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上杉鷹山――農業による藩政再建🌙千夜一夜物語第169夜 日本語版

    【プロローグ】絶望の淵にあった米沢藩

    江戸時代中期、名門・上杉家が治める出羽国米沢藩は莫大な借金を抱え、まさに倒産寸前の状態にありました。領民は疲弊し、田畑は荒れ果て、逃散する農民も後を絶たない絶望的な財政危機。そんな中、わずか17歳で家督を継いだのが、後に「江戸時代屈指の名君」と謳われる上杉鷹山です。財政危機の際、為政者や経営者はどう動くべきか。手っ取り早く農民から重税を搾り取って目先の資金繰りを回すか、それとも農民に投資して将来の税収(利益)を育てるべきか。現代の税制や事業投資にも通じる「投資と回収」の視点から、農業用水の整備などを進め、奇跡のV字回復を成し遂げた鷹山公ご本人にお話を伺います。

    【インタビュー】民への投資こそが最大の財政再建

    記者「本日は時空を超えてお越しいただき、誠にありがとうございます」

    鷹山「お招きいただき感謝する。日向国高鍋藩の秋月家から上杉家へ養子に入り、第九代米沢藩主を務めた上杉治憲、隠居後の号である『鷹山』の名で知られている者だ」

    記者「鷹山公が藩主となられた時、米沢藩の借金は現代の価値で数百億円規模に達していたそうですね」

    鷹山「うむ。私が家督を継いだ明和4年(1767年)、藩の金庫は完全に底を突き、幕府に領地を返上しようかという話すら出ていた。領民は極貧にあえぎ、明日食べる米すら事欠く有様だったのだ」

    記者「そのような極限状態において、普通であれば『とにかく税を厳しく取り立てて当面の資金繰りを安定させる』という思考に陥りがちです。税務や経営の視点から見ても、そこからあえて支出を伴う『投資』へ舵を切るというのは非常に困難な決断に思えます」

    鷹山「たしかに、帳簿上の目先の数字だけを見れば増税に走るのが手っ取り早い。だが、乾ききった雑巾を絞っても水は出ない。民は国の本(もと)である。本が枯れてしまえば、国は必ず滅びる。ゆえに私は『農民から搾取する』のではなく『農民に投資する』決断を下したのだ」

    記者「具体的にはどのような投資を行われたのでしょうか」

    鷹山「農林水産省の記録などにも残っている通り、最大の急務は農業インフラの整備だ。黒井半四郎という実務に長けた有能な者を抜擢し、農業用水路である『黒井堰(くろいぜき)』の大がかりな治水・灌漑工事を行った」

    記者「財政難のさなかに大規模なインフラ投資を行うのは、周囲からの相当な反発があったのではありませんか?」

    鷹山「無論だ。重臣たちからは『そんな金がどこにあるのか』と猛反対された。しかし、水が引ければ荒れ地が美田に変わり、確実に収穫量が増える。収穫が増えれば民の生活が豊かになり、結果として藩への年貢(税収)も長期的に安定して増える。これは単なる出費ではなく、未来の税基盤を作るための確実な『事業投資』なのだ」

    記者「経営改善の伴走支援にも通じる、本質的な産業育成政策ですね。農業以外の振興も行われたと聞いています」

    鷹山「稲作という単一事業に依存するのはリスクが大きいからな。漆、桑、楮(こうぞ)などを植えさせ、養蚕や織物といった特産品作りを奨励し、収益源の多角化を図った。これが後に米沢織として大きな産業に成長していく。民が自らの手で富を生み出せる仕組みを作ることこそが、真の税収確保につながるのだ」

    記者「危機の時こそ、絞り取るのではなく種を蒔く。当時の大規模な農業用水整備において、投資対効果をどのように見積もって保守的な重臣たちを説得したとお考えですか?」

    鷹山「重臣たちを説得できたのは、単に机上の収支予測を示したからではない。まず私自身が生活費を大幅に削り、大名としての贅沢を一切捨て去る『大倹約』を実践したからだ」

    記者「トップ自らが身を切ることで、経営再建への本気度を示したわけですね」

    鷹山「その通りだ。指導者が自ら痛みを伴わずに『民のために投資せよ』と命じても誰も動かん。私自身の生活費を七分の一まで削り、木綿の衣を着て一汁一菜とした。その上で、黒井半四郎のような現場を知る専門家に緻密な測量と収穫増加の見積もりを出させたのだ」

    記者「熱意と姿勢だけでなく、専門家によるデータという客観的な論理の両輪で説得したのですね」

    鷹山「左様。さらに重臣たちには『このまま何もしなければ数年で藩は確実に破綻する』という現実を直視させた。領民から無理に税を搾り取るにも限界がある。ならば、未来の税収基盤の拡大に賭ける以外に生き残る道はないと説いたのだ」

    記者「現代の中小企業経営でも、コストカットと成長投資のバランスが問われます。鷹山公はその両方を同時に、かつ大胆に実行されたのですね」

    鷹山「倹約だけではジリ貧になるからな。浮かせた資金を確実な成長分野へ振り向けることが肝要だ。鯉の養殖などもその一環だ。内陸の米沢でも豊かな食が確保できるようにした。これも立派な事業投資と言える」

    記者「税務や労務管理を担う現代の経営者にとっても、痛いほど響く教訓ばかりです。最後に、現代のリーダーに向けてメッセージをお願いします」

    鷹山「国であれ企業であれ、組織を根本で支えているのは『人』である。危機の時こそ、現場で働く者たちを信じ、彼らが能力を発揮できる環境への『人への投資』を怠ってはならない。トップ自らが泥をかぶる覚悟を持ち、人を育て、産業を育てれば、必ず利益は後からついてくる。『なせば成る なさねば成らぬ 何事も 成らぬは人の なさぬなりけり』の精神を忘れるな」

    記者「本日は貴重なお話を誠にありがとうございました」

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