短編小説 孤独な夜に
真夜中、ふと目覚めたら、私の枕元に小さな男の人が静かに立っていた。
大きさは身長十センチぐらい、体はすらっとしていて、人間で例えれば二十五歳ぐらいだろう。上品な顔だちの好青年だった。
私は薄目をあけて小人の彼を観察した。けれど、枕元のまわりをゆっくり動いているだけで何をしているのかわからなかった。
本来、小人が目の前にいたら驚くだろうが、私は驚かなかった。初めてではなかったからだ。
ちょうど一ヶ月ほど前、ふと目覚めたら小人がいて、その時は「わあ」と声を出してしまった。すると、彼はぱっと消えてしまいどこにもいなくなった。
「寝ぼけていたんだ」と、あまり気にしていなかったけど、三日後、再び彼は現れた。
それから一週間に一回程度、彼は私の枕元に現れて、音もなく何か作業をしている。服装は少しだらしないが、男の子だから許すことにしよう。それよりも、一生懸命動いている姿が愛らしく、私は彼を驚かせないようにしようと考えた。

今日、久々に課長に怒られた。
「何をやっているの! 新入社員じゃないのよ!」
いつも優しい憧れの女性課長が厳しい顔で私を睨んだ。
資料の間違い。注文のミス。謝罪の言葉足らず。すべてが自分の責任である。そんなことはわかっているが、強い言葉で責められると精神が病んでしまう。
独り暮らしの私は、家に帰ってスマホをいじりながら
「誰かと話したい」
と思った。でも、二十九歳になる私の話を親身になって聞いてくれる友人なんていない。
みんな結婚して子どもだっている。仕事の愚痴を本気で聞いてくれる暇などない。学生の時とは違うのだ。
こんな時、「大変だったね」と優しく話を聞いてくれる彼がいたら……。そう思うと、胸がじんわり熱くなって涙がにじむ。
もしかしたら、夜中に現れる小人の彼は私自身の願望であり、幻なのかもしれない。そう考えたら、この幻を大切にして、ほんのひと時だけでも幸せな気持ちになりたいと考えた。
しかし、ある時から小人の彼は現れなくなってしまった。
私が荒れて、部屋の物をいっぱい投げ散らかしたときから彼は現れなくなったのだ。
あの時はひどかった。我慢ができなかった。どうしてなの、許せない。仕事なんて、仕事なんて。そう思いながら、結局、自分には仕事しか残ってないと落ち込んでしまった。
一ヶ月ほどして、心が落ち着いてきたころ、小人の彼に会いたいと思うようになった。寝不足にならないように、いつも通りの生活をした。
そしてある晩、忘れかけていた頃に再び彼は現れた。
その日は忙しくて本当に疲れきっていた。それなのに体が火照ってどうしても寝付けない。理由の見つからない淋しさが込み上げて、何度も枕の向きを変えながら目元が熱くなっていた。そんなとき、彼が再び現れたのだ。
足を怪我していた。小さな体をゆっくりと動かしながら、それでも何かを懸命にしていた。
どうして怪我をしたんだろう?
「もしかしたらあの時、私が暴れたから」
そんな思いもあって謝りたい気持ちがあった。しかし、驚かせてはいけないので、心の中で「ごめんなさい」と彼に伝えた。
私は胸の奥がきゅうっとなる気持ちを抑え、薄目を開けて彼の動きを細かく観察した。
いったい何をしているのだろう。しばらくして「はっ」と気が付いた。彼は枕元のまわりの涙を小さな手で、静かに拭いていたのだ。優しく、丁寧に、そしてひたむきに。
彼を見ているうちに、胸の奥にある「孤独の夜」という濁りが少しずつ消えていった。
そして、久しぶりに穏やかな眠りの中へと私は落ちていった。

#創作大賞2025 #ファンタジー小説部門
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今後、原爆をテーマに小説を書きます。テーマ的に文学賞からの出版は厳しいと考えてます。出版費用にしたいです。応募よろしくお願いします。