
小説「BUNBU!」第20話「けっしょう」(完結)
ここまで
文化祭前のギリギリに会誌は完成した。いよいよ、文化祭だ。
第20話「けっしょう」
ホントかウソか【晴れの特異日】というのがあるらしい。今のところ、ホントだと思った。驚くくらい雲がない。雲がないのに空が高い。新校舎の工事が始まった校庭の空は文芸部には眩しすぎた。
いつもの校舎は窓じゅうに飾りがつけられて、クラスの展示や模擬店の看板が賑やかだ。登校するみんなもワクワクした笑顔がはち切れそうになっている。
修学旅行先を調べた【水の町 加瀬・羽原】の展示が囲む中、クラスでのホームルームがあって、それぞれの担当の確認をしてから解散になった。みんな笑顔で散らばっていった。僕は、部室に向かった。
旧校舎の一階、ずっと奥の部室はお花紙で飾られて、本田さんと原田さんの力作「BUNBU!」と大きく書かれた看板があった。
腕章をつけた城戸さんが会誌を並べている。
「部長、おはよう、あれ?当番だった?」
「いや、違うけど、手が空いてるから様子見に来た」
「そう…。ねえ、来るかな?」
僕は装飾を眺めていた。
「ん?だれが?」
「会誌、欲しいって言った人、来なかったりして」
「だって予約分作っちゃったよ。来なきゃ困るよ」
「そうだよね」と言って笑っていた。城戸さんは会誌を一冊手に取って、パラパラとめくる。
少しページを見つめて、会誌を閉じた。
表紙、裏表紙を眺めて、小さく頷いて平積みに戻した。
「…できたんだね、本」
城戸さんは平積み表紙をポンっと叩く。
「じゃ、私は生徒会の方があるから、こっちはよろしくね」
「うん」
「あ、あと、受付の担当ちょっと変えた、勝手にごめんね」
そう言って行ってしまった。
トントンと肩をたたかれた。振り向くと石井くんがいた。
「受付、俺だよな…?」
「あ、そうだよね、石井くんだったよね、うん、あの、手が空いてたから…」
「そう…」
石井くんは受付に座って記帳ノートと予約票を出していた。
僕は廊下の窓から他の階の装飾をぼんやり眺めていた。
「おはようございます!あ、部長…あれ?」
振り向くと福田さんが立っていた。
「おはよう、あれ?あ、そうか城戸さんと代わったのか」
「城戸先輩が…生徒会の?あの、いそがしいじゃないですか…それで」
「う、うん、ありがとう、よろしくね」
福田さんはニコニコして受付に向かった。すれ違った時にいい匂いがした気がする。
僕は部室に入ってパネル展示を眺めた。
【皆さん、準備は進んでいますか。模擬店は、10時になったら販売してください。手洗いをして衛生に注意してください】
校内放送が流れた。
どこかの教室から流行りの音楽が聞こえてきた。
体育館のステージに向かう金管楽器の行列が見える。
ホットケーキみたいな甘い匂いも漂ってきた。
「あー!福ちゃーん!いたー!」
「きゃー!」
廊下が賑やかだ。
見るとブルーの校内履きの女子が何人か受付にいる。福田さんの友だちのようだった。
予約してくれてた子たちだった。引き換え券と交換して会誌をもらっている。
石井くんが女子に囲まれて、顔が固まっていた。そういえば、寝癖がなかった。気のせいか。
その子達がパネル展示を見に入ってきた。
「ねー!福ちゃんのどれー?」
「んーとね、奥のやつー」
そんなやりとりがあって、その子たちは福田さんのパネル展示を見ていた。
そうして、パタパタと出て行ってしまった。
その後も途切れることなく予約した生徒がやってきた。部室に入ったり、引き換えてそのままどこかに行ったり、よく考えると、去年と同じだった。
何が違うかといえば会誌の部数が多いことくらいか…。
僕はクラス展示の係もあったので教室に戻る。
途中で何人かの親や小さいきょうだいとすれ違った。
社会科研究のパネル展示なんか誰も見にこない…。誰だこんな企画考えたの…。100人中100人がそう思うくらいの静かさで、パネルで隠れた教室の半分はクラスの休憩所になっていた。
午後になり、文芸部の受付の番になった。このまま終わりまで担当する。もちろんその方がやりがいがある。
部室について目が点になった。
受付の机には【完売しました】とサインペンで書かれた紙が置いてあった。
本田さんと横山先輩が苦笑いしていた。
「あー、部長…えっとね、予約分みんな取りにきたのね、それで…」
横山先輩が頭をかきながら言う、そこに本田さんが続ける。
「すごい来て、私たちの分とか、先生に渡す分もとりあえず出しちゃったんです」
「あ、冨岡先生がね、いいから出しちゃえって…」
と横山先輩が続けた。
「それで、追加の予約をもらうことになって…これ」
手書きの予約票があった。
保護者からも注文が入っていて、数えると…。
「80部なんです…」
「そうなんだ…う、うん、また、来週考えよっか」
そう言って受付を交代して、一人で座っていた。
もう、予約を受けるだけだし作業もない。
部室にもだれもいない。ここだけ、静かだった。
体育館から大トリの吹奏楽部の演奏が漏れ聞こえる。誰もいない理由はこれだった。
でも、僕はここにいる方が好きだ。
何故だか性に合ってる気がする。
【変酋長】で構わない。
僕が書いた作品が誰に届くのかもわからない。
それでも僕が書いたことにはかわらない。
結晶は、残した。
きっと輝く、はず。
窓から見える空はやっぱり青くて、高かった。
おしまい