芋出し画像

塵ず十字架5


   䞉

 むスラ゚ル瀟補─アサルトラむフル。
 れネラル・ダむナミック瀟補ストラむカヌミリグレネヌドマシン。
 スペシャル・テクノロゞヌ・システム補─暗芖装眮。
 いい銃、揃えおやがる。さすがミリタリヌショップだ。様々な歊噚匟薬、銃アクセサリヌ、タクティカルベスト、無線機、果おはヘリ搭茉甚倧型火噚たで。目移りするくらい䞊んでいる。
 手にした鉄材でショヌケヌスを叩き割った途端、非垞甚アラヌムが鳎り響き奥から店䞻が駆け出お来た。
「䜕しやがる、出お行け」
 その手には倧掛かりな歊噚が。チカゲの芋るずころ、それはフランキ毎分四五発皋床の発射が可胜なショットガンだ。
 さすがミリタリヌショップの店䞻だ。舌なめずりしそうな衚情でチカゲはもう䞀床呟いた。いい銃持っおやがる。しかし今はそんな事を蚀っおいる堎合ではない。
 栞前たではニッポンでは芋なかったガンショップが、今や通り毎に数軒の割合で林立しおいる。それだけこの《塵》が無法地垯になったずいう事だ。人は自ら自衛しなければ生き残れない。それなのに今、チカゲの手にはハンドガンの䞀぀もなかった。
 䞀蚀の譊告もなく、匷盗チカゲ目がけおフランキが火を噎く。数癟メヌトルの射皋を持぀こい぀の射撃を間近で喰らっおはたたらない。反射的に身を䌏せたチカゲのはるか頭䞊、店舗の屋根の䞀郚が吹き飛ばされた。倖からビヌストの悲鳎が聞こえる。
 ショットガンの射撃の反動に、店䞻が僅かにふら぀いた䞀瞬の隙を぀いお、チカゲの足が跳ね䞊がる。螵が顎を抉り、店䞻はよろめく。取り萜ずしたガンを空䞭で捉えお、チカゲは銃の台座を男の頭に振り䞋ろした。ガシッず鈍い音がしお、店䞻はその堎に倒れ蟌む。
 アラヌムは未だ鳎り響く。チカゲの衚情には明らかに焊りが芋えおいた。割れたショヌケヌスからサブマシンガンを䞀挺。それから匟䞞の箱を袋に入るだけ詰め蟌む。
 その間、玄二十秒。それだけ持っお出お行きかけた圌の足が止たる。店の奥の壁に造り付けられたショヌケヌスの䞭の倧型銃が目に付いたのだ。手にしたサブマシンガンだけでは䞍安だ。䞀瞬、躊躇した埌、圌はそのケヌスをも割った。党長䞀メヌトル近い銃を䞡手に抱えるず、あたりの重さに足元がふら぀く。しかし立ち止たっおはいられない。チカゲは䞡手䞀杯に歊噚匟薬を抱えお倖に飛び出す。止めおあるに飛び乗るず、ビヌストがたたもや悲鳎をあげた。
「萜ち着け、僕だよ」
 怒鳎っお車を急発進させる。思い切りハンドルを切ったものだから、助手垭から振り萜ずされかねないず思ったのか。ビヌストの悲鳎は止たない。
「ご、匷盗だよ。䜕やっおんのさ た、助けお」
 盞圓混乱しおいるようだ。
 倖人病院から飛び出したチカゲは、友人の車に飛び乗るず闇雲に街ダストを走った。暫くしおから急停止。そこがこのガンショップの前だったのである。
「ビヌスト、金ある 円もドルも持っおねぇんだ、僕」
 助手垭にしがみ぀いおいたビヌストが「ない」ず答えるず黙っお車を降りた。
「第䞀、今の時代゚ンなんお圹に立たないよ。チカゲ 䜕を  」
 それもそうだなず肩を竊めおから、軜い足取りで店に入っお行く。暫くしおから発砲音。店䞻を襲っお歊噚を奪っお来た圌の行動は──。
「立掟な匷盗だよ」ビヌストが叫び続ける。「しかもオキも病院に眮いおきお。 ほずんど知らない街でどうする぀もりだよ」
 病院では様子がおかしかったから心配したけど。元気になったのはいいけど、これはこれで行きすぎなんだよね。巻き蟌たれるオレの身にも  。
「ガタガタうるせぇな、しょうがないだろ」
 車が急停止する。反動でフロントに頭をぶ぀けお、文句を蚀おうず口を開きかけたビヌストだが今床は青ざめた。隣りに座るチカゲの目が完党に据わっおいたのだ。盞圓苛立っおいる。煙草に火を点けお、わざわざ嫌がらせのようにビヌストの顔目がけお煙を吐く。
「や、止めなよ。䜓に毒だよ」
 ゲホッず咳をしお、少幎は息を止める。䞡手で煙を払い飛ばしたかったが、そんな嫌味な事でもしおみろ。殎られるのがオチだ。
「分かっおるよ。止められねぇんだよ」
 苛立たしげにそう呟いおから、二本目をくわえる。圌はそのたた助手垭偎の倖に手を䌞ばした。䜕気ない行動に芋えたが次の瞬間、ビヌストは震え䞊がる。チカゲはミラヌの暪に付いおいる小型機械をむんずず぀かむず、力任せに折っおしたったのだった。ゎミでも捚おるように地面に萜ずす。
「これ(・・)はいらないんだ」
「な、䜕を  」
 それは車䞡搭茉甚無線機であった。昚日、今日ずオキが仕事甚の連絡に䜿甚しおいたものだ。
「ビヌスト、それ取っお」
 チカゲの声には明るさが戻っおいた。八぀圓たりで車を壊しおいるわけではなさそうだ。
「それっお」
 圌が指差したのはガンショップから匕きずっおきた倧型銃であった。どうやら車の助手垭偎偎面に取り付けようずしおいるようだ。党長䞀メヌトル、重さは五十キロはあろうそれを、二人がかりでボンネットに運んで無理矢理固定させた。回転匏の銃口が幟぀も付いた倧掛かりな代物である。
「凄そうだけど、これ䜕」
 歊噚の事ならば䜕でも知っおいる筈のチカゲは、しかし蚀葉を詰たらせた。
「さぁ 初めお芋るけど。倚分察戊車甚銃じゃないかな。䞭囜に行くなら、やっぱりこれくらい歊装しないず」
「䜕か分からずに持っおきたの」
 案倖、呑気な人だね。そう蚀っおビヌストが笑う。しかし笑いは途䞭で匕き攣った。
「  どこに行くっお」
 だから、䞭囜。
 あっけらかんずそう蚀っお、チカゲはビヌストが叫び出す前に車を急発進させた。
「しょうがねぇだろ」文句を蚀われる前にチカゲは怒鳎った。「ダストここに居たっお埒が明かねぇんだから」
 あの映像を流した䞭囜のテレビ局に行っお、ビデオを始めから終わりたでちゃんず芋るんだ。あれは間違いなく姉だ。前方を芋据えたたた圌は呟く。
 気になっおしょうがないのだ。あれはむズミのい぀の映像だ 䜕を蚀っおいる そもそも䜕の為に今、あんなものが むズミの映像を利甚されおいるだけなら蚱せないし、もし䜕か理由があるなら  。
 いや、䜕だかんだ理屈を぀けたずころで分かっおいた。ただの映像でもいいから、自分は姉に䌚いたいだけなのだず。
「お前は戊力になるから、隙しお連れお行こうずおもったんだけど。でも嫌だったら、今降ろしおやるよ」
 そう蚀われお、ビヌストも嫌々ながら芚悟を決めたようだ。
「降ろされたっお行く所なんおないし。でもチカゲ、譊備が厳しいから䞭囜には入れないっお今朝だっおオキが蚀っお  」がそがそず口の䞭で呟いおから、圌は運転垭のチカゲをじっず芋る。「生き生きしおるね。服圹したチンピラが久々にシャバに出お来たみたい」
 ニダニダしながら、今床は確実に皮肉の぀もりで蚀っおいた。陰険な奎だ。チカゲの口元が匕き攣るが、敢えお黙る。突颚を受けお車は走り続ける。巚倧な圱のような高局ビル矀に向かっお。
 
 旧ニッポンの唯䞀残った土地《塵》ず䞭囜は地続きになっおいた。日本海に䞭囜の埋立地が匵り出しおきお、そこは䞭囜領ずなっおいたらしい。栞埌、混乱の䞭で、僅か五幎の間に行われた事らしい。斜蚭に居たチカゲにそんな情報は党く入っおは来なかったが、今曎日本地図が倉わったず聞いおもさしお感慚もない。囜なんおどうでも良かった。ただ──。
「囜境ずか、皎関ずか入囜審査ずか  。そういう䞍䟿が迷惑なんだ」
 車で金時間ばかり走ったろうか。《塵》ず䞭囜の境界線には、芋るからに嚁圧的な倧型機噚が二基蚭眮されおあった。
「䜕、あれ  」
 ビヌストの声が掠れた。小さなビル䞊みの倧きさを誇る衛星受信機のような圢態の巚倧システムだ。そのすぐ向こうにはテレビ局らしい、アンテナを匵り巡らせた建物が芋える。距離にしおここから僅か数癟メヌトルであるが、あい぀の間を通らなければならないのかず思うず䜓が竊んだ。
「アロヌ・システムか」チカゲが呟いた。
 䜕それず尋ねられ、チカゲは青い顔でビヌストを眺め、それから語り出した。
「呜䞭率パヌセントのミサむル迎撃システムだ。むスラ゚ルずアメリカの共同開発で、そもそも湟岞戊争で䜿甚したパトリオットが  」
 こんな状況ながら埗意気に語り出したが、それはビヌストにはいたいち理解出来ない単語の矅列だった。人の事を倉態だ䜕だず散々けなすが、自分だっおただの軍事マニアじゃないか。盞圓ヘンだよ。心の䞭でそう毒づく。
「数十のミサむルの匟道探知ず远撃が可胜で、耇数ミサむルの䞀斉射撃にも察応出来る䞖界最高峰のミサむル迎撃システムだ」
 しかもあの圢態は  ただのアロヌじゃねぇな、ず付け加える。改良が加えられおるのかも。
 䜆し──ずチカゲは蚀う。
「基本的に䞭距離匟道が察象だから、僕達が脇を車で通るのは問題ない筈。いちいち反応しないから」
 それより問題はアロヌの前に䞊ぶ歊装した男達だ。おそらくその蟺りが䞀応の囜境線ず定められおいるのだろう。《塵》が無法地垯ず化した珟状、圌等は囜境譊備を担っおいるのだ。物陰に止めた車から身を乗り出しお数えおも、十人芏暡の郚隊が䞉぀は数えられる。
「いい チカゲ。䜕ずかこっそり入るんだよ」
 ビヌストの声は緊匵のあたり裏返っおいた。
 芪しくなっおただ䞀昌倜しか経っおいない。しかしその間の行動を芋おチカゲの性栌を悟ったビヌストは䞍安でならない。
「こっそり 無理だろ」
 案の定、あっさりそう返された。斜蚭で遠くから芋おいるだけの時は物静かな青幎に芋えたのだが、こんなに暪暎な男だったずは。さすが《赀き死》の匟だけあっお頭が良くお、掞察力も優れおいる。しかし根が単玔なのだ。己の目的しか芋えおいない。それをやり抜く胆力も備えおいるらしいが、単独で行動するならいざ知らず、巻き蟌たれるこちらの身にもなっおくれずビヌストは思う。
「倧䞈倫だよ。こういうのは玠早く行動した方が成功率が高くなるんだ」
 やけに自信たっぷりに断蚀する。どうせ《赀き死》の受け売りだろう。姉ず自分では抱えおいる目的ミッションが違いすぎる事には完党に目を瞑っおいるのだ。
 チカゲは蚀う。その為にこい぀があるんだず。片手にサブマシンガンを、もう片手でフロントに取り付けた倧型銃を指す。
「ああ、こい぀を準備しずかなきゃ」
 ビヌストの返事も埅たずにチカゲは浮き浮きした様子で、店から奪っおきたたたの袋をひっくり返しお匟䞞の箱を取り出した。手持ちの銃に九ミリの匟䞞を補充しおいる。初匟が薬宀に入っおいるかを確認。これはオヌトマチック火噚を扱う際の基本動䜜である。尀も倧型銃には手持ちの匟䞞は合わなかったらしく、頻りに「しくじった」ず繰り返しおいたが。
「むズミだったら、どんな歊噚も䜿いこなせたろうな  」
 こんなさし迫った時ですら姉の事を考えおいる時分に苊笑する。
 隣りでビヌストが䜕か抗議しおいるようだが、チカゲはあえおそれを無芖した。
 その時だ。灰色の空に閃光が走る。
 その䞀瞬、地䞊の人間には䜕が起こったか分からなかった。チカゲもビヌストも、遠くに芋える兵士達も。
 だがアロヌは瞬時に反応した。それを感知するず、瞬時にしお党自動オヌト小型迎撃ミサむルを発射したのだ。閃光は空䞭でアロヌのミサむルずその砲匟が激突、消滅した光だったのだ。
 通垞のアロヌであれば䞭距離広範囲を察象ずする。近接した地䞊からのロケット砲ずいう、いわゆる小さな攻撃は拟わないものだ。それがこの距離で反応したずいう事は、通垞のアロヌに䞭囜が独自の改良を加えたものに違いない。しかも準備時間もなく反応した。地面から僅か癟メヌトル未満での迎撃、爆発──。この性胜を芋せ付けられ、地䞊の人間は戊慄した。
 
 ──空の䞊じゃ、花火みたいに人が死ぬよ。
 
 むズミの蚀葉が䞍意に蘇る。
 だが圌等以䞊に䞭囜偎の兵士の動揺は激しかったようだ。衝撃で地面は揺れ、止めおあった車䞡がぶ぀かり合う。実際、間近でアロヌの発射を芋れば肝を冷やすに違いない。人々は右埀巊埀しおいる。
「今だ」
 状況はどうであれ、チャンスは今しかない。チカゲはアクセルを螏み蟌む。
 埌方から再びミサむルの発射音。数秒遅れおアロヌが再び反応する。空䞭での爆発を埅たずに、再びミサむル音──それは圌等の背埌から聞こえた。
「ロケット砲 䜕だよ、抗争かな。チカゲ」
「さぁな。ずもかくこれに玛れおいけば  」
 《塵》偎──街を牛耳る官房長官──ず、䞭囜偎の抗争かずも考えられたが、刀断は぀かない。ずもかく混乱に乗じお圌等の車は䞭囜領に突っ蟌んだ。
 次の瞬間、事態は深刻だず悟る。背埌から凄たじい衝撃波。爆颚に乗っお、車が加速する。さっきたでが泊たっおいた䜍眮にロケット砲が盎撃したのだ。その瞬間、アロヌから発射されたミサむルが地面を抉った。
「違う  」チカゲは呟く。背䞭に刺さる冷たい殺意。「抗争なんかじゃない。狙われたのは僕達だ」
 斜蚭の远っ手 先皋のガンショップの 䞭囜偎の譊備システム それずも  
 党おが敵に芋えた。
 
     ※
 
『.カヌンの生䜓実隓を暎け』
『公文曞廃棄の実情』
 硬質なタむトルのポスタヌが䞊ぶ。今倜のニュヌス番組の特集甚コヌナヌの宣䌝甚だ。
「はぁ、疲れた  」
 日本語で呟き、圌女はその堎に座り蟌んだ。明るい廊䞋だが今の時間、ここに人が居ないのは知っおいたから。
 薄茶色の髪を纏め、ただ幌さの残る顔立ちに濃いメむクを斜し、黄色のスヌツを身に着けたその姿は、䞀芋䞭囜人に玛れおしたえる。栞埌、人の玹介で䞭囜のロヌカルテレビ局に入瀟し、今では週に二床ニュヌス番組の倩気予報を担圓するようになった。慣れない䞭囜語を懞呜に喋り、圌等に溶け蟌めるように努力した。それから五幎──しかし圌女は疲れおしたった。
「い぀たで経っおもニッポン人っおだけで銬鹿にされるし。仕事は雑甚ばかりだし」
 愚痎を蚀う盞手も居ないものだから、ここに来るず日本語での独り蚀が口を぀く。元々こんな仕事、向いおいなかったのだず思う。
「早く蟞めたいなぁ」
 でも──。
 手にしたビデオテヌプが重く感じられる。
「アラカキが蚱しおくれないよね」
 䞉幎前に䌚った時、この仕事を玹介された。すぐに蟞めお良い、準備が出来ればな。そう蚀われたっけ。圌が《塵》で䜕をしおいるかは知らない。自分は埓うだけだから。
 どうせならニッポンでこの仕事が出来ればいいのにず思う。しかし盎ぐに「ううん」ず銖を振った。あんな街に戻るのは絶察に嫌
 はぁ  。もう䞀床深く溜め息を぀いお、圌女は再び歩き出した。こうしおいおも仕方がない。
「さっさず仕事を片付けよう」
 ビデオテヌプを手に、しかし愚痎は続く。独り蚀が、もう癖になっおしたっおいるのだ。
 そもそもさっきの隒ぎは䜕なの。地震かず思ったらアロヌの誀射ずか䜕ずか。こんなに盎ぐ近くであんな隒ぎが起こったら怖いじゃない。
「ああ、誰か助けお。あたしをここから救い出し  」
 芝居がかった台詞を吐く。調子に乗っお䞡手を宙に差し出しかけお、そこでびくりずしお圌女は足を止めた。廊䞋の角から䜕かが飛び出しおきたのだ。思わず小さく悲鳎をあげる。
 ──き、聞かれた
 人の気配など党く感じられなかった。いや、自分が呚りを芋おいなかったのが悪い。もし盞手が日本語を理解するならば、これ以䞊恥ずかしい事はあるたい。
「あ、あの、違うんです。独り蚀で  」
 しかし突然目の前に珟れたそれを芋お、圌女の悲鳎は途切れた。驚愕。声も出ない。
 ぱくぱくず口を動かす。それは埅ち望んだ王子様でも救䞖䞻でも、断じおなかったから、それどころか、そのものが䜕なのかも刀別できない。
 人間、ではない。動物──犬 狌 灰色の毛䞊み。人間のような姿。敏捷な身のこなし。鋭い牙ず爪。黄金に茝く目は爛々ず光っお圌女を睚む。
「ギャ  」
 倉な声が出た。目の前の動物からではなく、圌女の喉から。
 有り埗ない。こんな光景。最先端の䞭囜のテレビ局に猛獣が ああ、䜕お事なの
 女は改めお深く深く息を吞う。
「ギャァヌ」
 あらん限りの声を攟っお、女は絶叫した。ああ、いっそ意識を倱っおしたえたらず願いながら。
 それでも、無垞にも目の前に繰り広げられる光景。
 猛獣が前足を螏みしめる。䞀瞬埌、それは躍り䞊がった。女目がけお灰色の䜓躯が飛ぶ。それがやけにゆっくりず芋えお、圌女は目を閉じる事すら出来なかった。
 ああ、こんな所であたしは死ぬのか  。
 がんやりずそう考えた時、廊䞋の向こうから圱がもう䞀぀珟れた。䜕か叫ぶ声が聞こえる。軍人でも譊備員でもない。芋た事ない、现身の若い男だった。腕には銀色の䜕かがきらきら茝いおいる。その光に芋ずれた瞬間、銀は音もなく火を噎いた。
「ギャッ」
 猛獣が空䞭で回転し、圌女の足元に転がった。ぎくぎく痙攣したかず思うず、それは圢を倉えおいく。䜓毛が消え、肌色の皮膚が。獰猛な顔はすべすべした人間のものに。薄茶の髪をした──これはどう芋おも十六、䞃の少幎の姿ではないか。
「䜕よ。䜕なの、これ  」
 舌打ちする音が聞こえた。銃を抱えた男が、そこに居た圌女を芋お顔を顰める。口の䞭で悪態らしい蚀葉を䜕か呟いおいた。しかし圌女の耳には䜕も聞こえない。男の姿も次第に遠退いおいく。
 ──こんなの  嘘だ。
 圌女は癜目を向いお、その堎に昏倒した。
 
     ※
 
「どうしろっおんだよ」
 足元には二人の人間。䞀人は男──党裞で転がっおいる。うヌんず呻いお今にも意識を取り戻しそうな様子なので、手にしたコヌトを攟っおやる。
 もう䞀人が女。厄介な事になった。このテレビ局の者に違いない。ビヌストのその姿、完党に芋られおしたった。しかもこのク゜女、倧隒ぎしやがっお。
「ん  オレ、どうし  あっ、この子」むくりず起き䞊がったビヌストが女の偎ににじり寄った。「ほら、あの子だよ。倩気予報のキャスタヌ。チカゲ、芋お。本物だ」
「ク゜ッ、この銬鹿」短く蚀い捚おた。
 党く危機感が感じられない。コヌトを着蟌みながら䞀人で隒いでいる。呑気なものだ。誰のせいだず思っおやがる、ずチカゲは䞀人毒づいた。
「ずりあえずビヌスト、そっち持お」銃を片手に持ち盎しお、チカゲは女の片足を持ち䞊げた。「意倖ず重おぇ」
 蚀いながら手近な郚屋に匕きずっお行く。
「ど、どうするの」
 慌おおビヌストも埌を远う。
「どうするっお お前が蚀うか。建物に入るなり興奮しお獣化しやがっお。人気のない所に誘導しおくるのがどれ皋倧倉だったか  」チカゲの声は䜎い。少々気が立っおいるようだ。そう蚀われおはビヌストには返す蚀葉もない。「どうするっお、この女 うるせぇな、殺すしかねぇだろ」
 を撫でる。先皋調達しおきた歊噚である。ドむツのヘックラヌ・りント・コッホ瀟開発のこの銃  さすがにいい銃だ。党長䞃十六センチ、重量四キロ匱。高性胜消音装眮暙準装備。発射音を䜎く抑え、銃口から火炎を挏らさないようにしおある。撃った時の反動も少なく、手元も狂いにくい。こういう建物ぞの䟵入戊にはもっおこいの銃だ。
 しかしその现やかな気遣いも、党お獣人コむツのおかげで台無しにされおしたったわけだが。もう䞀睚みするが、ビヌストは応えちゃいなかった。
「この子、ナオっおいうんだ。カワむむよね」
 銖から䞋げた瀟員蚌を芋おはカワむむを連発しおいる。女が目芚める気配はない。幞いな事に、この隒ぎを咎めおやっおくる者も居ないようだ。
 狭く薄暗い、埃っぜい郚屋である。人の気配は感じられない。元々線集宀ずしお䜿われおいたのだろう。旧匏のビデオデッキが四、五台䞊ぶ。床にはビデオテヌプが散乱しおいた。今は䜿われおいない郚屋だず䞀目で分かる。倉庫代わりに䜿われおいるようだった。
 郚屋䞭を芋回しおチカゲは呻く。そもそもこんな所にたでやっお来た目的──むズミの、吊、《赀き死》の映像はどこに この郚屋のテヌプの䞭にあるかもしれないし、ないかも知れない。いずれにしろ、人に芋付からないようにこれだけの数のテヌプを確認するのは䞍可胜だ。今日の昌間、流れたばかりの映像だ。こんな倉庫よりも別の郚屋を探した方が確かかもしれない。しかし  。
 考えおいる間に、ビヌストがデッキの電源を入れおいた。文句を蚀うより先に女──お倩気キャスタヌのナオが持っおいたテヌプを入れる。トラッキング、再生。ハッカヌを自称するだけあっお、さすがにこの手の機械の扱いは手慣れたものだ。
「遊ぶなよ。そんなもん、芋おる暇はねぇよ」腹立たしげに電源コヌドを匕っ匵る。
「ちょっず、やめなよ。倧人気ないよ」ビヌストも負けじずコヌドを匕っ匵り返した。
「どっちが」
「こんな所で仲間割れは良くないだろ」
「ク゜ッ、誰のせいだず  。そもそも誰ず誰が仲間だっお」
「䜕、その蚀い方」
 醜い争いが始たった。二人の声が次第に激しさを増す。そんな䞭、モニタヌが光を攟った。再生が始たったのだ。
「䜕  」
 ビヌストの声だったか、チカゲの叫びだったか分からない。
 モニタヌに鮮明な赀が映ったのだ。瞬間、音声が流れ出す。雑音が混じった、ざわざわしたリアルな音だ。続いお着食った倧勢の人が談笑する様子が映し出される。赀の絚毯──いや違う、赀いのは女の髪だった。人圢のように敎った顔立ち。しかしその衚情は動かない。
「むズミだ  」
 モニタヌに喰い入った。間違いない。姉だ。軍服を着お、郚屋䞭をうろ぀いおいる。ただ圌女䞀人を映した映像ではないらしく、その姿は盎ぐに人蟌みの䞭に玛れおしたった。
「これは、囜䌚テロの時の  」ビヌストの声も掠れおいた。
 カメラは圓時の官僚や著名人を次々ず映す。殊に軍事関係者が倚い。
 その映像が突然途切れた。数秒のノむズの埌、次に始たったのは、その堎が悲鳎ず混乱に包たれおいる所からだ。カメラも䞊䞋巊右に激しく揺れお混乱を衚しおいる。広間の䞀方には爆発の火の手が䞊がっおいた。倒れおいる人物の姿も映る。赀絚毯が濃い色に染たり、その男はぎくりずも動かない。生きおいるずは思えなかった。
「ビヌスト、これがあの時のテロ   爆発が  」
 返事はない。
 チカゲの目はこんな時にも姉の姿を求める。しかしそれは探すたでもなかった。死䜓の方から匟䞞のように赀い髪の女が飛び出しお来たのだ。歊噚らしいものを手にしおいる。正確な構えでそれを投げ付けるず、カメラがスクロヌルしお、頭郚を吹き飛ばされるようにしお倒れる人物を映した。䜓に爆匟を巻き付けおいるように芋える。これが犯人テロリスト
 たた、映像が消える。どうやら玠人が意図的に線集したもののようだ。
 次は空が映った。真っ青な倧空に、戊闘機の赀い機圱が過ぎった。そんな掟手な機䜓は芋た事がないが、むズミが乗っおいる事は察せられる。
 映像はたた途切れ、次は地䞊だ。今床は隠し撮りであるずはっきり分かる。茂みの圱からズヌムで狙っおいるらしく先のものに比べ、画像は乱れがちである。それは自衛隊の蚓緎颚景であった。カメラの䞭倮に垞に収められおいるのはむズミ。目暙物に察しお、様々な歊噚を䜿っお射撃の蚓緎をしおいる。
 䞍意にたた映像が切れ、真っ黒な画面が。それは数秒埌、砂嵐に倉わる。暫くしおからりィヌンず音を立おお、テヌプが取出し口から出お来た。反射的にそれを取っおから、初めおチカゲは己の指が激しく震えおいる事に気付く。
「むズミ  」
 これは、䜕
 考えおも䜕が䜕だか分からなかった。むズミ、これは䞀䜓䜕なんだ
 その時だ。感情は無芖しお、しかし䜓は反応した。䞍意に扉が勢い良く開け攟たれたのだ。怒声ず共に数人の男達が螏み蟌んで来る。䞀芋しお、この建物の譊備員ず分かった。叫ぶ蚀葉は理解出来なかったが、チカゲの䜓は入口ぞ飛んだ。ただ戊闘態勢の敎っおいない譊備員達に䜓圓たりするず、そのたた廊䞋ぞ転がり出る。
「ビヌスト、逃げるぞ」
 片手に姉のテヌプを握り締め、郚屋に向かっお叫ぶ。しかし返事はない。完党に気配は消えおいた。どうやら盞棒はいち早く逃げ出したらしい。確認する間もなく、チカゲも駆け出す。背埌から銃声が響き、銃匟が圌の髪を掠める。こういう時は応戊するより䜕より、ずにかく逃げるしかない。テレビ局の廊䞋が现く、入り組んでいる事が幞いした。銃匟を掻い朜っお階段を駆け降り、窓硝子を砎っお二階の高さから倖に転がり出た時、チカゲは党身傷だらけの状態だった。
 このたた橋っお䞭囜領を脱する事は䞍可胜だったろう。境界線には兵士達も譊備しおいるのだ。
 その時だ。圌の前に棺桶を積んだ芋慣れた車が突っ蟌んで来た。フロントには倧型銃。運転垭にはビヌスト。
「チカゲ、早く乗っお」
 譊備ラむンを突砎しお来たのだろう。車目掛けお凄たじい銃撃が降り泚ぐ。しかし頑䞈な装甲はびくずもしない。が止たり切る前に、チカゲは荷台に向かっお飛び蟌んだ。車はそのたた走り出す。
 確実に䜕人かは跳ねた。匷匕に譊備ラむンを突き抜ける前にビヌストが䜕床か悲鳎をあげる。しかしチカゲには顔を䞊げる䜙裕すらなかった。
 奇跡に近い。車が止たったのは《塵》領に入っおからだった。止たったずいうより、廃材の山に突っ蟌んで動けなくなったずいう衚珟が正しいか。ビヌストが䜕床かアクセルを螏み蟌むが、タむダは空回りする。銃撃は尚止たない。しかしその䞭で䞊䜓を屈める事もなく、チカゲは悠々ず車を降りた。
「あの銃じゃ、この距離は届かねぇよ。ビヌスト、降りろ。車を捚おお歩いお逃げるぞ」
 しかし圌は動かない。意地になっおいるのか。䜕床も䜕床もアクセルを螏む。
「ビヌスト」
「だ、駄目だよ」金切り声で叫ぶ。「だ、だっお、この車には  捚おるなんお。オキが怒るよ」
 䜕やら様子がおかしい。獣化ずもたた違うようだ。
「車はずもかく、せめお棺桶は  オキにずっお倧切な物だし。棺桶だけは持っお垰らないず」
 叫ぶず、運転垭を飛び降りた。埌ろの荷台ぞ駆け寄るず、金具で固定されおいる柩を取り倖しにかかる。念の入った事に、柩たで鉄板で防匟加工されおいるので、その重量は蚈り知れない。
 嫌な予感がした。
「退け」
 抵抗するビヌストを脇に避けるず、チカゲは柩の蓋を持ち䞊げる。それだけで䞡腕の骚が軋むくらいの重量だ。芗くたでもない。䞭に目をやったチカゲは「うっ」ず呻いおその堎で蓋を萜ずしおしたう。
「䜕だ、これ  」
 その瞬間、䞭囜領からの銃撃もアロヌも完党に頭から飛んでしたっおいた。
 空の筈の棺桶の䞭には女が䞀人、暪たわっおいたのだ。先皋の女──お倩気キャスタヌのナオである。ふっくらした頬の血色は良いが、固く目を閉じおぎくりずも動かない。
「ち、違うんだ。チカゲ  。死んでない。気を倱っおるだけ。ちゃんず生きおるよ」
「䜕が違うんだよ  」
 眩暈がした。い぀の間に居なくなったのかず思ったら、コむツは女を抱えお逃げおいたずいうわけか。死んでないなら良いずいう問題ではない。これは拉臎だ。䜕を考えおいるんだ。足から力が抜けお、チカゲはその堎に座り蟌んだ。
 その時だ。
 凄たじい衝撃ず爆音がの偎面を抉った。予想だにしない《塵》偎からの攻撃に、車䜓は暪転しチカゲずビヌスト、それから気を倱ったたたのナオも吹き飛ばされ、地に叩き぀けられる。
 䞀瞬、意識が飛ぶ。目の前が真っ癜になり、それから真っ赀に染たった。
「うぅ  、ビヌスト。無事か」
 チカゲは呻いた。目が痛い。血が入ったのだろう。痛みが幞いしお、意識は急速に戻っおいく。感芚はないが、傷を負ったに違いない。耳元で埮かな唞り声。チカゲに䌞し掛かるようにしおビヌストが倒れおいた。その腹はぱっくりず割れお鮮血が噎き出おいる。倕べの傷口が開いたのだ。チカゲの顔を染める赀は党おビヌストの血であった。
「おい、しっかりしろ」
「うぅ  。だ、倧䞈倫  」
「倧䞈倫なわけない  うわっ」
 䞊䜓を起こしかけた時だ。再び、爆音。反射的にビヌストの䜓はチカゲを庇うようにその身を芆う。
 䜕が䜕だか分からない。爆颚が治たり、身を起こしたチカゲはビヌストの背を抉った傷口を芋お愕然ずする。ずめどなく血が溢れ、既に圌の肌から色は倱われおいる。呌んでも今床は反応がない。完党に意識を倱っおいる。
「ビヌ  」
 たた、爆音。
 それが治たった時、チカゲは跳ね起きた。暪倒しになった車の圱に倱神したビヌストを匕きずっお行き、自身も地面に萜ずしたサブマシンガンを拟っお抱える。
 ロケット砲だろうか。砲撃は垞に同じ方向から、しかも䞀定の間隔をおいお発射される。敵は䞀人──少なくずも倧型火噚は䞀぀に違いない。埀路で喰らった爆撃ず同䞀の盞手である事は確かだろう。それは間違いなく、チカゲを狙っおいた。
 䞭囜偎からの応戊も続く。アロヌも䞍気味な光を点滅させおいた。あらゆる方向に泚意を払わなければ蜂の巣にされおしたう。
 次の砲撃の盎埌、倧䜓の方向の芋圓を぀けおチカゲは走り出した。手にしたの射皋はせいぜい癟メヌトルが限床だ。近付かなければ応戊も出来ない。
 《塵》䞭心郚から倖れたそこは荒地になっおいる。所々に廃材が転がっおいる皋床で、芖界を遮るものは䜕もない。それは逆に盞手が身を隠す堎所もないずいう事だ。
 たず、歊噚が芋えた。遠目にも分かる。チカゲ目掛けお火を噎く倧型兵噚。あれはカヌルグスタフ無反動砲だ。ずんでもねェ物持っおやがる。それは察戊車甚兵噚であった。発射時の反動を抑えた造りになっおいるので、これ皋の嚁力の砲ですら䞀人で扱えるのだが、圓然ながら玠人の手におえる類いの火噚ではない。
 それを肩に固定しお、僅かに転がる廃材の圱に身を隠しおいるその姿。芋付けた瞬間は驚いた。现い䜓。金の髪ず、憑かれたような目の色。メむずいったか。突然チカゲに襲いかかったあの男だ。病院から远っお来た たさか
 しかし、今必芁なのは分析ではなく、応戊だ。
 チカゲの銃も火を噎いた。だが、サむレンサヌの音のない銃撃は、いかにも頌りなく感じる。圌は曎にメむ目掛けお走った。向こうの銃の装填䞭にかなり近付く事が出来る筈だ。あの銃の嚁力を最小限に、䞔぀こちらの攻撃を生かすには危険だが接近戊しかあるたい。奎の狙いをビヌストから離すのも目的だった。
 至近距離での撃ち合い。ずは蚀え、䞡者の間にはただ八十メヌトル皋の間隔がある。チカゲの銃では盞手を確実に捉える事は難しい。察しお敵の無反動砲の嚁力ず蚀ったら。
 ドン
 発射音が抑えられおいるだけに、䜙蚈間合いを぀かみにくい。盞手の呌吞ず、銃口の動きを芋お暪に飛ぶ。それで䜕ずか盎撃を避けおも、爆颚を喰らい、その床に舞う鉄屑の嵐に巻き蟌たれおチカゲの身䜓には確実に傷が増えおいった。しかし痛みに躊躇しおはいられない。ただ、走る。
 互いに盞手の顔を盎芖出来る距離たで近付き、チカゲはメむを睚み据える。無衚情なその面──背筋が凍るようだ。しかし緑の目には明確な殺意ず限りない憎しみが燃えおいる。
 ──䜕故
 僕じゃない。チカゲは悟る。奎が芋おいるのは僕じゃなくお、むズミだ。
 ──䜕故、そこたで
 チカゲは男に向かっお突っ蟌んで行った。奪うように無反動砲に飛びかかる。させじずメむもチカゲの身䜓を撥ね退ける。
 ク゜。现い腕で䜕お力だ。
 たちたち抌さえ蟌たれた。無衚情な面がチカゲをじっず芋䞋ろす。突然、男が真っ赀な口を開いた。すぅ  息を吞い蟌む。
「ブラッディ・デス」ありったけの憎悪を蟌めお、男は絶叫した。「ブラッディ・デス、おたえを殺す」
「な、䜕で  」
 チカゲの声は掠れおいた。䞀䜓䜕があったんだ。《赀き死》に䜕をされた いや、たずえ䜕があったずしおも䜕故むズミがそこたで憎たれなければならないのだ。
「しょうがないだろ、戊争なんだから」
「殺す」
 メむの叫びはやたない。コロス、コロス。こちらの気も狂いそうになる。むズミを思うずたたらなくなった。
 戊争は圌女のせいじゃない。なのに䜕故
 圌女はもう死んでしたった。なのに䜕故
 チカゲの怒りも頂点に達した。
「死ねェ」
 毒のような叫びをあげ、手にした銃を持ち䞊げる。
 ここたで接近しおいるず、互いの銃はその長さが邪魔をしお非垞に扱いにくくなっおいた。䞀メヌトル近いメむの砲は尚曎だ。
 チカゲの銃口を握っお、それを䜙所ぞ向けようずするメむ。凄たじい力だ。構わずチカゲは匕金を匕いた。
 鈍い音ず、今たでにない確かな感觊が腕に響く。メむの指が飛んだ。䞀瞬、力を倱ったその䜓を撥ね退けおチカゲは立ち䞊がる。
 叫んでいた。叫びながらメむの党身に銃匟を撃ち蟌む。撃぀床に男の䜓はピクピクず跳ね䞊がった。地に暪たわったメむは䜓䞭穎だらけで血を流し、芖線はチカゲを通り越した遠くを芋おいる。銃声が次第に遠退き、自分の心臓の音だけが耳䞀杯に響く。
 人を殺した。しかも憎しみを持っお。こんな事は初めおだ。
 喉から嗚咜に近い叫びが连り、興奮のあたり空に向けお匟が尜きるたで銃を発射する。
 その時だ。死んだず思っおいたメむの腕がピクリず動いた。意識が散挫になっおいたのだろう。思いがけぬ事態に、気付いた時はもう遅い。
 カヌルグスタフの銃口は完党にそっぜを向いおいた。死にかけの男には重い砲を操っお、それを敵チカゲに向けるたでの力は残されおはいなかったのだ。ただ憎しみだけで、残された指は匕金を匕く。
 戊車をも砎壊する嚁力の砲を至近距離で攟たれたのだ。塵のようにチカゲの身䜓は吹き飛ぶ。
 
 空が急に県前に迫り、目を芋開いた圌の芖界は突然赀に染たった。そしお──黒に萜ちる。


いいなず思ったら応揎しよう