
【詩】 天目 ユグドラシル
《曜》
快晴を埋め尽くす鈍い轟音
不格好なスローモーション画
霞雲の隙間から優に三〇〇余
軍用輸送機の大連隊が迫り来る
ビルが林立したダウンタウン上空
輸送機の後部ハッチが開かれる
C-5ギャラクシー/八重桜の花弁
An124ルスラーン/新緑の芽
C-130ハーキュリーズ/枯れの葉々
エンブラエル390ミレニアム/白蝶貝のボタン
大量の一斉投下
歪に各々の色を残し
揺らめきながら降ってくる
《変》
地上70m
ボタンが激しく震え出す
左回りの円を描く水平移動
その速度は飛躍して暴風となり
花たちを巻き込む
ビル群を囲ったトルネードは全ての五感を襲い
割れた硝子が次々と風の渦に加わる
悍ましい悲鳴と共にマンホールが剥がされ
堪えきれなくなった悪臭と汚水の急流が
暗黒の奥座から噴き出してくる
《天》
狂おしい縦揺れ
下から一方的に突き上げ
アスファルトを砕いて現れる強大な木の根
猛烈な速さで伸びゆく枝の触手
荒ぶる竜の如く溢れた汚水を喰らい
上へ
ビルを容易く締め付け
その肌と芯に注ぐ愛撫
横へ
空中に舞う
淡淡しい花弁/幼い色の芽
砂のような枯葉/白く可憐なボタンを
取り込んでいく
地上800m
ダウンタウンを飲み込んだ幹
幾千重に入り組んだ枝々は迷宮の仕掛け
巡る花葉によるグラデーションの傘
都市機能は覆われた陰となる
《目》
重厚な腕に抱きとめられた
マンホールと硝子の欠片たち
その巣の中で
夥しい数の雛が甲高く鳴いている
成長を遂げた一羽が
宿り木から飛翔する
頭部と上面のブルーグレー
下面から腹への薔薇色
黒い嘴
絶滅種
passenger pigeon[放浪者]
リョコウバト
一羽に一羽
また一羽と続いていく
白蝶貝のボタンを目に嵌めて
大樹の傘を抜け煌めく数千万の天の川
訣別を告げる羽ばたきの音
世界樹を振り返ることなく
彼方の空へ去る
*こちら昨年夏に書いたものを加筆・修正しました
#創作大賞2026 #オールカテゴリ部門 #詩 #自由詩 #現代詩 #世界樹 #ユグドラシル #リョコウバト #絶滅種 #曜変天目