
モーントの光 第2章 片月
遠くで銃声が聞こえ、人々の泣き叫ぶ声が聞こえる
自分の知っている街はもはや跡形もなく
ただひたすらに見えるものを見えないふりして
ただまっすぐ走るしかできなかった
どこを目指してるか自分でも分からないまま
走って走って、もう息もうまくできなくなり、地面に膝をついた
「はぁはぁはぁ・・ここは・・」
周りをよく見るとハルとよく遊んでいる裏山だった
この先に、二人が秘密基地にしている洞窟がある
洞窟の中は静かで、暗闇が広がっていた
壁にゆっくりと腰掛ける
やっと一息つくことができた
目を閉じて深呼吸をする
目を開けて自分の手が震えていることに気づく
傷だらけで、ところどころ火傷もしている
それが、さっきまでの光景が現実であることを突きつけてくる
自分は、母親を置いて逃げてきてしまった
街中を走ってる間も、助けを求めている人の声を全て無視して
どうしたら、よかったんだ
自分は逃げることしかできなかった
「・・ハルは?」
急に血の気が引いた
ハルまでいなくなってしまったら、本当に自分はひとりぼっちになってしまう
街にまた戻ろうと洞窟を出ようと思った、が
足が震えて立ち上がることもできない
なんて、こんなに自分は臆病なんだ
月明かりだけが自分を照らしていた
「これは、走馬灯・・?
あぁ、俺はあの日から選択を間違えてたんだ
あの日母さんと一緒に死んでたら
そしたら、ハルをあんなふうに・・」
「後悔してる?」
声がする、初めて聞く声なのに懐かしいような不思議な声
「あぁ、何もかも。俺は、一体何の為にこの世界に生まれてきたんだろう。
こんな苦しいだけの人生に何の意味があったんだ・・」
「人は常に、自らの意思で選択をしている。それなのに、なぜ後悔するの?」
「何で何だろうな。マルクには、覚悟があった。どんな結末になってもきっとあいつは、後悔しないんだろうな・・。
俺は、結局、覚悟が足りなかったんだ。選んだ先の未来を背負う覚悟が・・
ハルには、あんな道を選んで欲しくなかった」
ハルに人を殺させてしまったこと
ハルにあんな顔をさせてしまったこと
そして何より、望まない死を選ばせてしまったこと
「もう一度、選び直すことができたら、未来は変わると思う?」
「自分が変わるしかないんだ・・違う選択肢を選べる自分にならないと
きっと何度繰り返しても変わらない」
「あなたは、変われる?」
変わること・・
10歳の自分は逃げ出した。
あれから10年間どんな環境でもハルとの約束だけを心の支えに生きてきた
間違った選択をしたと思った時もあった。
自国の人間にどんなに貶されても、それでも生きることだけは諦めなかった
でも、きっと向き合うということから逃げていたんだと思う
ハルとちゃんと向き合って話したのはいつが最後だったんだろう
俺はきっとあの日から何も変わってなかったんだ
「人は、すぐには変われない・・それでも、あの未来だけは変えないといけない」
海の覚悟を決めた目
その海の覚悟に反応したように声が強くなる
「あなたが選び直す未来を見たくなった。
人は変われるのか、その先に何があるのか」
「お前は何なんだ。神様ってやつ?」
「私は、ただあなたたちを見守る存在。長い間ずっと見てきた。
人間の繁栄も、繰り返される過ちも」
「人は愚かだな」
「選んで。もう一度、選び直す?」
「俺は、どんなことになろうと、今度こそハルを助ける」
月の光が、海を包み込んだ