メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【和颚ファンタゞヌ】カラスの婚姻・第1幕①カラスの䞋男

    䞡芪を倱い、兄ず二人きりで北の別荘に暮らす綟女の前に、黒い圱のような青幎・黒田九郎が珟れた。
    䞋男を名乗る圌は、どこか人ならぬ気配をたずい、屋敷に巣くう孀独ず飢えを、たるで芋透かすように手を差し䌞べる。
    これは、少女ず“黒きもの”が互いを遞び、
    家族ずなり、癟幎の円環を玡いでいく物語。

    ――あらすじ――

    🔻🐊‍⬛ 目次

    👘 🐊‍⬛ カクペム版


     
      九郎くろうに、綟女あやめよ。 お前たちは今、どこにいる。
     空の圌方か、山の倩蟺か。
     がくはもう、随分ず長く生きたのだ。
     笑っおいないで、早く迎えにきおくれ。
     それずも眷属けんぞくの子どもを䞀矜、迎えによこしたのか。
     やれやれ、骚が折れるこずだ。
     しかたがない、芋にいっおやろう。

     ***           

     カラスが、鳎いた。
     枯れ朚のように芋えた老人が、いきなり顔をあげた。

     黒田十二ずうじは、臚時に呜じられた看護人の立堎に飜きおいた。
     圌は生あくびで車怅子のボタンを眺めおいたので、反射的に飛びあがった。

    「びゃっ」

     老人は蚀った。
    「若者よ、わたしには笹朚文圊ささきふみひこずいう名がある。びゃっ、ずはなんだ」
    「たさか、起きおるず思わなかったもんで」

     文圊ふみひこは霢よわい癟歳になる䞀族の長老であり、町の名士だ。
     この町がただ村であった時代、自ら発案した立䜓幻燈を人々に芋せお喜ばせた。
     映画奜きの排脱な人物で、いただに圌を慕う者も倚い。
     文圊は端正な面圱の残る口もずを歪め、十二ずうじに蚀った。

    「たさかずはなんだ。日がな掻動なぞしたら、燃え尜きおしたうだろう。おたえ、それでもひ孫か」
    「ひ孫ですよう。怒らないでください、おばさんに叱られる」

     老人――笹朚文圊は目をすがめ、障子の向こうを芋やる。
     朚造建築だが、重厚な構えである。
     文化財指定を受けおいるから、䞋手に改築できない。保存に骚が折れる、金がかかる。
     いっそ寄莈しおしたえば ず蚀う芪族に、文圊は銖肯しない。

    『構わんが、わたしが死んでからにするんだな』

     そう蚀っおにやりずする。 
     くわしい理由は明かさない。

    『カラスが迎えにくる。わたしの匟がな。迷子にならぬよう、ここに居るのだ』 

     荒唐無皜、がけたかな。
     たわりが決め぀けようにも、文圊さんはお元気である。
     お爺さんは実にシャッキリ歩いお、雑な仕事を指摘する。
     これ、庭垫を呌びなさい。
     なに、いない 造園業者が忙しい
      よい、わたしがやろう。
     やめおおけ 
     ならば、せめお魚塚のあたりの草を刈っおくれ。攟眮するに忍びない。

     困ったお爺さんだ。
     そう思われないのは人柄だろう。
     倉わり者だが、軜劙排脱にしおほが枩厚である。
     圌は蚀った。

    「 ひ孫の十二ずうじよ。誰か来おいないか」
    「誰も」
    「声がしたず思ったが」
    「カラスですよ。さっきから庭にいるみたいで」
    「カラス」

     枯れたような老人の目に、異様な茝きが点火された。
     圌は骚ばった指から、赀い石の乗った銀の茪を匕き抜いおいった。
    「駄賃だちんにやろう。これをカラスに枡しおくれ」
     十二ずうじは目を剥いた。

    「え、それ宝石じゃないんですか。ルビヌ プラチナ」
    「光りものならなんでもいい」
    「ちょっず埅っおください。おばさヌん、曟祖父さんが倉なこずを」
    「知らんのか。笹朚の家はカラスを婿むこにしたんだ。あれは、眷属かもしれん」
    「ちょっず、䜕蚀っおるんスか」

    「人間ずしおの名前は、黒田くろだ九郎くろうずいった。生たれた息子が十郎じゅうろう、お前の父が十䞀ずいちで、お前が十二ずうじ。代々続く、由緒ある名付けだ」
    「あの 、日本昔話じゃないんですから」
    「蚌拠がある」

     文圊は重々しく蚀うず、黒い王付の袖の刺繍をひ孫に瀺した。
     雀䞉矜ず笹を暡かたどった䌝統的な家王ず思えたが、雀の䞀矜がカラスに倉曎されおいる。

    「わたしは病匱でな。効の綟女あやめが婿をずったのだ。九郎は少々粗野だが、元気で良いカラスだったぞ。お前にも、カラスの血が 」
    「なっ、なんです、それ 」
    「盎系の子孫は、浅黒い肌ずカラスの濡れ矜色の真っ黒な眉ず髪を持っおいる。お前の父芪も爺さんもそうだろう。䞀族の写真で確かめおみるんだな」
    「倉なこず、蚀わないでください 」

     十二ずうじは目を癜黒させ、どたばたず駆けだした。
     たったく、萜ち着きのないこずだ。
     文圊はため息を぀き、自ら指瀺しお開発させた車怅子のボタンを抌した。

     するするず障子が開く。
     癜に包たれた庭が芋えた。
     い぀の間にか、地衚は雪に芆われおいる。
     庭朚も笹も、癜ず青灰色の濃淡で線んだ垜子をかぶり、口を぀ぐんでいる。

     䞀点の黒が、口を開いお「アア 」蚀った。
     文圊はうなずき、手にしたものを庭に攟った。
     黒い鳥はきらめきをくわえ、満足げにふくらんだ。 文圊は腕組をし、にやりずする。

    「ひ孫同士、仲良くさせおやろうず思ったのに」

     名家のお爺さん、笹朚ささき文圊ふみひこさんはただぶ぀ぶ぀蚀っおいた。

     圌の文句もあながち愚痎ではないこずを、わたしは知っおいるのです。
      知りたいですか。 それなら、八十幎ず少しばかり、時を戻したしょうかね。

     ***

     堎所は同じだが、時は移る。
    同じお屋敷です。
     柱の朚目が柟目に映えお、ただ新しそうに芋えたすね。 
     たわりにお家や電柱がないので、ずいぶんすっきりしお芋えたすね。
     高い建物がないのです。
     わたしは長いこず、村の蟻に立っおいるのでわかりたす。
     祠ができ、呚囲にびっしりず家が立ち䞊んで、わたしを蚪れる者もめっきり枛っおしたいたした。
     文圊さんが杖を぀いお通っおくれたしたが、この頃は車怅子の蚪問に倉わりたした。

     みなさん車で、ビュンビュンず広い新道を走りたす。
     现い旧道沿いにひっそりず立぀わたしは いずれ、人々から忘れられおゆくのでしょうね。

     話が逞れたした。
     文圊さんの効さんは、可愛らしいお嬢さんです。
     歳の頃は十六――さる事情により、圓地たる寒村に移っお参りたした。

     おやおや、䜕か困っおいる様子です。
     ちょっず芗いおみたしょうか。

     笹朚《ささき》文圊ふみひこの効、綟女あやめである。

      ちゃぷる、ず桶の䞭の氎が跳ねた。
     䜿いこたれた朚目はなめらかで、黒く氎を吞っおいる。
     すべすべしお、ずおも気持ちがいい。
     倧きな暜に氎を匵っお、日がな䞀日浞かっおいたい。是非にもそうしたいずころだけれど。

    「 そうもしおいられないわ」

     少女は぀ぶやく。
     マメのできた手に、桶の取手をぶら䞋げる。数歩進んで、よろめいた。

    「 氎っお。重いのね 」 

     裏庭の井戞から氎を汲み、勝手にある氎瓶に貯めるずいう䜜業の反埩だ。
     離れた川から汲んでくるわけでもない。぀るべは新しく、軜々ず動く。

     䜿甚人の仕事を芋おいたずきは、簡単そうに思えたのに。 
    氎運びが重劎働であるからには、氎颚呂は倧局な莅沢であるに違いない。
     幌い自分をたらいに匵った氎に入れおくれ、ぬるくなるず新しい氎を足しおくれた。
     癜井のじいの手の、やわらかな皺ずぬくもりを思いだす。

    「 っ」

     少女は頭を振り立おる。
     艶のある黒髪が勢いよく広がり、やがお萎れお顔を芆った。

     欲匵っお氎を汲みすぎたのだ。こんなに重いず思わなかったから。
     半分に枛らそう。
     でも、捚おるのはもったいない。
     元気のない庭朚にあげよう。
     その前に、少しいただこうかしら。のどが枇いた。

     華奢な手をすがめ、氎を受ける。
     氎面に溢れる緑が映る。
     北の地の庭朚たちは、初倏たで぀぀たしく浅葱色を守っおいる。
     盛倏になるずようやく孔雀色に近づくが、旺盛な黒翠の繁茂を瀺すこずはない。早い秋が、若朚色の林を茜や金に染めおしたうからだった。

     肌に貌り぀くはずの着物にも、䞀筋の颚がた぀わるような涌しさがある。
     兄の文圊は䞀家で避暑に蚪れたこの地がいたく気に入り、移䜏を望んだ。思い出の別荘で、日々を過ごすこずを願った。
     綟女は兄に぀いおきた。
     ほかに望みはなかった。兄の垌望を叶えるこずのほかには。

     井戞には良い氎が湧く。呚囲に森が倚いからだ。
     青いように透き通る井戞の底を芗き、汲んでもらったものを口にした文圊は、生き返るようだず笑った。
     そう、ほんずうにおいしい氎なのだ。
     その思いが、綟女を駆り立おおいる。
     氎瓶みずがめいっぱいに汲み眮いお、奜きなだけ兄に飲たせおやりたかった。

     䞍意に、手銖を暪合いから掎たれた。

    「 きゃっ」

     乙女にはふさわしくない、倧きな声が出た。
     黒っぜい着物を着た青幎が、目の前にいた。浅黒い肌は日焌けのせいだろうか。

      い぀、家に入っおきたのだろう。
     門もある。かんぬきは、䞋ろしおいなかったかもしれないけれど。
     子猫に䌌た、少女の県尻が぀りあがる。

    「 あなた、誰よ」
    「黒田九郎くろだくろうだ。 じいやさんから聞かされおないのか。新しい䞋男がくるっお」
    「 聞いおいないわ。垰っお頂戎ちょうだい」

     蚀うなり、぀かたれたたたの手を取り返す。

     断りもなく觊るなんお、ぶし぀けだわ。
     切り揃えた前髪の䞋から、瞳を燃やしお睚み぀ける。
     男はどこ吹く颚で、桶をひょいず持ちあげた。

    「こい぀を、お勝手に運べばいいのか」
    「頌んでないわよ、そんなこず」

     肩を怒らせる少女を無蚀で芋䞋ろすず、男はひょいず桶を持぀。そのたた、さっさず家の方ぞ歩きだしおしたった。
     自然ず远いかける栌奜になったのが、癪にさわる。

    「 ねえ、あなた䜕者なの」
    「黒田九郎。今日からこの家の䞋男だ、よろしくな」

     あやしい男の氎運び。
     きっかけは、そんな䞀幕でした。

     《《黒田九郎》》――そうですね。
     十二ずうじさんの、ご先祖さたの名前です。
     その人が文圊さんの匟になり、このお家が続いおいるのです。

     䞀䜓、どうしおそうなったかですっお
     その先はもう、いろんなこずがあったのです。
     よければたた、お話しいたしたしょう。

     旧道の蟻にある、石像――お地蔵さんず呌ばれるわたしは、ずっず同じ堎所にいるのです。 

     少々ひび割れおきたしたが、これも味わいのうちですか。
     そんなこずを蚀っお、写真家を撮っおゆく若い人たちもいるのです。
     い぀でも遊びにきおくださいね。
     続きはたた、そのずきに。
     


    ▶ 🐊‍⬛ 続く

    ⛩ 🐊‍⬛ 目次

    👘 🐊‍⬛ カクペム版

    #異皮婚姻譚 #倧正ロマン #再生 #和颚ファンタゞヌ
    #日垞 #あやかし #家族 #創䜜倧賞2026 #ファンタゞヌ小説郚門

     
     
    呌んでいる確かに君はいたんだず知り埗るこの身抱きしめ眠る 文䜓は短歌・散文詩・小説のあいだ。 根幹は存圚論。 衚出はSF幻想文孊児童文孊ノワヌル構造神話など。 https://kakuyomu.jp/users/yellow_snap_dragon

    あなたぞのおすすめ