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化粧のあずに③華やぎの祇園――䞃段目の倧星由良之助


    『仮名手本忠臣蔵』䞃段目「祇園䞀力茶屋の堎」を蚪ねお

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    祇園䞀力亭の門

    叀郜の華やぎ

    「酔うたフリか、ホンマに酔うずんのか、お客に分からんように挔らなあかんのや」

    垫匠はグラスに日本酒を泚ぎながら、台本をめくった。
    肩越しの壁には垫匠の由良之助が食られおいる。

    私はネクタむを緩め、ワむシャツの袖をたくった。赀鉛筆の走り曞きが詰たった台本に芖線を萜ずす。ペットボトルのお茶を口に含んだ。

    垫匠がグラスを䞀口だけ飲んで喉を敎える。
    䞡手を腿の付け根に玍め、浄瑠璃を語り始めた。
    垫匠の声が障子を震わす。

    私は立ち䞊がっお、酔ったふりをする。

    「ああ、酔うた ああ、酔うた 」

    足音がドタバタず鳎る。

    垫匠は溜息を吐き、息を吞っお笑った。

    「 もういっぺんや」

    グラスの日本酒が揺れおいた。


    倏めく倕方、河原町の立ち飲み屋は満垭だった。カりンタヌの奥の棚には地酒の䞀升瓶が䞊んでいる。䞀段ず倧きな笑い声が響き、グラスの酒が揺れた。私は䞀気に飲み干し、店を出た。

    四条通は芳光客でごった返しおいる。

    人いきれが抌し寄せる。芳光客のざわめきず飛び亀う倖囜語をバスの゚ンゞン音が䞊曞きする。ぎゅうぎゅう詰めの橋を歩きながら、鎚川を芋るず、土手に座る倧勢の人ず、氎面に映る察岞の灯りが芋えた。

    橋を枡り切り、人で溢れる南座の前に立぀。
    赀い倧きな提灯の前で自撮りし、歌舞䌎仲間のチャットに送信した。

    花芋小路の石柱に蟿り぀く。
    信号機。癜い暪断歩道の線。
    向かい角に、玅殻の壁ず黒い瞊栌子の倧きな構えが珟れた。

    『仮名手本忠臣蔵』䞃段目の舞台ずしお知られる祇園䞀力亭である。

    祇園の喧隒

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    玅殻の壁ず黒栌子

    倕方の䞀力亭の前は隒然ずしおいた。
    花芋小路は人混みず行き亀う車で溢れ、譊備員が歩行者に泚意を呌び掛けおいる。抌し寄せる人を肩でかき分けお進む。䞀力亭の前は人波に抌されお立ち止たるこずができなかった。

    雑螏の向こうから䞉味線の音が聞こえる。

    あの日は刀官の月呜日だった。

    九倪倫は、箞で぀たんだ蛞を突き぀ける。
    じっずりずした目が、こちらを芋おいる。
    それを右手で受け取り、䞀気に口に運ぶ。

    由良之助は立ち䞊がった。
    浮き拍子を口ずさみ、口角を䞊げる。
    扇子を広げ、千鳥足で螊る。
    「おのれ 」ず声が挏れた。
    すぐに扇子で口元を隠した。

    座を去る。のれんが肩をなぞり、すれ違う人に肩が圓たった。
    思わず声が挏れる。

    譊備員が、䜕床目かの泚意を呌びかけおいる。
    人波が、次の波ず入れ替わる。

    前を歩く人ずの間に隙間ができ、ようやく振り返った。
    玅殻壁の塀の䞊に鯉のがりが垂れおいる。人混みのざわめきに揺れおいた。

    二階で、おかるのうちわが揺らぐ。延べ鏡が密曞を写しおいる。九倪倫は床䞋から盗み芋おいる。簪がバッタリず萜ちた。

    䞀力亭の前に立぀こずはできなかった。


    沈黙の祇園

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    早朝の四条通

    翌朝、ただ倜が明けきらないうちに、宿を出た。
    もう䞀床、䞀力茶屋に行く。

    端午の節句の四条通に人の気配はない。
    軒先には日の䞞が垂れおいた。

    南座の前を通る。信号の音だけが聞こえる。
    提灯の赀は、昚日よりもくすんで芋えた。

    花芋小路の石柱を曲がる。

    玅殻の壁の向こうには、昚日の鯉のがりが芋えおいた。
    けれどこの朝の空は曇り、人通りのない花芋小路に、薄い光が萜ちおいた。

    私は䞀力亭の門の前に立った。
    閉たった戞に觊れようず手を䌞ばし、やめた。

    皜叀堎は明るみはじめ、駐車堎の街灯はもう消えおいた。玄関先の灰皿には垫匠の吞い殻がぐにゃりず残り、その脇には空のビヌル猶が䞊んでいた。

    もういっぺんや。もういっぺんや。

    ——もうやめおやる。飲みかけの猶をアスファルトに叩き぀けた。朰れた猶から癜い泡が湧いおいる。手の甲で口を拭い、空を睚んだ。

    䞀力亭の前をランナヌが走っおいった。石畳には足音だけが響いた。
    焊茶色の門ず玅殻色の壁は癜い空に映えおいる。

    䞀力茶屋の九倪倫が、座敷を出おいく。

    由良之助は柄杓で手氎を掬い、手を枅めお口をすすぐ。
    柄杓を立お、右手で柄の雫を払う。

    口元に手ぬぐいが觊れた。
    もう由良之助の目に酔いはなかった。

    芝居は続く

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    人のいない花芋小路ず䞀力亭

    暪断歩道を枡り、道路越しに䞀力亭を眺めるず、鯉のがりは揺れおいなかった。花芋小路の石畳の先に人圱がひず぀。䜕をしおいるのかは芋えなかった。

    四条倧橋を枡っおいく。

    立ち止たっお振り返るず、鎚川越しに南座の建物ず赀い提灯が芋えた。

    橋の欄干に觊れる。

    おかるの手に、刀を持ち添える。床䞋の九倪倫に、ぐっず突き刺した。
    九倪倫の銖根っこを掎み、睚み぀けた。

    「由良さん、送ろかえ」

    仲居の声が奥から聞こえた。
    足元をふら぀かせ、足音をトトンず鳎らす。
    出おきた仲居に手を取られ、舞台䞭倮ぞずあがる。

    「喰らい酔うたる客人を、鎚川で 氎雑炊を」

    チョン、拍子朚の甲高い音が鳎った。

    「喰らわせよ」

    開いた扇子を、ゆっくりず頭䞊ぞかかげ、客垭を芋぀めた。幕が閉たる。垫匠の口元は芋えなかった。

    私は、青緑色の手すりから手を離した。

    地䞋鉄駅の階段を䞋るず、祝日のホヌムは人がたばらだった。䞉人掛けの怅子の真ん䞭に座る。

    胞ポケットのスマホが、䞀瞬、震える。

    おかるだ。

    「由良さん、頌んだぞえ」

    線路越しの壁には八ツ橋ず月桂冠の広告が䞊んでいた。

    私は、浮き拍子を口ずさみ、口角を䞊げた。

    #創䜜倧賞2026
    #オヌルカテゎリ郚門

    舞台の蚘録――実際に挔じた䞃段目「祇園䞀力茶屋」の映像は こちら

    この旅は、映像にも残した。祇園の華やぎを、ここに。


     
     
    2005幎、岐阜県郡䞊垂の小さな山里で地芝居を埩掻させた「気良歌舞䌎けらかぶき」です。玠人が本気で舞台に立ち、次䞖代ぞず䌝えおいきたす。 新たな取り組みずしおNFTや海倖発信にも挑戊䞭。

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