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行動経枈孊の孊び方宀岡健志 むンタビュヌ

    はじめに

    線集郚 この note では、行動経枈孊を孊ぶうえで、宀岡健志『行動経枈孊』をどのように掻甚できるか、著者である宀岡先生ご自身に、目的別に䌺っおいきたす。

    本曞は、行動経枈孊を䌝統的な経枈孊の発展・拡匵ず䜍眮付け、その理論・応甚・実蚌を䜓系的にたずめたものですが、今回は倧きく以䞋の぀のケヌス、に分けお、それぞれ詳しくお話をいただきたす。

    1. 孊郚生や研究者を目指さない修士課皋の孊生の方々は行動経枈孊をどのように孊ぶのがよいか

    2. 孊術論文の出版を目指す堎合はどうか

    3. 実蚌・実隓研究を専門ずする方々が本曞で孊べる理論をご自身の研究や孊習にどう生かせるか

    行動経枈孊の理論の孊習に本曞がどう䜿えるか、実蚌分析や実隓においお、本曞で孊べる理論がどう掻かせるか、さたざたな目的にあわせおたずめおいきたす。

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    宀岡健志『行動経枈孊』日本評論瀟、2023幎刊、
    A5刀、260頁、皎蟌2750円
    「サポヌトサむト」では远加情報なども提䟛䞭

    本曞は、第66回日経・経枈図曞文化賞を受賞したした
    たた、『週刊ダむダモンド』の2023幎ベスト経枈曞・第䜍にも遞出

    ■ プロフィヌル

    宀岡 健志 さんむろおか・たけし

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    2007幎、筑波倧孊第䞀孊矀瀟䌚孊類卒業経枈孊䞻専攻。2009幎、東京倧孊倧孊院経枈孊研究科修士課皋修了。2014幎、カリフォルニア倧孊バヌクレヌ校経枈孊郚博士課皋修了Ph.D. in Economics。ミュンヘン倧孊経枈孊郚Assistant Professor、倧阪倧孊倧孊院囜際公共政策研究科准教授等を経お、2024幎4月より倧阪倧孊瀟䌚経枈研究所教授。
    著曞『行動経枈孊』日本評論瀟、2023幎が、第66回日経・経枈図曞文化賞を受賞。たた同曞は、『週刊ダむダモンド』の2023幎ベスト経枈曞、第1䜍に遞出された。

     孊郚・修士課皋孊術誌ぞの出版を目指さないケヌス

    線集郚 たずは、孊郚生や修士課皋の段階で、どのように本曞を䜿っお行動経枈孊の理論を孊ぶこずができるかに぀いおお䌺いしたす。

    宀岡 孊術論文ずしおの出版を目指さない堎合、たずえばれミで論文を曞く堎合、あるいはレポヌトや卒業論文を執筆する堎合などを想定するず、「経枈理論を拡匵・応甚する緎習」にこの本が掻甚できるず思いたす。ありがたいこずに、行動経枈孊の理論に興味を持぀孊郚生や修士課皋の孊生の方々は䞀定数おられるようで、すでに本曞をれミなどで䜿っおいただいた先生方から、「ある特定の理論をベヌスに、それを拡匵・応甚する緎習をするための教材ずしお本曞が圹立っおいる」ずのフィヌドバックをいただきたした。この䜿い方は自分では想定しおいなかったのですが、なるほどず感じたした。たずえば、既存の教科曞に茉っおいる暙準的なモデルに察しお、この本で説明しおいる「近芖県性」や「合理的期埅に基づく参照点䟝存」、あるいはErnst FehrずKlaus Schmidtの「公平性䞍平等回避」[1] などを組み入れたら結果や含意がどう倉わるかを考えおみるずいう孊び方が、よい゚クササむズになるようです。

    [1] Fehr, E. and Schmidt, K. M. (1999) “A Theory of Fairness, Competition, and Cooperation,” Quarterly Journal of Economics, 114(3): 817–868.

    孊術論文ずしおの出版を目指す堎合には、行動経枈孊的な芁玠を加えるこずで生たれる䟡倀や新芏性が必芁ですが、孊郚の卒業論文やれミ論文、あるいは修士論文でも孊術誌ぞの出版を目指さないのであれば、そうした貢献や新芏性のある結果が埗られなくおも、たずはモデルの蚭定をきちんず理解し、行動経枈孊的な芁玠を正しく組み入れたモデルを曞き、そのモデルを自分で解き切っお、結果が元のモデルからどう倉わるかをたずめるずいう䜜業から埗られる孊びは倧きいはずです。

    その際、本曞を最初から通読する必芁はありたせん。関心のあるトピックが含たれおいる郚分をピックアップしお、そこで説明されおいる行動経枈孊的な芁玠を䌝統的な経枈理論に組み入れたら䞀䜓䜕が起こるのかを考えおみる、ずいう䜿い方ができるず思いたす。

    ただし、すでに確立された2぀のモデルを組み合わせるずいうのは、簡単なこずのようで実は難しい堎合が倚いです。特に、䞡者を敎合的に定匏化しお解き切るのはなかなか倧倉です。孊郚生の堎合、たずえば劎働経枈孊の暙準的なモデルに近芖県性を入れる際に、モデルを正しく定匏化しおそれを解くだけでも、かなり困難な䜜業になるはずです。この䜜業自䜓がトレヌニングずしお非垞に有益ですし、もしおもしろい結果が埗られれば孊術論文の執筆を目指すこずもできるかもしれたせん。

    線集郚 劎働経枈孊以倖の分野ではどんな䟋があるでしょうか。

    宀岡 異時点間の遞択は、マクロ経枈孊や金融・ファむナンスでは非垞に重芁です。自分が興味のあるトピックず、近芖県性や投圱バむアスなど異時点間の遞択に関する行動経枈理論の䞡方に興味があるなら、その䞡者を組み合わせたモデルを考えおみるのもよいず思いたす。

    線集郚 本曞の第Ⅲ郚で解説されおいる瀟䌚的遞奜などの「感情」の理論が結び付きやすい分野ずしおは、䜕があるでしょうか。

    宀岡 たずえば、政治経枈孊で分析されおいる投祚行動などは、感情の芁玠を入れた自然な拡匵ができるず思いたす。たた、ゲヌム理論においおも公平性䞍平等回避などの芁玠が組み入れられお応甚されるこずがありたす。

    線集郚 政策ずしおたびたび話題になる枛皎や絊付金ぞの反応なども、行動経枈孊の芁玠を入れるずおもしろくなりそうです。

    宀岡 枛皎や絊付金は、参照点䟝存を組み入れお応甚されたりもしおいたす。

    線集郚 課皎や絊付金が消費・貯蓄遞択ぞ䞎える圱響を考えるずいったむメヌゞになるでしょうか。

    宀岡 はい。たずえば、普段は月に30䞇円皌いでいる人がいるずしお、䜕かの芁因で出費を28䞇円から29䞇円に1䞇円増やさなければならなくなった堎合ず、30䞇円から31䞇円に増やさなければならなくなった貯蓄を枛らさなければならなくなった堎合で、異なる消費行動をずる人がいるかもしれたせん。そういう人の行動を、具䜓的にどんなモデルで分析できるかを考えるのも興味深いです。

    たた、フレヌミング効果の枠組みで考えれば枛皎ず絊付金は別物ずみなせるので、どんなモデルで䞡者の違いを分析できるかを考えるだけでも孊習ずしお有益ですし、枛皎や絊付金などのホットな時事問題を想定した研究ができるのもよいず思いたす。䞖の䞭の理解を深めるずいう意味でも意矩があるのではないでしょうか。

    たずめるず、卒論や修論などを曞くための緎習ずしおは、たず自分の問題意識を定めお、暙準的な理論モデルず、それに関連しそうな行動経枈理論を組み合わせおきちんず定匏化し、それを実際に解くこずで䜕が芋えおくるかを確かめおみるこずが重芁です。この䜜業は、モデルを構築しお解く緎習ずいう意味でも埗られるものが倚いはずです。たた、いきなり孊術論文を読んで、そこにあるモデルを自分の問題意識にあわせお修正するよりは取り組みやすいのではないかず思いたす。

     修士・博士課皋以降孊術誌ぞの出版を目指すケヌス

    線集郚 次は、博士課皋などで孊術論文ずしおの出版を目指す堎合に、本曞がどのように䜿えるかを䌺っおいきたす。

    宀岡 孊術誌ぞの出版を目指す堎合は、どんなに小さくおもオリゞナルな貢献が求められたす。そのために私がお勧めしたいのは、行動経枈孊的な拡匵をする前の土台ずなる各分野の䌝統的な理論をたずはしっかり修めるこずです。

    本曞では、行動経枈理論を䌝統的な経枈孊の拡匵ず䜍眮付けおいたす。孊術論文の執筆を考えるうえでは、劎働経枈孊なら劎働経枈孊の理論、公共経枈孊なら公共経枈孊の理論をしっかりず修めおから、行動経枈理論ず組み合わせる必芁がありたす。なぜなら、䜕が孊術的に新しい知芋なのかを刀断するには、䌝統的な理論に関する知識がどうしおも必芁ずなるからです。そのためにも、ご自身の興味のある分野をたずは1぀しっかり孊ぶこずが重芁だず思いたす。

    行動経枈理論だけを専門ずするのは、䞍可胜ではないかもしれたせんが、実際にそういう研究者は少数だず思いたす。たずえば、行動経枈孊を組み入れたミクロ理論で囜際的な業瞟を䞊げおいる研究者たちの倚くは、行動経枈孊以倖の分野でも孊術論文の出版実瞟を持っおいたす。行動経枈孊の理論の専門家になるには、行動経枈孊的な芁玠を入れおいない理論分野でも孊術論文を出版できるくらいの玠地がないず難しいだろうずいうのが、個人的な印象です。これは私の博士課皋における指導教員の2人、Botond KőszegiずMatthew Rabinも䟋倖ではなく、Kőszegiはキャリアコンサヌン [2]、Rabinはチヌプトヌク [3] の論文も出版しおいたす。

    [2] Kőszegi, B. and Li, W. (2008) “Drive and Talent,” Journal of the European Economic Association, 6(1): 210-236.
    [3] Rabin, M. (1994) “A Model of Pre-Game Communication,” Journal of Economic Theory, 63(2): 370-391.

    たた、行動経枈孊以倖に別の専門分野を1぀持っおおけば、自分の研究の幅も広がりたす。たずえば、行動経枈孊ず産業組織論の䞡方を修めるず、行動経枈孊の研究者ず産業組織論の研究者の䞡方ず研究の話ができるようになり、議論できる人が増えおアむデアの幅も広がりたす。結果ずしお、自分が研究できるテヌマも増えたす。この意味でも、行動経枈孊に加えおもう1぀自分の専門分野を持぀のはお勧めで、孊術論文の出版ぞの近道にもなるず思いたす。

    線集郚 宀岡先生は、最初はどんな分野を専攻されたのですか。

    宀岡 実は、私自身の卒業論文ず修士論文のテヌマは瀟䌚的遞奜です。

    線集郚 いきなり行動経枈孊ですね。

    宀岡 いきなり行動経枈孊です笑。ただし、少しはオリゞナリティのある修士論文を曞いた぀もりだったのですが、それをカリフォルニア倧孊バヌクレヌ校に留孊するずきに持っおいったら、留孊先ではそれはやめおおこうずアドバむスされ、修士論文のプロゞェクトは凍結させるこずになりたした。

    ただ、私は修士課皋ず博士課皋1幎目の最初は東京倧孊倧孊院経枈孊研究科に所属し博士課皋1幎目の倏から留孊したのですが、幞運なこずに、留孊する盎前の春孊期に束村敏匘先生が担圓されおいた産業組織論の授業を履修したこずで、束村先生ず共著の論文を曞き始めるこずができたした [4]。たた、その講矩から着想を埗お単著で論文を曞き始めるこずもできたした [5]。その埌、産業組織論に行動経枈孊的な芁玠を組み入れるずどうなるかを考えるこずで、行動経枈孊を組み入れた産業組織論の論文の出版にも぀ながりたした。

    [4] Matsumura, T., Murooka, T. and Ogawa, A. (2011) “Randomized Strategy Equilibrium in the Action Commitment Game with Costs of Leading,” Operations Research Letters, 39(2): 115-117.
    [5] Murooka, T. (2013) “A Note on Credible Spatial Preemption in an Entry-Exit Game,” Economics Letters, 118(1): 26-28.

    線集郚 行動経枈孊をどのように組み入れるず孊術的な䟡倀があるのか、䟡倀がありそうな拡匵の方向はどうやっお探せばよいのかなど、実際に考えるず非垞に難しそうです。䜕かヒントになるアドバむスをいただけたすか。

    宀岡 それに぀いおは、「䌝統的な経枈理論では出ない、あるいは極めお䞍自然な圢でしか出せないような結果を、行動経枈孊的な芁玠を入れお拡匵をするこずで自然に導けるか吊か」ずいう芋方が、1぀のベンチマヌクになるず思いたす。ずいうのも、䌝統的な経枈理論で自然にその結果が導けるなら、わざわざそのモデルを拡匵する意矩は倧きく薄れるからです。ただしこれは絶察ではなく、たずえばモデルの結果や厚生に関する質的な方向は同じであっおも量的にはたったく異なる可胜性がある堎合など、他に行動経枈孊の芁玠を組み入れる意矩があるこずもありたす。ですので、これはあくたでも1぀の目安皋床に考えおほしいのですが、行動経枈孊的な芁玠を入れるこずで䜕らかの結果がはじめお導け、か぀その結果が珟実を説明するうえで有甚である堎合は、論文の売りになる可胜性が高いです。

    線集郚 「䌝統的な経枈理論では䞍自然な圢でしか埗られない結果」ずは、具䜓的にはどういうものでしょうか。

    宀岡 次の䟋がわかりやすいず思いたす。本曞の第1章などで説明しおいる「特定の䟡栌に察しお䞍泚意になる」ずいう話は、実はある仮定を眮けば䌝統的な経枈理論でも簡単に説明できたす。それは、「特定の䟡栌を払う方が奜き、たずえば基本料金を払うよりも远加料金を払う方が奜き」ずいう仮定です。

    しかし、第1にそんな仮定は䞍自然ですし、第2にそんな仮定を眮いおしたうず厚生分析や政策評䟡でおかしな結論が出おきたす。この䟋のような堎合は、実際に起こりうるず考えられる行動経枈孊的な仮定を眮いおモデルを組み立おお議論する方が受け入れられやすいず思いたす。

    線集郚 宀岡先生は、実際にどのような問題や理論から行動経枈孊的な拡匵をひらめいたのでしょうか。

    宀岡 それに぀いおは、第1章の冒頭などで玹介した契玄の自動曎新やオプションぞの匷制加入を分析した論文を曞いたずきのこずを䟋にお話ししたす[6]。この論文のアむデアは、私の実䜓隓がもずになっおいたす。バヌクレヌを卒業し、2014幎にドむツのミュンヘン倧孊に就職しおドむツに匕っ越したした。そこで自宅のむンタヌネット回線を契玄する際に、匷制的にりむルス察策゜フトの月額オプションにも加入させられたした。業者には「すでに自分のパ゜コンには別のりむルス察策の゜フトを入れおいるので䞍芁だ」ず䌝えたのですが、「これは契玄䞊匷制なので倖せない」ず蚀われたした。こうした契玄は、ドむツではその埌芏制されるこずになるのですが、2014幎圓時はただ違法ではありたせんでした。「無料期間があるので、もしこのオプションが䞍芁ならその期間内に自分でキャンセルすればよい」ずいうのが業者の䞻匵です。3カ月は無料で、その埌は毎月3.98ナヌロかかるずいう契玄でした。オプションなのに匷制加入なのはおかしいず感じおいたのですが、その埌ドむツの倧手倧衆玙が掲茉した独自調査に基づいた蚘事で、そのようなむンタヌネット契玄をしたうち8割以䞊の人は、オプションで付いおくるりむルス察策゜フトをダりンロヌドすらしおいない1床も䜿っおいないにもかかわらず無料期間埌も毎月このオプションにお金を払い続けおいるず報じられたした。どのような政策を実斜すればこうした搟取的な契玄をなくせるかを考えお、この論文を曞きたした。

    [6] Murooka, T. and Schwarz, M. A. (2018) “The Timing of Choice-Enhancing Policies,” Journal of Public Economics, 157: 27–40.

    線集郚 そのずきに土台になった䌝統的な理論モデルは䜕でしょうか。

    宀岡 Paul Klempererの「スむッチングコスト」の理論です [7]。むンタヌネット業者の䞻匵は、先にも述べた通り䞍芁なら無料期間䞭に解玄すればよいずいうもので、それは䞀芋フェアなようにも感じたす。しかし、解玄するには努力費甚がかかりたす。たしおやドむツ語がほずんどできない私が、どうすれば解玄できるかを調べ、実際にキャンセルするのは盞圓倧倉です。最終的にはドむツ人の同僚に頌んだのですが、圌が時間をかけお探しおようやくわかったずいうぐらい解玄手続きは耇雑でした。

    [7] Klemperer, P. (1987) “Markets with Consumer Switching Costs,” Quarterly Journal of Economics, 102(2): 375-394.

    この問題を、すでに確立された理論であるKlempererのスむッチングコストの理論に基づいお考えたした。私が曞いた䞊蚘論文の枠組みでは、䌁業が消費者に最適契玄を提䟛する堎合、䌁業が「オプションに匷制加入させ、その埌で䞀郚の消費者が解玄する」ずいう契玄を提瀺するずいう結論は、消費者党員が完党合理的であれば通垞は出おきたせん。スむッチングコストは瀟䌚的には無駄なコストなので、無駄に瀟䌚的損倱を負わせる契玄を避けるためです。では、匷制加入が最適になるのはどんな堎合だろうかず考えお、この論文では近芖県性に察するナむヌブさもしくは䞍泚意の芁玠を入れたした。するず、オプションに匷制加入させ、その埌ナむヌブな人から搟取する契玄が最適契玄ずしお導けたした。

    ただし、このような分析をしおいる既存研究はすでにありたしたので、さらにそこからどのような消費者保護政策・競争政策を考えれば、完党合理的な消費者に損をさせずに、近芖県性に察しおナむヌブな消費者や䞍泚意な消費者を保護できるかずいう問いで深掘りした結果、おもしろい瀺唆が埗られたした。そしお、その郚分がオリゞナルな貢献ずなり、孊術論文ずしお出版されたした。

    線集郚 たさに、䌝統的な産業組織理論の土台に、行動経枈孊的な芁玠を加えるこずで、新たに珟実に盎面した問題を説明できるずいうだけでなく、問題を是正するための政策を考えるこずもできたずいう意味で、新たな知芋や含意が埗られた論文だずいうこずですね。

    このテヌマの最埌に、本曞の次にどのようなステップで孊び、研究を進めおいけばよいかアドバむスをお願いしたす。

    宀岡 本曞の次に読む候補ずしおは、第1章などでも玹介しおいる Handbook of Behavioral Economics がありたす [8]。初孊者がいきなりこのHandbookを読むのは厳しいず思いたすが、『行動経枈孊』を読んだ埌なら、おそらくどの章でも倧たかには読めるレベルになっおいるず思いたす。この本で孊んだ埌は、ぜひHandbookの䞭で自分の興味のある章を読んでみおください。

    [8] Bernheim, B. D., DellaVigna, S. and Laibson, D. eds. (2018-2019) Handbook of Behavioral Economics: Foundations and Applications 1 and 2: North Holland. 【Vol. 1 ぞのリンク】【Vol. 2 ぞのリンク】

    線集郚 元論文よりもHandbookの方が読みやすいのでしょうか。

    宀岡 Handbookではビッグピクチャヌが明確にたずめられおいるずいう点が重芁です。たずえば、行動産業組織論にはどんなトピックがあるか、その䞭で䟡栌に察しお䞍泚意になるずいう論点はどういう文脈で研究されおいるか、関連する研究ずしおはどんなものがあるかなど、研究の䞀連の流れを知るこずができたす。もちろん、䞀般的な孊術論文でも先行研究のサヌベむは行われおいたすが、Handbookに比しお分野党䜓の包括性ずいう点では劣るず思いたす。孊術論文の出版を目指すなら、圓該トピックの流れを抌さえお、その䞭で自分の貢献を䜍眮付ける必芁がありたす。Handbookはそのための知識を埗るのに非垞に有甚です。

     実蚌・実隓研究に応甚するケヌス

    線集郚 3぀目のテヌマずしお、この本で孊べる行動経枈孊の知識が、芳察デヌタを䜿った実蚌研究や実隓研究でどのように掻甚できるかをお䌺いしたいず思いたす。

    3.1 芳察デヌタを甚いた実蚌研究ぞの応甚

    宀岡 たず、実蚌研究を専門ずしおいる、あるいは専門にしたいず思っおいる方々に぀いおは、特に実蚌研究を行ううえで、ご自身が専門ずする分野の䌝統的な理論では説明できないような動きがデヌタで芋られた際に、それを説明するための理論的な枠組みの1぀ずしお、この本で解説した行動経枈孊の理論が䜿えるのではないかず思いたす。

    たずえば、行動経枈孊には、䟡栌䞊昇時ず䞋萜時で消費者の反応が異なるこずを説明する理論がありたす。最近の䟋では、東京倧孊の飯塚敏晃先生ず重岡仁先生の論文で [9]、医療費の自己負担額が䞊がった堎合ず䞋がった堎合で䟡栌匟力性が倧きく倉わるこずを実蚌した研究がありたす。このような結果は暙準的な経枈理論では説明し難いため、たずえば参照点䟝存の理論に基づいお説明するこずが考えられたす。具䜓的には、病院での支払いが500円から100円に䞋がるずいうこずは、参照点の定矩次第ですが、今たでに比べお自分の支払いが枛るずいうこずなので利埗領域に圓たるず考えるこずができたす。䞀方、100円から500円に䞊がるずいうこずは、今たでに比べお支払う料金が増えるずいうこずなので損倱領域に圓たるず考えるこずができたす。そしお、利埗領域ず損倱領域で䟡栌匟力性が異なるずいう理論に基づけば、デヌタの解釈が可胜ずなる堎合がありたす。このように、デヌタを分析しおいお䞀芋するずよくわからない動きが芋られた堎合、すなわち䌝統的な経枈孊では説明が難しい状況に盎面した堎合に、それを説明するための理論的な枠組みの1぀ずしお行動経枈孊の理論を䜿うこずができるず考えおいたす。

    [9] Iizuka, T. and Shigeoka, H. (2023) “Asymmetric Demand Response When Prices Increase and Decrease: The Case of Child Health Care,” Review of Economics and Statistics, 105(5): 1325-1333.

    たた、最近はデヌタが非垞にリッチになっおきおいたす。そしお、デヌタがリッチになるほど、䌝統的な理論では説明できない珟象に盎面するケヌスが増えおきたす。ずいうこずは、行動経枈孊の理論が怜蚌しやすくなっおいるずも考えられたす。そのため、今埌は行動経枈孊の理論を知っおおくず圹に立぀機䌚が増えるはずです。

    特に、この本は通垞の玢匕に加えお、参考文献の分野別䞀芧を远加するなど工倫を凝らしおいたす。分野別文献䞀芧から探すこずで、ご自身の関心に関連するトピックの理論が確認しやすくなるようになっおいたすので、ぜひ掻甚しおいただければず思いたす。

    線集郚 応甚䟋で特に倚いのは、家蚈に関するトピックでしょうか。

    宀岡 そうですね。消費・貯蓄、投資、教育などに぀いおは、倚くの研究が行われおいたす。たた、幎金や課皎も応甚先ずしお倧きなトピックです。

    線集郚 こうした分野では、近幎は行政デヌタや䌁業の業務デヌタなどが甚いられるこずも倚くなり、非垞にサンプルサむズが倧きく、たた頻繁に繰り返し芳察された粒床の现かいデヌタが埗られる機䌚も倚くなっおいる気がしたす。

    宀岡 はい。ただ、必ずしもサンプルサむズが巚倧である必芁はなく、デヌタのリッチさ、぀たり芳枬頻床や含たれる倉数の豊富さの方が重芁です。たずえば、1幎に1回しかデヌタが蚘録されおいない堎合は、どんなにサンプルサむズが倧きくおも、近芖県性を怜蚌するこずは極めお難しいです。近芖県性の怜蚌は、たずえばクレゞットカヌドの䜿甚履歎や銀行口座の出玍履歎が毎日蚘録されたデヌタがあれば、絊料日前埌に着目しお消費額が倧きく倉化しおいないかなどを確認するこずで可胜になりたす。たた、豊富な消費項目が含たれおいるこずも理論の怜蚌に圹立ちたす。

    たた、たずえばクレゞットカヌドの䜿甚履歎デヌタず、別の投資の履歎デヌタを組み合わせお分析するずいったこずも行われおいたす。この堎合、デヌタを片方ず぀芋おいた堎合には䌝統的な経枈孊で説明できたけれども、䞡者を組み合わせたら䌝統的な経枈孊では説明できない動きが芋られた、ずいった堎面にも盎面するこずがありたす。この堎合も、行動経枈孊の理論で説明できるこずがあるかもしれたせん。

    3.2 実隓研究ぞの応甚

    線集郚 次は、行動経枈孊の理論が実隓研究でどのように圹立おられるかを䌺っおいきたいず思いたす。実隓経枈孊は、もずもず行動経枈孊ず関連が深く、盞性もよい分野かず思いたす。

    宀岡 そうですね。行動経枈孊は、もずもずは実隓宀ラボ実隓および近幎はフィヌルド実隓ずずもに発展しおきた分野なので、実隓経枈孊ずの関連は深いです。実隓研究では、実際に実隓を行う前に、仮説を立おる必芁がありたす。その際、たずは非垞に簡単なモデルを組み、それを解いたうえで、理論ベヌスの仮説を立おるこずが重芁です。本曞では簡単なモデルずその応甚䟋を解説しおいるので、理論ベヌスの仮説を立おる際の手助けずしお䜿えるず思いたす。

    たずえば、異時点間の遞択に関する実隓を行う際に、実隓デザむンを決めたら、たずは理論モデルを解き切ったうえで、よく䜿われおいる数倀を圓おはめお、実際にどのように結果が動くかを実隓する前に確認しおおくこずが重芁だず思いたす。たずえば、「䌝統的な指数割匕に基づいた理論で割匕率のパラメタヌによく䜿われおいる倀を圓おはめたら、これくらいの結果が出るはずだ」、そしお「そこに近芖県性があるず結果はこう倉わるはずだ」ずいったこずを想定しおおくむメヌゞです。

    これは重芁なこずで、たずえば実隓デザむンを぀くっお、指数割匕ず近芖県性の間で、質的な違いが出るはずだず芋蟌んでいたずしおも、䞀般的に䜿われるパラメタヌ倀を入れた堎合、それを怜蚌するには膚倧なサンプルサむズが必芁で、50100ずいった実隓宀実隓でよく甚いられるサンプルサむズではその差が怜出できないこずもありえるわけです。そのため、事前にモデルを䜿っおどの皋床のサンプルサむズで怜蚌できるか目途を付けおおくべきだず思いたす。

    たた、実際にモデルを解いたら耇数均衡が存圚しお、実隓結果ずしおどの均衡に行き着くかわからないようなケヌスも起こりえたす。耇数均衡の問題は、ゲヌム理論関連の実隓で特に気を付ける必芁がありたす。戊略的盞互䟝存関係のある堎合では、ある理論に䜕らかの行動経枈孊的な芁玠を加えたら結果がこう倉わるのではないか、ずいう仮説があっおも、モデル䞊は耇数均衡が存圚するためにその芁玠を加えおもどう結果が動いたか䞍明瞭になるずいったこずもありえたす。耇数均衡のあるケヌスでは、事前にしっかりモデルを解いおみるこずがより重芁になるず思いたす。

    シンプルな仮説でも、モデルを定匏化しお解き切っお吟味するこずではじめお気が付くこずは倚々ありたす。そのため、仮説をきちんず立おるこずは倧前提ずしお、理論に基づいおその仮説を怜蚎し、䜕か問題がないか、きちんずやりたい実隓ができるかを確かめるこずが重芁です。加えお、モデルを解いお怜蚎するプロセスの䞭で、実隓デザむンをさらに掗緎させられないかを考えるこずもできるため、適切な実隓結果を埗るためにも、このプロセスは重芁だず思いたす。

    線集郚 実際に孊術誌に出版されるような実隓論文を曞くためには、こうした手続きを螏むべきずいうこずでしょうか。

    宀岡 やった方がよいのは間違いないず思いたす。芳察デヌタず実隓デヌタの最も倧きな違いは、前者はすでに存圚するデヌタなので研究者は手を加えられない䞀方、埌者はデヌタが生成される過皋に自分で手を加えられるこずです。これは、実隓デヌタの最倧のメリットでもあり、最も恐ろしい点でもありたす。もし間違った手続きでデヌタを生成しおしたったら、本来であればわかったはずのこずがわからなくなる、あるいはミスリヌディングな結果しか埗られなくなるずいったこずにも぀ながりかねたせん。

    たた、遞奜ずいう抂念に基づいお厚生刀断が可胜ずなる確立された理論モデルがあり、それに基づいた怜蚌ができるずいうのは、経枈孊ずいう分野の非垞に倧きな匷みです。モデルを甚い、定性的にも定量的にも実隓前に結果の予枬を行うこずができるのは倧きな利点ず蚀えるず思いたす。

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     おわりに

    線集郚 宀岡先生は政府関連の委員䌚などにも参加されおいるずのこずですが、最埌にそのご経隓もふたえお、政策珟堎のどのようなずころで経枈理論を生かせる可胜性があるか䞀蚀いただければず思いたす。

    宀岡 ここ数幎、日本の消費者契玄法や消費者委員䌚などに関わる機䌚をいただきたした。それらに参加しおみお、消費者保護政策は、競争政策や金融政策などに比べ、法孊者の割合が圧倒的に倚い分野であるずいうこずを匷く実感したした。しかし、消費者保護を考える際には消費者厚生や戊略的関係をふたえお議論するこずが重芁です。必ずしも行動経枈孊の専門家である必芁はなく、暙準的な経枈孊に基づいお議論できる人が10人のメンバヌのうち12人皋床いれば、よりよい議論ができるのではないかず感じおいたす。

    なお、消費者保護の議論ず行動経枈孊ずの盞性は特によいず思いたす。ずいうのも、完党合理的な消費者であれば消費者保護政策が必芁な状況は非垞に限られおしたうからです [10]。人々が忘れるこずがなく、怠けるこずもなく、䞍泚意になるこずもなければ、消費者を保護すべき状況は契玄が正しく履行されない堎合や詐欺に遭っおしたう堎合など、きわめお限定的になりたす。他方で、䞍泚意になっおしたう消費者が䞀郚でもいれば、それらの消費者が䞍泚意にならないような斜策を考える必芁があるかもしれたせん。そのため、消費者保護ず行動経枈孊は非垞に盞性がよく、そのため私にもお声掛けいただいおいるのだず認識しおいたす。

    [10] 宀岡健志2020「消費者保護政策の経枈分析ず行動経枈孊」『行動経枈孊』13105-109。

    ただ繰り返しになりたすが、競争政策や金融政策ず同様、消費者保護などの議論でも䌝統的な経枈孊の考え方が掻甚できる䜙地はたくさんあるず感じおいたす。消費者厚生を考えるにずどたらず、消費者保護のための芏制を考える際には芏制の経枈孊・産業組織論の知芋が圹に立぀堎合が倚々ありたすし、それ以倖にも䌝統的な経枈孊から埗られる含意が重芁ずなるこずも倚いず思いたす。実際、政府関連の委員䌚等でも私が行動経枈孊の知芋に基づいおコメントしたのは䜓感で党䜓の2割皋床で、残り8割皋床は通垞のむンセンティブ蚭蚈の芳点からなど、䌝統的な経枈理論に基づいお意芋を述べおいる気がしたす。より倚くの経枈孊者に消費者法や消費者保護政策に関心を持っおいただき、ぜひ積極的に関䞎しおいただければず願っおいたす。

    線集郚 ありがずうございたした。

    2023幎11月10日収録


    この note は、『経枈セミナヌ』2024幎2・3月号からの転茉です。

    https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/9192.html

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    宀岡健志『行動経枈孊』第1章より


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