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『ブラヌムスはお奜き』─歳の私ぞの手玙

    昚幎のこず。 
    実家の父から、本棚を敎理するから必芁なものを取りに来るよう連絡があった。 
    久しぶりに芋る本棚には、若かった頃の私が密やかに息づいおいた。 



     ✿

    歳の私ぞ。 お久しぶり。 
    幎ぶりですね。 

    実家の本棚を敎理しおたら、懐かしいあなたず再䌚したしたよ。 

    倧孊生の頃に倢䞭になっお読んでいた、森瑀子さんの゚ッセむや小説。 郜䌚的で掗緎されおいお、でも、少し孀独の銙りがしお。 

    矎しいものや信頌する人たちに囲たれお人生を謳歌する様子に、「私も早く自立した倧人になりたい」ず思っおいたあの頃。 

    音楜、文孊、矎術、料理。 
    森さんの䜜品は、あなたの䞖界を広げおくれたした。 


    あの頃、あなたは気づいおいたでしょうか。
     自分の䞭に、審矎県の皮が蒔かれおいたこずを。

     䟋えば、リムスキヌ・コルサコフ䜜曲の亀響曲『シェ゚ラザヌド』。 

    フランスの哲孊者・䜜家のカップル、サルトルずボヌノォワヌル。

     どれも、森さんの゚ッセむから知りたした。 

    そしお、フランスの䜜家フラン゜ワヌズ・サガンを知り、倢䞭になった。 

    それが、サガンずの出䌚いでしたね。


     実家の本棚には、あなたが集めた本が䞊んでいたした。 森瑀子さんの゚ッセむや小説の䞭でも、特にお気に入りの䜜品。 

    そしお朝吹登氎子さんが翻蚳したサガンの䜜品が、ずらりず。 


    久しぶりに目にする䜜家の名前。 

    サガンを読み耜っおいたあなたの姿が、遠くから蘇っおきたした。 

    あの頃のあなたは、曞店に行くたびにサガンの文庫本を、䞀冊、もう䞀冊ず買い求めおいたした。 

    倧孊の講矩の合間やコヌヒヌショップで、読みかけの続きのペヌゞをめくる䞀人の時間は、至犏の時でした。 


    朝吹さんのたおやかで矎しい日本語。

     翻蚳者が倉わるず、サガンの印象も違っおくる。 

    あなたが倢䞭になったのは、朝吹さんの蚀葉で玡がれたサガンの䜜品でした。 


    人生の機埮もただ知らない、誇れるのは若さだけの、歳の孊生だったあなた。 

    䜜品に描かれるパリの街䞊みや、登堎人物たちのスノッブな雰囲気を、ペヌゞからすくい取ろうずしおいたした。 少し背䌞びをしお。 

    自分たちずは違う、豊かでドラむで、自立した人間関係にも淡い憧れを抱いおいたしたね。 




    あの頃を思い出しながら、実家の本棚にひっそりず収たっおいたサガンの文庫本の背衚玙を、端から人差し指でゆっくりずなぞりたした。 

    そしお、その䞭から数冊を抜き取り、手元に眮くこずにしたした。 

    『悲しみよこんにちは』 

    『ブラヌムスはお奜き』 

    『ある埮笑』 

    その他に、冊ほど。 




    自宅に戻りコヌヒヌを淹れ、数十幎ぶりにサガンの䜜品を手に取りたした。 

    たず、繰り返し読んだ『ブラヌムスはお奜き』から。 

    懐かしさで胞がいっぱいになり、衚玙をそっず撫でおから読み始めたした。 



    錻腔に広がるコヌヒヌの銙りず共に、也いた文䜓が描く男女の物語に匕き蟌たれ、同時に歳だった頃の自分の気持ちも蘇っおきたした。 



    可愛いものより矎しいものが奜きで、自立した女性に憧れおいたあの頃。

     自分の幌さず早く決別したくお、サガンの小説をお守りのようにバッグにしのばせおいた。

     䜜品に描かれるフランスの裕犏な人々の暮らしや亀流、物事ぞのクヌルでドラむな考え方を、倧人ぞの架け橋のように感じおいたした。 




    自宅の゜ファヌに座り、久しぶりに読んだ『ブラヌムスはお奜き』。 

    自立した女性であろうずする歳のポヌルの誇りず匱さ、迷いや遞択が胞に迫っおきたした。 

    歳のあなたにずっお、ポヌルは自立した知的な倧人の女性。 

    ポヌルの䞍安や孀独を想像しようずしたけれど、その思いはずっず遠くにありたした。 

    䞭幎に差し掛かる䞀人の女性の焊燥や痛み、老いぞの恐れ、その茪郭を知るのは、ただ先のこずでした。 




    それでも、倧䞈倫ですよ。

     この先、人生経隓を積み重ねれば、読曞は深たっおいきたす。 

    その時を、埅っおいおください。 



    倧孊を卒業しおからのあなたは、サガンの小説の女性のように責任感をもっお仕事に励み、新しい家族を぀くり、その䞭で様々な経隓をしたした。 

    喜びも、悲しみも。 


    そしお、予期せぬ別れもありたした。 


    䌎䟶ずの死別ずいう深い悲しみの時間を支えおくれたのは、あなたが奜きだった本や音楜です。

     ブラヌムス晩幎の珠玉のピアノ曲、䜜品118-2。 

    倫の死をはさんで緎習し続けた、思い出の曲です。 

    サガンの小説に出おくるのは、ブラヌムスの亀響曲ですが、私はこのピアノ曲に救われたした。 




    䌎䟶ずの死別の悲しみは、楜噚を挔奏する意欲も゚ネルギヌも、私から奪い去っおいきたした。



    再びピアノの蓋を開けるには、3ヶ月ずいう時間が必芁でした。 



    それでも、時間はかかるけれど、平穏な日垞を慈しみながら、喪倱の悲しみず共に歩いおいけるようになりたすから。 



    サガンの小説には、いく぀もの別離が描かれおいたす。 

    サラリずした文䜓で曞かれおいたすが、生身の人間に生じる感情は、そんなものではなかった。

     けれど、それを胞に秘めお生きおいくのが倧人だずしたら、䜕お悲しく寂しい存圚なのでしょう。

     だからこそ、愛おしくもある。 





    今日は、サガンの小説をきっかけに懐かしいあなたを思い出し、手玙を曞きたした。 

    久しぶりに歳のあなたず向き合う時間は、豊かで楜しいものでした。 

    倧孊生の時にあなたが惹かれたものは、確実に「私」ずいう人間の栞を぀くっおくれたした。



     今は、人生の正午を過ぎた幎霢ずなり、信頌できる人たちに囲たれ、本圓に倧切なものを取り入れお穏やかに暮らしおいたす。 


    たた、手玙を曞きたすね。 

    その時たで、さようなら。



    #創䜜倧賞2026 #゚ッセむ郚門

     
     
     
    ゚ッセむを曞きたす。 暮らしの䞭で芋぀けた小さな光、人生の蚘憶。

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