ふたつ」と告げ、こちらを向き直る。
「だから仕事なんてさ、カンカン照りの日も、シンシンと雪の降る日も、ドロにまみれて転がり回ってればいいのさ。な、パンダみたいだろ?」
「はあ……かわいげのある例えですね」
「だろ? そんな姿を“カワイイ”と思ってくれる人が世の中には案外いるんだ」
程なくして、テーブルに定食が届く。
先輩は、勢いよく箸を割り、湯気の立つ蕎麦をすすった。
「パンダは寝てばかりとも言うだろ。でもな、あれも仕事なんだ。体力ためて、竹を食う。お前も休む時はユウユウと休め」
「人生なんて、トータルすればトントンですしね」
「おっ、分かってきたな」
先輩の目がランランと輝く。
「最近は、お前みたいに“ヒン”のある若いのも増えて、業界も賑やかだったんだけどな……。そんな奴らも次々いなくなって、ほんと寂しいよ。もう、残るのはウエノ連中だけか……。絶滅危惧種だな」
「ちゅうか、そんなこと言ってると冷めますよ。ササっと食べチャイナってね!」
「お、生意気なこと言うじゃねえか。うちに来た頃には15センチくらいだったクセに」
「それ、生まれたてのパンダのサイズです! 面白くないですよ!」
「おかしいな。パンダは“尾も白い”んだけどな」
繰り返されるダジャレの応酬に、俺はつい笑ってしまった。
「ずっと“不安不安”だったんですが、先輩のおかげで新たな生活に立ち向かう勇気がリンリンと湧いてきました!」
「でもな、調子に乗って舐めてかかるとケガするから、そこは気をつけろ。パンダも世の中も、時には牙をむく」
最後にそう言った先輩の目は、思ったより鋭かった。
そう、まるでパンダみたいに。
(了)
お読みいただきありがとうございます。
スキ、フォロー、コメントなどしていただけたら嬉しいです。

ありがとうございます。

本作品を記事内にてご紹介いただきました。
ありがとうございました。