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うまくいかなかった日のこと(耳ビジnote部)

彼女と喧嘩になった。売り言葉に買い言葉で、気づけば「もう会わない」で決着していた。言い返す言葉が見つからず、黙って車に乗った。ここまでは、誰にでもある話である。問題は帰り道だ。

青山通り、246に出る手前で車が止まった。動かない。表参道のクリスマスイルミネーション。当時は名物で、見物客が歩道から車道にあふれていた。ハンドルを握ったまま考えた。なぜ今日なのか。なぜここなのか。

目の前では、若い2人が抱き合っている。その先でも抱き合っている。別れたばかりの男の車を、幸せなアベックが取り囲んでいる。車は数分に一度、1台分だけ進む。これは渋滞ではない。公開処刑である。

ケータイのない時代だ。誰にも連絡できない。警察に苦情を言うこともできない。寒いのを我慢してオープンカーにしていたら雪が降ってきた。ラジオをつけたら、ワムの「ラスト・クリスマス」がかかった。すぐ横のアベックが、それに合わせて肩を寄せている。

「こいつら馬鹿じゃねえのww 歌詞の意味を知ってるのか?」

これは楽しい曲ではない。クリスマスに振られた男の歌だ。振られた男の歌を聴きながら、幸せな連中に囲まれている。私は散々イライラしながらハンドルを握った。

数百メートルを抜けるのに2時間かかった。その間にできたことといえば、彼女の言い分をひとつずつ思い出し、俺は悪くないと自問自答するだけだった。渋滞は反省会に向いている。逃げ場がないからだ。

あの夜、学んだことは2つある。ひとつ、別れた日に表参道を通ってはいけない。ふたつ、それでも通ってしまうのが人間である。

20代のころの話である。甘く苦い思い出、というやつではない。苦いだけだ。思い出と呼んでいいのかどうかも怪しい。何年経っても、あの道を通ると手に力が入る。飾りはとうに消えたのに、あの曲だけが体に残っている。

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尾藤克之(コラムニスト・作家/日本初のClaude実用書出版) 記事が「役に立った」「面白かった」と思っていただけたら、チップで応援いただけると嬉しいです。いただいた応援が、次の記事を書くエネルギーになります。これからも読んでよかったと思える記事をお届けします。