欧州の城で蛭の贄にされた僕の恋のドロ沼留学記【66%実話】
高校のある年の夏、Dinamarca、もとい、デンマークにひと月滞在した。
とある交換留学プログラムに推薦され、作文や数回の面接に受かって選抜されたのであった。
ハハ・ハ…
こんな「陰の者」を選ぶとは面接官の眼は節穴だな!
(タダで旅行行けてラッキー!大感謝!)
英語かスペイン語通じるかな?
デイニッシュをちょっとだけ覚えていこうかなぁ?
最初の2週間はホストファミリーの家に滞在した。
少々神経質だが優しいマザー、僕と同年代の日焼けて僕より浅黒い活発な女の子グヌヴァー、そして英語を話さず僕を避け気味で寡黙なファザー。
広大な庭でアヒルが行進する横をハンモックに揺られ絵本や写真集を眺めたり、「秘密の花園」ごっこ(つまり瞑想からの昼寝)をしたり、グヌヴァーと彼女の彼氏や友人とピクニックをしたり、町ではモールでショッピング。青く丸い小さなビーズで覆われた小物入れなどの雑貨を買ったりした。
ファミリーの親戚が集まるバーベキューに参加した際は、皆英語を話してくれず疎外感を味わい、黙々と山盛りの小さい芋を食べ気持ちが悪くなった…
(主食の芋飽きたよお~今日の芋はとくにイケるけどさ~
…こ…こめ…おにぎり…トルティーヤ…タコス…ポルファボ~ル)
背の高い草むら近くで開催されたそのバーベキューにて、僕は
「蚊に一時間で捧げた血液量」の記録をぶっちぎりで更新した。
そんな風にスロウに日々をエンジョイした。
ダッチドア*であわや指を詰めかけたりもしたけれど…
(*上下二枚に分かれていて、上半分と下半分を別々に開け閉めできるドア)
今から語る話は、朝から午後3時位までひとりお留守番をした日の出来事。
「自転車で5分の森を少し入ったところにお城があるわよ。自転車を貸してあげるから行ってみるといいわ。」
そうマザーに教えてもらったので、行ってみることにした。
本日は晴天なり!
自転車で気持ちよく風を切って突っ走る。
_シャーッ、キッ。
森の入り口の横に、無人のアクセサリー販売ブースがあった。
性善説に支えられた、vejbodと呼ばれるものだ。
トルコ石のかけらとナザール・ボンジュウ(目玉のような柄のビーズ。魔除け)を1粒つなぎ合わせた腕輪が並べられている。
価格は100デンマーク・クローネ(約2000円)なり。
ちょうど現金を持ち合わせていたので、箱に入れて1つ腕輪を手に取る。
おかアさんへのお土産にぴったりだ。
なくさぬよう、自分の右手首にはめておく。
…メキシコの古代アステカで、トルコ石は金や銀よりも価値がある「神々の石」として重宝されたんだよな…火の神シウテクトリはナワトル語で「トルコ石(xihuitl)の主(tecuhtli)」を意味するし。
…最も純粋で、最も熱き、青き、高貴な火よ…
森には大きな道が通っており、お城の案内看板も立っている。道を辿れば迷うことはなさそうだ。自転車を押し、昨晩の雨でぬかるんだ道を水たまりをよけながら踏み入れると…
う…わ…っ…!
水たまりにデッカイ、8cmはある、蛭がいっぱい!
うようようよ…
うわー…蛭って…初めてみたかも…気持ちわるぅ…
井の中の蛙ならぬ「水たまりの中の蛭大海を知らず」か。
自転車を側の木に立てかけ、しばし蛭の群れを観察する…
木の枝で某アニメキャラのように泥水をかき混ぜて濁らせていると、champurrado(メキシコのチョコレートドリンク)を思い出す…
文字通り、"Revolverles la sangre a las sanguijuelas"
…つまり、蛭ども(sanguijuelas)の血(sangre)をかき混ぜて(Revolver)、困らせ心をかき乱し(Revolver)てやったというわけ、ハハハハハ!
もちろん奴らの体はツンツンしないけどね!
気持ち悪いもん。祟られたら嫌だし。
…神があわれな蛭どもを困らせるのに飽くと、嵐はやがて落ち着き小さな世界はSanta Paz――聖なる平穏を取り戻した。澄みきった鏡の世界は、その天井にトルコ石のような青空とサンタのひげにも似た雲を映しだす。
________スッ
…!!!!!!
(ふいに真っ白い人の顔が映りこみ、心臓が止まりそうになって後ろを振り向く…!!!)
若くて全体的に白い『指輪物語』の映画版で見たエルフのような女の人が至近距離に立っていた。
なにやら水たまりを指さしデンマーク語?で話しているが、独り言のようでもあり、口を挟むすきがない。
アルビノさんだろうか?だが、瞳は青い。
白に近いプラチナブロンドの髪、白っぽい肌に、白っぽいワンピースドレス。白を通り越して、顔はもはや青白い。
彼女が倒れそうになったところを持ち前の騎士道精神を発揮してスマートに 受け止める。
"Are you alright ? Do you live nearby? Should I call an ambulance...Do you understand me?"
(大丈夫ですか?お近くにお住まい?救急車を呼びますか?…僕の言ってることわかりますか?)
彼女はスッと森の奥を指さす。
お家が奥にあるのかな。支えながら一緒に歩きだす。
…日陰だし寒いなぁ…
てか、この人の体…冷たいなあ…
彼女の氷の手が僕の腕輪に一瞬触れる。
ビリっと痛みを感じる、静電気か。
20メートルほど道なりに進み右のほうに曲がると、四角いシンプルなマンション型のお城が姿を現した。
ここがお城か。
女の人の足はお城へ向かう。
ああ!このお城の管理人かな??
お城のドアは、僕らが近づくと重い音を立ててゆっくり開いた。誰かが中から引いたような気配はあるが、姿は見えない。
一階はひらけていて、血のような赤黒い絨毯が広がり、奥の大階段に続いている。豪華なシャンデリアが一つ。淡いオレンジの光でホールを照らしている。
だれか人は?
入場料を払うカウンターとかはないの?ときょろきょろする。
女の人が何か言う。「待ってて」??
彼女は大階段を上っていってしまった。
いつの間にか、黒い服を着たスタッフと思しき男の人が近くに立っていることに気づく。
ああ!人だ。ドアを開けた人だろうか?
彼は部屋の隅の椅子を指さす。
座っとけってか。おとなしく腰を下ろす。
"Mange tak…"(ありがとうございます…)
"Uhmmm…excuse me? She seems to be in bad shape, so I brought her here…"(あのう、彼女体調が悪そうで連れてきたんですけど)
男の人は「何も聞こえていない」レベルで僕をスルーし、階段をのぼっていってしまった。
階段の、あの幅広の手すり…上からすべりてェ…なんて考えていると…
彼女が大階段の上に姿を現した。
真っ赤なドレスにお化粧直しして!!
ワーオ!
何が始まるわけ?
雀のお宿?鶴?いや、亀の恩返しかな?竜宮城?
彼女は僕に近づき、白蛇のような手をすらりと差し出す!
Ay, ay! Shall we dance?な感じ?
…¡Órale! Alrrrightyyyy!
いよっし!
ラテンの血が騒ぎまくるぜ!
¡Sip! ¡Vamos a bailar!おどろうぜ!
カモン!
去年、いとこのロサのキンセ・アニョス(15歳のお祝い)でChambelán*をつとめあげたこの僕の、熱きダンスをとくとご覧あれ!
(*主役の少女をエスコートする「騎士役の少年」のこと)
ノリノリで彼女と踊り始める!
手を取り合って、ぐるぐる、ぐ~るぐる。
…輪になって踊ろう…
ぐるぐるぐるぐる…。
あれえ、主導権握られちゃってるなあ
…¡Chin!…
ぐるぐるぐるぐる…輪ニなっテ踊ロ…
彼女の美しい白いかんばせ、蒼い蒼い目を見ていると、彼女の顔が だんだんとグロテスクにくずれてゆく…
最後には、死者の日よろしく、禿げ頭の死神さんに…
…しろい・かんばせ、しろい・からべら(Calavera)…
¡…嗚呼…カトリーナ…僕の、凍えるカトリーナよ…!
(¡Ahhh, La Calavera Catrina, mi Catrina fría…!)
僕らをいつのまにか取り囲んでいる黒い執事たちの影を、ぐちゃぐちゃに回転する視界が一瞬とらえる。
彼ら――蛭ども――もウネウネとダンスをし始める。
僕らは紅き、蒼き焚火だ。
蛭どもの影は僕らに照らされ、大きくなったり小さくなったり。
「…アオイ…ワニナッテ・オドロ……」
僕ら二人の死の舞踏が描く小さな丸い軌跡は、上から見れば、あの腕輪そっくりなことだろう…
…う、腕輪…
…ああああ!
なんだか凄く手首があつい!腕輪が熱い!
やけどしそう!
カトリーナから目を離し、腕輪を見ると、ナザール・ボンジュウのひとつ目と目が合う。
相変わらず周囲はSábadoのように踊り狂っていて、カトリーナはケタケタ笑い始めたけれど、このひとつ目からは目を離さないようにする。
腕輪は青く燃えている。
だけれども、暖炉のような安心感も同時に感じる。
この目は、僕の味方だ…
瞬きもせずに目と見つめ合っていると、
ぐあぐあぐあん…
その深淵の目は大きく大きくなり、僕を包み込んでいく…
…
……
………
…はっ!
目を開けると、
右手の腕輪が顔の前にあり、ナザール・ボンジュウのひとつ目…と目があった。
なんだかほんのり温かい…
上半身を起こしてあたりを見回す。
道の真ん中の水たまりに脚を一部浸らせるようにして右を下に、横向きに倒れていたようだ。
意識を失っていたのか?
まさか?こんな道の真ん中で、寝てしまっていた?
腕時計を見ると、家を出てから十五分と経っていない。森についてからは十分くらいか。現在、午後二時半。
あ~あ、泥だらけだよ。
なんで誰も助けてくれなかったの?平日で人が少ないから…?
アッツ!違和感を感じた足首を見やると、蛭が1匹吸い付いている!
テンパって、慌ててゆびで何度もはじくが取れない。
くそっ!
テキーラ!テキーラがここにあれば!
ぶっかけてやるのに!
ピンピンピン!…しつこく奴をはじくが、離れない。力ずくで引っ張るのはダメな気がするし…
そうだ!ファザーがもう帰っているかも!
三時までには帰るっていっていた!
家に帰ろう!
蛭に血をすわせたままに自転車を飛ばし、ちょうど帰宅したファザーに塩と薄いカードを駆使して取ってもらい、応急処置をしてもらった。
泥だらけの服もぬいで、シャワーも浴びた。
腕輪をはめていた手首は、ほんの少し赤くなっていた。
自転車で転んだわけじゃないし、なぜ泥水の上で倒れてしまったのかは分からない。
癲癇もちでもないし。
あの出来事は夢だったようだ。
いつから夢だったのか?蛭の世界をツンツンしているとき、実は吸われていて、貧血起こしたのかな?ちょうどここに来て一週間、疲れがたまってうとうとしたのかしら。それとも白昼夢?
知らぬ間に倒れたとしても、白昼夢みてたとしても、いずれも相当ヤバイよ。心配されちゃうよね?
ファミリーには水溜まりで転んだといって、夢かもしれない部分については 話さなかった。
その夜…
僕の部屋は、隅にある急な階段を登りきった先にある。屋根裏のような形をした、こぢんまりとした空間。
小さなベッドと、丸いテーブル。大きな宝箱の形をした衣装ケースと、外にせり出した出窓。天井が三角形に組まれているせいで、部屋の隅の方はかなり天井が低い。滞在中に頭を二度ほどぶつけたのは、もはや必然!(僕が注意散漫なわけじゃない。)
深夜、ふと半覚醒してしまい、「お手洗いに行こうかな」とぼんやり考えていた時……。
ドンドンドンドンドン!
静寂をつんざく、ドアを叩く音!
え?!何事?!
すっかり覚醒するも、その後シーンとしているので、寝ぼけて空耳を聞いたのだろうと思い始め、さて、トイレに立とうと決心し体を起こそうとした、その時だった。
ふいに脚、膝から下のあたりに重みを感じる。
ズズズ…
誰かが、僕の脚の上にゆっくり体を倒してくるような、そんなリアルな重みを感じる…!
ヘエエェェイ!夜這いかよ?やめてくれよお~、ポル・ファボ~ル!
グヌヴァーのはずはないよな?彼女はあのパリコレみたいな恋人がいるし…!ファザーかマザーが心配して?いやいきなり乗りかかってはこないだろ?
足元を見ようとするも、首が動かない、体が動かないことに気づく。
金縛りだあ…最近は良く寝ていたのにな?
大丈夫。こういうときは、抗わず身を任せていればいずれ……
ズ・ズズズ…
いやいやいやいやいや!
体重かけてくるなって!怖いって!重いって!
ああああああ!
意識を集中させ、頭にかかった金縛りの網を一部引き破り、神経伝達回路を開通させ、体の上になっていた右手を解放させる(左を下にして横向きに寝ていた)。
他は動かせないままだ。
自由になった右手で、ヘッドボードに置いたはずのロザリオを手探りで探す。
助けて!助けてください!
¡Virgencita de Guadalupe!(グアダルーペの聖母様!)
僕の守護聖人様!
¡En el nombre de la Santa Cruz…!(聖十字架サンタ・クルスの御名において…!)
<カシャン>
無情にもロザリオは手に当たって床に落ちてしまったようだ。
伸ばした指はむなしく虚空をかく。
あああ~詰んだあ~!
テキーラがあれば...(いや飲んだことはないが)…
テキーラがあれば!
ぶっかけてやるのに!!
燃やし尽くしてやるのに!
ズズ・ズズズ…
どんどん重くなる!
重さを感じる範囲が広がって、太ももにまで及んできた。
囁くようなか細い声が聞こえた気がする!
「寒いよ」…?
諦めず、手はヘッドボードをまさぐる。
なにか暖かい空気を感じ、そのほうに手を伸ばすと、指先が、昼間に買ったあの腕輪に触れる。
藁にもすがる思いで、僕はそれをひっ掴んだ。
あ熱っっ!!
そのまま反射的に、
(なんか わからんが くらえッ!)
投げつける!
ピシャーン!!!
体重をかけてきやがる「モノ」に命中したかは分からないが、腕輪は確かに、何かには当たった。
粉々に砕けるような音が、部屋の隅に響いた。
脚の上の重みは消え、体も動かせるようになった。
電気をつけ、足の方と、部屋を恐る恐る見回すが誰もいない。
腕輪は切れてベッドの脚のあたりと後ろの床にちらばっている様子だ。
ナザール・ボンジュウは最初から入っていたら絶対に買わないレベルの大きなヒビが入っている。
心臓が早鐘を打っている。落ち着け落ち着け。
その後、トイレに行き、外に何も異常がないことを確かめると、ベッドに戻り、電気をつけたまま、イヤホンで音楽を爆音で聴いて膝を抱えて丸まって震えていた(もう乗りかかられないように)。
一人では怖いけど、こんな深夜に、ファミリーを起こすのも悪いしな…
手には拾い上げたロザリオを握りしめお祈りを捧げていた。
昼間蛭に吸われたところがうずく…
…あのヒルめ!俺の血はさぞ辛かったろう*よ!ざまあみろ!
(*半分メキシコ人で辛いものを日常的に食しているため)
結局、そのまま一晩中、まんじりともしなかった。
翌朝。
寝不足と恐怖で顔色が悪い僕をマザーが心配して、ココアを作ってくれた。
「蛭にすわれた跡はどう?腫れているようなら病院へ行きましょうね。大丈夫?隈ができているわ。今日はゆっくりしましょうね?
今日の午後、あなたが行けそうなら、あのお城みんなで行ってみる?
今度は蛭に吸われないように(笑)!」
後で皆で行ったくだんのお城は、普通のシンプルなお城だった。外装は夢と似通っていたが、内装は全く違っていた。1階の横半分はお土産売り場に改装されていたので、ポストカードを買った。城内に展示された調度品などを見て回った。
ただ、帰り際に、振り返ると、無数にある窓の一つを、白い影が横切ったような気がした。
そのあと調べて知ったことだけど…
…昔、何千年も前の昔…デンマークの湿地帯では豊穣などを祈って、生贄が沈められた。今も状態の良い遺体が見つかるんだそうだ。
彼女も、そんな犠牲者の一人だったのだろうか。
深い森の中、底無しの泥の中に沈んでいく……。
蛭に血を吸われながら、凍えながら。
僕のラテンの血に感応して太陽のように燃えた腕輪、そのトルコ石の青火に当たりたかったのかな?
ナザール・ボンジュウは僕を守ってくれたけれど。
僕は立ち止まり、白い影がよぎった窓に向き合い、彼女の魂のために祈りを捧げた。
湯気をあげるココアを見ていると、蛭どもがうごめくあの泥水たまりを思い出す。champurradoを飲むときも、思い出しちゃうんだろうな…もう、蛭なんか一生見たくもない…
ホストファミリーとは涙ながらに別れた。
寡黙なシブ親父のファザーも男泣きしてくださって…。
(あの蛭を始末したあとの午後は、ほとんど言葉をかわさず、お茶を飲んで静かな時を二人きりで過ごしたのであった。その後のファミリーとの残りの1週間、彼が僕を避けることはなかった。)
あとの2週間は、全世界から終結した同年代の選ばれしものども 30名ほどで、青少年の清い交流(一つ屋根の下の寮生活とデンマーク観光)…という崇高な名目を隠れ蓑にした、ぶっちゃければ、
「恋愛リアリティショー」というカオスな祭りに強制参戦させられたのであった。
欧州勢内でカップルがどんどん爆誕していく!
意中の相手を取り合い喧嘩も勃発!
指導役のチューターである大学生カップル(現地人)までもが、夜中、消灯され、非常灯のみが薄暗く光るリビングの長ソファーでイチャコラする始末。
その真っ最中に、僕は通りかかってしまい、廊下の壁にくり抜かれたひし形の窓穴から、その光景をバッチリ目撃してしまったのだ。
(いや、部・屋・で・や・れ)
僕が暫しボーゼンと見ているのを男の方が気づき、ギロリとにらまれた。
いいか、もう一度言うぞ?
「部・屋・で・や・れ」
彼らには(心の中で)「部屋でやれ」とはいったのだが…
実際のところ、学生は二人部屋なので、本当に部屋でやられても困るわけ。
(チューターどもは二人きりだろうから部屋でやればいいが)
というのも、僕のルームメイトのインド人がトルコ女を連れ込み、お睦みあそばせるようになったのだ。
一度キれて、
「Could you two be QUIET pleeeeeeeease?ていうかウルサいよ!¡¡Cállense!!」とか言ってみたが。
頭が変になりそうだし、気を遣ってやって、部屋を抜け出し誰もいないリビングで休もうと思っていたのに。
部屋では一人にはならないので(霊的な意味で)「怖く」はないが、当然安眠などできるはずもなく、寝不足から連日金縛りに遭いまくる日々。
また、僕はスペイン人女性に、持ち前の騎士道精神を好意だと勘違いされ惚れられてしまったので、彼女に捕まらないよう逃げまくりの2週間でもあった…幸い夜這いこそなかったが。
みんな、2週間で別れんのに何考えてんの??
さかりのついた蛭どもめ!
お互いの血を吸いあって自滅しやがれ!
こういったふうに、最後の2週間も、蛭の沼におとらずドロドロの恋の沼に引きずり込まれてしまったのだった。
ほとんどの連中は動物みたいだったが、ノルウェー人の、BTTFのマーティに似た小柄で爽やかな彼とは、熱く清い友情を育んだ。そして、漫画オタクで絵ばかり描いていた、ぽっちゃりしたセフィロスのようなフィンランド人のナイス・ガイとも。
彼らは僕と同様、この狂乱の「恋愛リアリティショー」からは一線を画すスタンスを貫いていた。そして何より、彼らだけが僕の日本名を、日本語としての正確な発音で呼ぼうと努めてくれたのだ。
観光の側面からいえば、あの蛭の城とは比較にならないほど壮麗な、湖のほとりに建つお城(フレデリクスボー城)や、おもちゃのような可愛い街々の探索は本当に素敵だった……。
またうっかり生け贄の儀式に巻き込まれぬよう、彼らとはぐれないよう注意しながら…
そんな風に僕のデンマークでのAventura*は過ぎたのであった。
(*「冒険」「恋の冒険」「火遊び」の意味がある。)
――カトリン
カトリン…腕輪、投げつけてごめんね。
寒かったんだよね。
八月だというのに、あの森はひどく冷える(fría)もの。夜に逢いに来てくれたこと、今はもう「厄介ごと(friega)」だったなんて思わないよ。
あの夜、君を抱きしめて温めてあげればよかった。本当に、ごめんなさい。
僕はこの地にいるあいだは毎晩、帰国してからも時々、あなたを思って、あなたの魂を抱き締めます。
――Nimitz-apapachoa.――
一緒に逝けなくてごめんなさい。
どうぞ、永遠に安らかに、おねむりください…
完
=Comentario=
★【66%実話】:
ベースや舞台はすべて実話。心霊体験も実話の部分が多い。
「白昼夢乙!」といわれたらそれまでです。
★Gunvor:
古ノルド語で「戦いの守護者」を意味する、北欧の伝統的で力強い女性名。(もちろん仮名であるが、同類の伝統的な名前であった。)
★青き、高貴な火:
スペイン語で、白馬の王子様は、príncipe azul(青い王子)という。貴族のことは「青い血」と表現する。労働の必要なく、外で野良作業しないから日焼けせず、白い肌に青い血管が映えたため。
★キンセ・アニョス(15歳のお祝い):
メキシコで少女が「大人の女性」への仲間入りを果たす、盛大な十五歳の成人祝。結婚式並みの費用を投じ、ハイヒールを履かせるなど若い結婚を奨励するような前時代的な面もある。近年は式を行わず、旅行や車の購入費に充てる傾向も出ている。式は深夜~まで及ぶが、ホントにオトナにならないよう見張らねばならない。
★¡Órale!:
メキシコにおいて、熱量を注入する万能な言葉(合意・驚き・警告)。エスニックショップ「チチカカ」にも同名のブランドがある。
★Sábadoのように踊り狂って:
スペイン語のSábado(土曜日)と魔女の儀式Sabbat(サバト)は共に「安息日」を語源としており、中世では土曜の夜に魔女が集まると信じられていた。
★La Calavera Catrina(ラ・カラベラ・カトリーナ):
メキシコの「死者の日」の象徴である、華やかなドレスと帽子を身にまとった骸骨の貴婦人。もとは「死の前では富める者も貧しい者も皆平等」という風刺として描かれたものだが、現在は死を陽気にそして親しみを持って受け入れるメキシコの死生観を体現するアイコン、アイドルとなっている。映画『リメンバー・ミー』でミゲルが墓穴に落ちた際に引き上げてくださる方。
★聖十字架サンタ・クルスの御名において:僕の誕生日5月3日の守護聖人。
★¡Cállanse!:スペイン語で「黙れ!」を意味する強い命令表現(複数人に向けて)。『リメンバー・ミー』でダンテを振り切る際にも¡Cállate!と言っていた(英語版でも)。
★ひどく冷える(fría)もの。「厄介ごと(friega)」:
「冷え(fría)」と「苛立ち(friega)」。フリの音で頭韻を踏むように配置したもの。語源的につながりはない。
★Nimitz-apapachoa(ニミッツ・アパパチョア):
ナワトル語で「私はあなたを愛を込めて抱きしめる」の意。単なる肉体的な抱擁を超え、「自分の魂で、相手の魂を優しく包み込む」という深い精神的救済のニュアンスを持つ。メキシコで大切にされている言葉「apapachar(魂の愛撫)」の語源。
★テキーラについて:
成人してから飲んでみたが、全然ダメだった。テキーラ、テキーラうるさくて、あいすみません。
★散らばったビーズは、すべて、冒頭で出た「青く丸い小さなビーズで覆われた小物入れ」に入れてある。たまに開けて触るとなんとなく暖かい気がする。
Mange tak♥
By ♰梓/Keni Nacastli Atyalan Miguel ♰
