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トラオレ大統領の理念・脱「依存」 ~ブルキナファソでグリオと暮らす私の、新たな挑戦⑤

    2026年6月9日火曜日
    伝統音楽派遣授業・番外編第2回 

    「自由はたいへん高く付く」

    2度目のグリオキッズのためのレッスンは前回から1週間後の火曜日。本当は先週の金曜日の予定でしたが、重要な仕事が入ったため、延期にしてしまったのです。金曜日の朝、延期の連絡がうまく伝わっていなかったのか、数人の子どもたちが7時台から我が家に来てしまい(レッスンはいつも9時からと言ってあったのですが)、火曜日に延期と聞くと、残念そうに帰って行きました。

    月曜日にマブドゥの次男のイスマエルは、朝から計5回も父親に「明日はレッスンだよね?」と確認したそうです。このことからも、彼がどれほど楽しみにしているかがうかがえます。

    その月曜日、私にとってはある重大な局面がありました。私たちがブルキナファソ政府に申請中のブルキナファソ日本文化交流協会(ADEC/BF-J)の集会が書記のイブラヒム(私のオペラバンドのメンバーで、マブドゥの甥です)の発案で招集されたのです。

    「来るべくして来た」と内心思ったので、それなりに準備してその日を迎えました。集会は9時から我が家のテラスで行われましたが、開始時刻に集まったのはマブドゥと私以外には、言い出しっぺのイブラヒム、バラフォン奏者のブレイマだけでした。

    この4人は、2020年に私がオペラプロジェクトを開始した時の創立メンバーです。私は当時、ブルキナファソへ来て日が浅く、人選はマブドゥ任せでした。その後、かなり経ってからコメディアンのラミッサ、そして最後にギタリストのヤクバが加わり、現在のバンドは計6名なのです。

    オペラプロジェクトは私が個人で始めたもので、いっさいの既成のオルガニゼーションとは無縁でしたし、私財を投じて始めた分、大変ではありましたが「自由」でした。もちろん、その都度様々な助成金に応募したり、クラウドファンディングを行ったりして財政を補強させていただきましたし、その場合には助成金の使い道を決算報告しましたが、全体としては自分で自由に決裁し、オペラの内容についても誰からも検閲を受けることもありませんでした。

    これは、芸術制作にとって限りなく重要なことなんです。ふんだんな資金が誰かから提供されれば、お金の苦労からは解放されるかもしれませんが、その資金提供者の意向に左右されることになったら、元も子もないです。「少しくらい妥協しても、経済が安定すれば良いのでは?」は、芸術制作の現場ではNGだと私は思っています。

    言い換えれば、「自由はたいへん高く付く」とも言えます。

    イブラヒム・トラオレ大統領

    オペラプロジェクト開始から2年後の2022年に、ブルキナファソは2度のクーデターを経験しました。2度目のクーデター以降、暫定政権の大統領となったのが、イブラヒム・トラオレです。彼は世界で一番若い大統領で、非常にしっかりした理念で国を導く、知的で、国民に広く愛される存在です。就任以来、彼が国民に向かって語り続けてきたことは「依存からの脱却」です。「主権の回復」と同義ですが、フランスの植民地時代、そしてその後も長く続いたポスト・コロニアル時代に終止符を打ち、真に主権を回復するためには、知らず知らずのうちに恒常化していた「依存」の仕組み、そして、「自分たちだけでは何もできない」と信じ込まされた、あるいは自ら信じ込んできた「思い込み」を捨て、自分たちの手で必要なことを始めなければならない、と彼は言い続けてきたのです。

    これは、日本人である私の心にも強く響きます。明治以来、日本が歩んできた道のりにもさまざまな局面があり、さまざまな反省点もあると思うからです。

    現在の暫定政権はテロリストからの国土奪還、国民の安全確保、インフラの整備、雇用の創出などに全力を注いでいます。ですから文化・芸術にじゅうぶんな資金を注ぎ込むことはまだ難しいのかもしれません。万博のブルキナファソの自主催事という位置付けだったオペラ公演も、全ての資金を私が調達し、政府からは一銭も貰いませんでした。

    しかし、この伝統音楽派遣授業は、別のやり方で実施するつもりです。これは決して私の個人プロジェクトではなく、新しく設立される協会(ADEC/BF-J)の新事業として構想しています。トラオレ大統領の理念に心から賛同し、それと共に歩むために、グリオたちには、私にも、外部団体にも依存してほしくないのです。あくまでもワガドゥグ市当局とグリオ共同体の事業として進めて行きたいのです。実際に、ブルキナファソをはじめ、サヘル諸国は国連、二国間援助機関や国際NGOを中心とした支援に懐疑的になっていて、多くの制約を課すようになっています。ブルキナファソの文脈で言うと、現政権はしばしば 「援助そのもの」よりも、「援助を通じた影響力行使」を問題視しています。つまり、学校建設や保健医療支援に反対しているのではなく、その背後に政策誘導、ガバナンス改革要求、人権・民主化条件、外交的影響力などが伴うことへの警戒です。そのため、特にフランス系の機関や、一部の欧米援助機関に対する不信感が強まっています。

    ブルキナファソ日本文化交流協会(ADEC/BF-J)の設立 

    協会の設立準備はなかなか大変で、メンバー候補を30名以上募り、会則などの各種書類を作り、当局の人々にチェックしてもらい、何度かやり直した末にようやく提出。それが1月半ばのことでしたが、未だに承認待ちです。

    もちろんこの間、様々な費用が発生しましたが、それは(相変わらず)全て私持ち。承認されたら、全員から入会金5,000CFA、月会費500CFA, さらに会員証代1,500CFA(毎年更新)を徴収し、それを資金源として活動を始めなければなりません。初年度は計12,500CFAを納めてもらわねばなりませんが、一体誰がこの大金をすんなり納めるでしょうか?ちなみに、私はもっと値段を低く設定していましたが、金額は当局の人々によって訂正されたのです。

    承認には4ヶ月かかると当局から言われた私は、すぐに動いてワガドゥグ市長に面会のアポイントを取りました。承認されてからのこのこ動き出したら、実際の事業開始は来年になってしまうかもしれません。会社もそうですが、協会にしても維持するだけでもお金が掛かりますから、何もしないでいると単なる重荷になってしまいます。

    早く動いた甲斐があり、5月半ば過ぎに派遣授業プロジェクトはスタートする運びになりましたが、肝心の協会の承認のほうが遅れてしまっています!幸いにも市当局は、承認待ちでも始めて良いという考えだったのですが、逆にこちらは資金も集められていないうちに事業を始めなくてはならなくなったわけです。

    そこで私は、限りある自己資金は楽器製作に注ぎ、さらに大学時代の友人と設立した日本の合同会社でクラファンを始め、楽器製作の支援者を募っています。

     https://ft-music.com/burkina 

    そして、敢えて、バンド以外の2人の(未来の)協会メンバーを選んで、パイロットフェーズ期間の小学校での指導を頼んだのです(もちろんマブドゥはバンドメンバーですが、例外です)。

    なぜなら、協会はバンドメンバーだけのものではないし、12,500CFAを支払ってもらうためには、何か先行して仕事を与えて、そこから天引きする以外、確実な方法はないと私にはわかっているからです。ここで、バンドメンバーにその機会を与えたら、他の人々は協会に事実上入れなくなってしまう…バンドメンバーだって12,500CFAをスッと出せるとは思わないけれど、彼らには今までオペラプロジェクトで散々支払ってきたのだから、今回は自力で何とかしてほしいと思ったわけです。

    私がSNSに投稿している派遣授業の風景を見て、イブラヒムは「ちょっと裏切られた」と思ったのかもしれません。そう感じてもおかしくはないですよね。

    ですが、実は私の方にも「ちょっと裏切られた」と主張出来る状況があったのです(もちろん、イブラヒムには裏切りの意識はなかったと信じていますが)。

    実は、彼は一見似たような事業ールクセンブルクのNGOが資金提供して、ブルキナファソ各地で学校を訪問して子どもたちにダンスや音楽を体験させるという活動ーに、リュックというかつて私のオペラプロジェクトに参加していたダンサーの誘いで参加していたのです。リュックはヨーロッパのフランス語圏ネットワークとの結びつきが強く、ベルギーやフランスなどにもよく招待されているダンサーで、マブドゥにとっては(歳はマブドゥより若いですが)叔父に当たります。

    優れたダンサーですが、彼とマブドゥ、私との間には大きな問題が起こり、互いに理解し合えずじまいでした。その話はここでは省略しますが、基本的に理念の問題です。お金がふんだんにあって、皆にもじゅうぶんに支払えれば素晴らしいですが、そのお金の出処はどこで、誰が主体なのか?は私にとっては、限りなく大切なのです。

    かといって、私自身外部資金を拒絶しているわけでは決してありません。ですが、「資金は外から来ても、設計権と最終的な責任は現地に置く」という考え方をしっかり貫いて、現在のブルキナファソの政治的・社会的議論の中でも説明しやすい立場を取り、プロジェクトの「見え方」にもしっかり配慮したいのです。

    バンド仲間の説得

    私は以上の内容を、遅れてきたヤクバとラミッサを含めたバンド全員に、モレ語主体、フランス語交じりで、なるべくマブドゥの力を借りずに自分のことばで伝えました。その上で「明日のグリオの子どもたちのレッスンは、派遣授業プロジェクトの一環ですらない。だから、何ら報酬はないし、そもそもこれは私の課題というより、むしろあなたたちグリオの課題でしょ?でも、報酬無し、ガソリン代無しでも参加してくれるのなら、大いに歓迎する」と言い添えました。イブラヒムは先約があって来られないとのことでしたが、ブレイマは翌朝駆けつけてくれました!

    グリオの子どもたちが2度目のレッスンで挑戦したブルキナファソ国歌を聞いてください。

    https://youtu.be/C87nFGGTJ0k


     
     
     
    私は京都出身の日本の作曲家です。オーケストラ、西洋楽器の室内楽、雅楽、邦楽アンサンブル、合唱などいろいろな作品を発表してきましたが、近年はオペラ制作を中心に据えています。今更なぜオペラ?という問いへの答えは単純ではないのでおいおい書かせてください。現在、ブルキナファソが拠点です。

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