
【ショートショート】 ムキムキマッチョアクション系俳優っぽい人たちよる超ぶっつけ将棋中継 《せりふ三題噺》
「ほら、ウェイン! いいから来い! 急げよ!」
「なんなんだ、ジェス!? 日曜の朝10時だぞ!? まだ昨日の酒も抜けてねぇってのに」
「マジか!? もう始まってる? あ〜…やあ、皆さん。素敵な日曜の…朝だね。今日はワケあって、この俺ジェスとダチのウェインが中継をやっていくからヨロシク!」
「おい、何だジェス!? 一体どうなってる!? ちゃんと説明しろって!」
「昨夜、バーで絡んできた二人組覚えてるか?」
「あの酔っぱらいたちか? それがどうした?」
「本当ならあいつらが今ここにいるはずだったんだ。だが…ほら、今あいつら病院だろ?」
「お前が派手にブン殴ったからな」
「おいおいおい! 人聞きの悪いこと言うなよ! ちょっと転んじまったっていうか、アクシデントみたいなもんだろ? で、俺たちが今日のピンチヒッターを彼らから頼まれたってわけだ」
「おい!? まさかこれカメラか!? テレビか何かに写ってんのか!? なんで断らなかったんだ、ジェス!?」
「そりゃあお前、被害届の取り下げと治療費の免除っていう条件には換えられないだろ」
「あぁ…なるほど。そういうことか。OK、わかった。何も聞かされてなかったから、ルームウェアにしているウサちゃんTシャツのまま来ちまったぜ」
「大丈夫だ、ウェイン。部屋でウサちゃんを着てようが、お前の一見高級ブランドっぽい財布が合皮の安モンだろうが、誰も気にしちゃいねぇって」
「で、俺らは何すりゃいいんだ?」
「将棋ってやつの解説だ」
「将棋? なんだそりゃ? よく知らねぇモンをどう解説しろってんだ!? いや、待て。聞いたことはあるぞ。確か…チェスみたいなやつじゃなかったか?」
「ああ、そうだ。とりあえず日本のチェスだと思えばいい。ほら、ここにいる王将ってのがキングで、前線にいる歩ってのがポーンみたいなやつらだ」
「なるほど、似てるな」
「だろ? ただ大きくチェスと違うのが、駒の復活がアリってのと、この歩は敵陣深くまで到達すると超強ぇランクまで一気に出世するってことだ」
「おいおい、マジかよ!? 俺らみたいな連中にとっちゃ、チェスより全然夢のある話じゃねぇか」
『秒読みを始めます…10秒』
「んっ!? おい、待て! なんかカウントダウンっぽいのが聞こえるぞ!」
『…20秒』
「おい、まさか爆◯か!? くそっ、ファイブ・ポインツのやつらが仕掛けてきやがった!! おい、お前ら! とっとと逃げろ!! 爆発するぞ!! ほら、さっさとしろ! 死にてぇのか!?」
「おい、落ち着けウェイン。慌てんな。これは爆◯じゃなくて秒読みって持ち時間のルールだ。タイムオーバーになると負けになるんだよ」
「ったく、ふざけんな! 今、マジで死ぬかと思ったぜ!」
「悪い、悪い。そんなにビビり散らかすとは思わなかったよ。それでな、せっかくだからこのルールにちょいと仕掛けをさせてもらった。ほら、画面でカウントしてるあの娘、見えるだろ? 実は俺の知り合いなんだ。さぁ、面白いことが起こるぞ」
『残りはなくなりました。ですが、渡辺七段。あなたが不倫相手へのプレゼントとして購入したコーンウォール産高級ブルーシーグラスのネックレス税込約80000円を我々に差し出すのなら持ち時間を延長しますが、いかがしますか? 10秒で決めて下さい。1、2、3、4、5…』
『え…延長で…』
「Oh〜! こりゃ痛烈だな!」
「かなり急だったが、上手くいったぜ。こんなふうに、調べないほうがいいようなネタをチラつかせて対戦していってもらおうっていう、日曜の朝とは思えないとてもスリリングな将棋さ」
「テレビの前のみんな! 火遊びにはくれぐれも気をつけろよ!」
元ネタMemo
ファイブ・ポインツ・ギャング
1890年頃からニューヨークのロウアー・イースト・サイドで活動していたイタリア系ストリートギャング。1900年代初頭の最大勢力はおよそ1500人。
由来となったファイブ・ポインツの地は当時から人工過密なスラム街として有名だった。現在は裁判所や更生局の施設などが建っている。
*こちらに参加させていただきました🙇♂️
お題
せりふ:調べないほうがいいよ
三題:合皮、シーグラス、将棋