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パリのにおい

    ケント

    自分の身体をすり抜けるような涼しい風が、心地よさをもたらしてくれる。
    冬から夏へと変わっていく季節の変化に、肌に触れる空気すら認識できるくらい自然と感覚が敏感になる。

    パリの生活に慣れてきた。
    この狭い部屋での生活も、日々のルーティンも。
    日本と同じ生活をしていると思う瞬間もある。
    それでも、一歩外を出た瞬間に広がるこの景色は、ここがパリであることを思い起こさせてくれる。

    嬉しい。
    パリに来てから退屈感や焦燥感、いろんなネガティブな感情を抱えてきた。
    フランスという国に慣れてもなお、パリは新たな感覚をいだくことになった。
    良いことばかりじゃない。
    そんなことわかっていても、どこかやるせない気持ちがあった。
    でも、それらを乗り越えてきた時に感じられる、パリという街に対するシンプルな喜びが嬉しい。



    こないだ、日本から友達がやってきた。
    急遽休みが取れて決めたというヨーロッパ旅。
    その途中にパリにも滞在し、僕に会う時間をつくってくれた。

    お互い海外経験が豊富で、しかも少し過酷な旅が好き。
    過去の思い出話は尽きることがない。

    ふと、海外のにおいの話になった。
    飛行機を降りた瞬間に感じるあの一瞬、街の中でふと気づくあの一瞬。
    その地ならではのにおいを感じるたびに、自分が異国に来たことを強く実感する。
    ずいぶんと遠いところまで来てしまった。
    景色を見て感じることもあるけど、目に見えないにおいから感じることもある。

    熱気と湿っぽさの中に独特の油が混じったにおい。
    アスファルトの焦げくささにコーヒーの香ばしさが含まれたにおい。
    いろんな種類のスパイスや砂漠の砂が混じった機微なにおい。

    いろんな国を訪れていくと、においの知識が溜まってくる。
    アジアもヨーロッパもアメリカも。日本とは違うにおいがある。
    記憶と共に刻まれるこの感覚が、旅を思い出すひとつの楽しみでもある。



    それじゃあパリのにおいってなんだろう?

    パリに降り立ったのはもう一年近く前のこと。
    フランスに来てからいろんなことがありすぎて、その瞬間が遠い昔のように感じる。

    友達は言った。
    「焼きたてのパンの香ばしさと古い建物の埃っぽさが混じったにおい」

    なるほど。
    確かにそんなにおいはある。
    でも、僕は違うにおいに気づいた。

    「すっきりしているけど、どこか香水の刺激臭も感じるようなにおい」

    このにおいを思い出した瞬間、ここでの生活がいろいろと思い出された。
    全く聞き取れなかったフランス語、人脈ゼロから作り上げてきた人間関係、今後のことを思い悩んだ時間。
    パリという街、フランスという国。
    なんとか1年間生き抜いてこれた自分に対する誇り。

    においをきっかけに、気づいたらネガティブなことをポジティブに受け止められていた。



    パリでの生活はあと1ヶ月で終わる。
    まだ実感はない。
    せっかく夏にかけて暖かくなってきたのに、これでさよならなんて。
    もっとこの生活が続いてほしいという気持ちが強くある。

    またここに戻ってくるかはわからない。
    それでも、ここで過ごした事実はかわらない。

    ここで感じたこのにおいには、この国で過ごしたいろんな思い出が込められている。
    短い一生の短い期間。
    この経験が今後どんなことに活かされるかは全くわからない。
    でも、間違いなく言える。

    ここで過ごせて良かったな。

    これからもパリでの生活は続きます。




    ↓ワーホリのきっかけなどはこちらに書いてます。

     
     
     
    やってみて、考えて、言葉にする。日々の暮らしで見つけた小さな気づきを、自分なりの言葉でまとめています。 フリーランスとしてWeb制作・マーケティングに携わる32歳。フィリピン就職、ジョージアノマド生活、フランスワーホリを経て、大阪在住。旅と本と野球とお酒のために生きている。

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