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掌編小説|宇宙人

「拓斗くん、宇宙人はいるんだよ」
そう言って笑った彼女の顔を、僕は忘れることができない。


「拓ー、明日の出発何時だっけ?」

「七時だよ」

「りょーかい」

やる気のなさそうな返事が返ってくる。

僕は明日、この人と結婚する。

彼女、篠原香澄とは大学のサークルで出会った。
とてもサバサバした人で、よく言えば自由人、悪く言えば大雑把な性格だった。
五年ほど付き合い、彼女のほうから「そろそろ結婚しない?」と言われた。彼女らしいと思いながらも、僕は彼女の勢いに流されるように承諾してしまった。
だけど、特段そのことに後悔があるわけではない。
いやむしろ、よかったとさえ思っている。

あの時から、僕の時間は止まったままだ。

  *

高校二年の時に、付き合っていた人がいた。
名前は菅本真理。

彼女はとても自由な人で、僕は剣道部で周りからは真面目だと言われていたから、バランスは取れていたんだろうと思う。
彼女はその性質からか、周りからはとても浮いていた人だった。
よく女子から外で遊びまわっているだの、不良と付き合っているだのと噂されているのを聞いた。
その都度違うと訂正してはきたが、僕自身も遊ばれていて可哀想だとかよく言われた。
だが……僕は彼女が本当に好きだった。
彼女の何物にも縛られない自由で独立した見方が好きだったのだ。

ある時、彼女がいきなりこう言いだした。

「拓斗くん、宇宙人って信じる?」

「宇宙人?」

「そう! 宇宙人」

彼女がいきなり突拍子もないことを言い出すのは、今に始まったことではなかった。

「宇宙人はいるんだよ! 拓斗くんにも今度会わせてあげるね」

そう言って、彼女はとびきりの笑顔を浮かべた。
僕はその笑顔に見とれて、うなずくことしかできなかった。

その一週間後、彼女はいなくなった。
そのあと連続殺人事件の犯人が逮捕され、彼女はその犠牲者ということになった。

死体は今でも見つかっていない。

  *

僕は明日、この人と結婚する。

彼女は宇宙人に連れ去られたのか。
今でも僕は、あの時に捕らわれたままだ。
後悔? そうだ、後悔している。
あの時、彼女の話をもっと聞いておけば……。

あの日、彼女は珍しく真剣な顔をしていた。

「拓斗くんに、話したいことがあるの」

いつもの悪戯っぽい笑顔ではなかった。
僕は一瞬、噂に聞いていた誰かの名前を、彼女の口から聞かされるんじゃないかと思った。
信じていないふりをしながら、本当はどこかで、あの噂を握りしめていたのかもしれない。

彼女はお腹にそっと手を当てて、小さく笑った。

「赤ちゃんができたみたい」

僕の頭に最初に浮かんだのは、喜びではなかった。
——誰の子だ。 そう思ってしまった自分を、今でも許せない。

それから先のことは、あまり覚えていない。
いや、本当は全部覚えている。
ただ、思い出さないようにしているだけだ。

それでも僕は、彼女は宇宙人に連れ去られたんだと思うことにしている。
そのほうが、まだ楽だから。

僕は明日、この人と結婚する。

「拓ー?早く寝ようよ?明日早いでしょ?」

僕にはもったいない相手だ。
彼女は自由でずぼらだが、料理ができて、意外とやさしい。
指輪のサイズを合わせるとき、彼女は僕の手を両手でそっと包み込んで「これでよし」と笑った。
愛していると言える。
だが、あの時の後悔が、僕をあの場所に縛り付ける。

今も夜空を見上げるたび、僕は彼女を連れ去った宇宙人を探してしまう。

死体は今でも見つかっていない。

見つかるはずがない。
あの場所を知っているのは、僕だけなのだから。





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