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【脚本】 『好きな人』

    座りながらたそがれる男A
    スーツ姿の男B登場

    A「……なんだよ、そんな、本当にいるんだって言いたげな顔して」
    B「……ほんとにいるんだ」
    A「なんだよ、そんな、本当にいるんだって言った顔して」
    B「本当に言ったからな」
    A「まあ、座れよ」

    B嫌そうに座る

    A「なあ。お前、好きな人いる?」
    B「中学生か!というか、ここどこだよ……土手だよな!土手なんだよ、家の近くの。”17時半にいつもんとこ集合な”で、なんでわかったんだかなぁ。……わかんなかったんだよなぁ、帰りぎわに通りかかっただけだもん。……なんで土手なんだよ」
    A「お!みてみろ、鳩の大群じゃん。おどかしてみよ。やーい、やーい」

    A一瞬はけ、軽く悲鳴

    A「ちょい足捻った、痛てえ……うっわ犬のうんこ。あっぶねぇ、
    あ、ちょっと踏んだ。今日は、来てくれてありがとう」
    B「……俺ら今年でもう35だよね?」
    A「まあ、座れよ」

    AB座る

    A「お前、好きな人……」
    B「もういいよ!5年ぶりに連絡くれたと思ったら、何やってんだよ。今日仕事は?」
    A「休み」
    B「いつもんとこってどこだよ。この土手、一緒に来たことねえよ」
    A「そこはこう、平日、夕方、友達との約束、でうまい具合にさっ……」
    B「察せないからね」
    A「好きな人に振られた」
    B「あ?好きな人?」
    A「そう、好きな人」
    B「……付き合ってる人じゃなくて?」
    A「好きな人」
    B「なんかもう、あんま聴かないよな。この歳になって好きな人って言葉。……好きな人に振られる、ってなんだよ、告白したのか」
    A「この俺が、どんな人に振られたのか気になってきたでしょ」
    B「いや別に」
    A「思い起こすこと1日前」
    B「人はそれを昨日と言うんじゃないかな」
    A「駅のベンチでスマホを持ちながらうたた寝をしていた俺は、あろうことか、スマホを落としてしまった。駅構内に響き渡る重量感のある乾いた音。人々に伝わる緊張。拾ってあげるか思案する声。よだれをたらして寝てる俺」
    B「起きろよ」
    A「すると、肩に衝撃が走りうっすら耳に届く落としましたよの澄んだ声。その声はお礼をいうまもなく立ち去ってしまった。そして今日は会えなかった。避けられてる、振られた」
    B「タイミングが合わなかっただけだろ」
    A「よよよ(泣いてるふり)」
    B「なんだその嘘泣き……ところで、今日仕事は?」
    A「休み」
    B「駅には?」
    A「行ってない」
    B「そりゃ、お前が駅に行かなきゃ会えるものも会えないだろうよ。振られるどころか始まってもいねえよ。……なんだよこの話」
    A「その人、鳩が朝方鳴く声にカラスがめっちゃバカにしてきた声を足して2で割った感じの声なんだけど、誰か知らない?」
    B「知らねえ!」
    A「相談したかったのよ、彼女ってどうやったらできるんだっけ」
    B「いや知らねえ」
    A「この俺が、どんな人がタイプか気になってきたでしょ」
    B「……鳩とカラスの声を足して2で割った声の人だろ」
    A「いやあ、いくつかあるんだよな。まずはやっぱ、おしとやかだけど芯がある感じでその……」
    B「けっこうちゃんとした理想があるんだな」
    A「空を飛べる石持ってて、亡国のお姫様で。ここが鉱山の街で、お前が親方だとすれば、なんかこうやって手を前に出して、せーの」
    AB「親方、空から女の子が」
    B「俺、親方である必要なくね」
    A「あ、違った。手は前に出さずに斜め上を見上げて何かを発見。
    すぐさま走り出す。せーの」
    AB「親方、空からおん……」
    B「パズーじゃん。あ、間違えた。シータじゃん。お前シータがタイプなの?」
    A「俺、苦労せずトランペットが吹けるようになりたかったんだよね」
    B「ついでにシータのこと得体の知れない強力トランペット覚え機かなんかだと思ってる?違うからね」
    A「あとはなんだろ。落ち着いた雰囲気で、物静かで……」
    B「やっぱ似た感じの」
    A「放課後、ゆうじの助言で図書室に向かった。あやかからもらったヒントは小説。きっとあやかの好きな万葉集に真相があるに違いない」
    B「おい、誰だよゆうじとあやか。ノベルゲームでも始めた?」
    A「なかなかお目当ての万葉集が見つからない。幾何学、猿でもわかる数学……」
    B「そんなとこにねえよ万葉集。小説の棚探せよ。……てか万葉集は小説なのか?」
    A「やっと見つけたお目当ての本。手に取ろうとした瞬間触れ合う手。あ、すいません。これが彼女との出会いだった。……くぅ、いいね」
    B「意外な感じだな。めっちゃ動物園みたいな声に惹かれてるのに」
    A「なんだよ動物園みたいな声って」
    B「スマホを拾った鳩カラスだよ」
    A「カラスの音色が若干強いからカラスバトだよ」
    B「どっちでもいいよ!カラスの鳴き声を音色って言うな」
    A「あ、あれもやってみたい」
    B「なんだよ」
    A「小さい頃からずっと一緒にいた幼馴染。お互いのほくろの数さえ知っている幼馴染」
    B「なんか気持ち悪いなぁ」
    A「淡い恋心を抱きつつもその想いはひた隠し、幼馴染はいま、どこの骨とも分からない奴と結婚します。俺は認めん」
    B「父親かよ」
    A「結婚式、誓いのキスをするその瞬間、式場の扉を勢いよく開けて、そのけっこ……」
    B「あー、そうだ」
    A「なんだよ」
    B「せっかく会えるから言おうと思ってたんだけど、ちょっと前にさ、結婚したんだ」
    A「は?結婚?」
    B「結婚」
    A「……おめでとう」
    B「ありがとう」
    A「(どっかの方向に)くそおおお」

    終


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