
第12章 診断しないで薬を出すな。
義理の姉が紹介してくれたのは、ソニーの業務委託だった。
「超大手だ。お役に立てそうならやってみよう」
そんな軽い気持ちだった。
この仕事が、その後の人生を大きく変えるなんて思ってもいなかった。
Web面接を通過し、最終面接の日。
私は初めてソニーの最寄駅に降り立った。
何社かを経由する契約だったが、私にとって重要なのは一つだけだった。
働く場所はソニーだった。
自分の経歴と強みを説明したのち、いくつか質問された気がする。
あまりの緊張に忘れて、今も思い出せない。
ただ、私が質問した内容だけは覚えている。
成果物の具体的なビジネスモデルと、期待されるボリュームの擦り合わせだ。
作った後に「もとめてたのと違う!」なんてよくある話。
特に初対面だし、相手は今まで関わったこともない大手様。
自分の常識が、大手ではどこまで通用するのか。
それを確かめたかった。
コロナ禍なのもあり、出社は初日だけだった。
翌日以降、web完結するためのPCセットアップで1日が終わった。
1時間で終わらせるつもりが、1日かかった。
実態と乖離したままのマニュアルで、人に聞いて回った。
大手なら全て揃っているわけではなかった。
特にこの部署はまだ新しく、特にその色が強いと教えられた。
真っ先に業務マニュアルとWikiを探した。
それも、なかった。
「あ、これ学研でやった問題だ!」
私には何のストレスもなかった。
もう1日だけシスターには出社してもらった。
この会社では教育係をシスターと呼んでなかった。
特に呼び名は無かった。
ビジネスモデルと経済条件を知っておきたかった。
自社がどれだけ儲かってるかには興味が無かったが、パートナー企業が儲かっているかは知りたかった。
こうしてリモートワークが始まった。
厳密には、出社しないだけ。
業務レクチャー初日にANAカードを勧められた。
理由はすぐ分かった。この部署は、とにかく出張が多かった。
配属された部署は、自分たちがBtoC営業をし数字を作るのでなく、パートナー企業が販売し数字を作るビジネスモデル(BtoBtoC)だった。
「現場知らないのに、何の会話するの?」
「エクセルで数字遊びする前に、まず相手の状況を知れ。」
「診断しないで薬を出す医者になるな。」
「伝書鳩はいらない。
お前の意思はなんなんだ?」
たくさんのことを教わった。
自己啓発本にありそうな抽象的な話ではない。
どれも地に足が着いたロジックだった。
この課長の言葉は、今でも仕事をするたびに思い出す。
ガン詰されながら食べたランチの記憶と共に。