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化粧のあとに⑪エピローグ

    ホテルの鏡に、素顔があった。

    白粉も、紅も、ない。ただの顔だ。

    水を掬って、顔を洗った。

    早朝のお初天神に、人はほとんどいなかった。

    商店街のアーケードはシャッターが閉まっている。車の音も聞こえない。

    頭上には聳えるビルの谷間に青空が見える。参拝者は、数人の女性だけだった。

    参道の入口に、アニメ風のお初と徳兵衛が立っている。両側にはハート型の絵馬が並んでいる。

    奥に、青銅像があった。二人が座っている。

    像の前に立った。

    二人の手は、重なっている。

    その手に、手を伸ばしかけて、やめた。

    誰も来なかった。

    頬に風が触れる。まだ何も塗っていない頬だった。

    カチャカチャ。

    風に揺れて絵馬が鳴った。

    九月、この芝居をやる。

    その日、この頬にふたたび白粉をのせる。

    シャッターの閉まった商店街を抜けて、駅へ向かった。素顔の頬に朝の風が当たり、絵馬の音が、しばらく背中に残っていた。

    #創作大賞2026
    #オールカテゴリ部門


     
     
    2005年、岐阜県郡上市の小さな山里で地芝居を復活させた「気良歌舞伎(けらかぶき)」です。素人が本気で舞台に立ち、次世代へと伝えていきます。 新たな取り組みとしてNFTや海外発信にも挑戦中。

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