今日、ちょっと勇気を出したこと(耳ビジnote部)
勇気には2種類ある。自分のために出す勇気と、他人のために出す勇気だ。前者は転職や告白のように語られやすい。後者は語られない。出さなくても、誰にも気づかれないからである。
先日、新宿駅で駅員に呼び止められた。大きな荷物を抱えた外国人らしい女性が、沼袋に行きたいという。沼袋は西武新宿線の駅で、JRの新宿駅からは少し歩いて西武新宿駅に移らなければならない。
駅員は説明しきれず、女性は理解できず、2人とも困り果てていた。なぜ私に聞くのか。通りがかっただけである。
正直に言えば、最初に頭に浮かんだのは「急いでいるので」という断り文句だった。嘘ではない。誰でも何かしら急いでいる。だが駅員の懇願する顔と、女性の途方に暮れた顔が並んでいるのを見て、まあいいや、と思った。
西武新宿駅まで送り、どこで降りるかを念を押して説明した。改札を無事に通った彼女は、振り返って満面の笑顔で握手を求めてきた。
たわいもない話である。それでも帰り道、いいことをしたような気分が抜けなかった。
少し考える。この日、私が出した勇気は「声をかける勇気」ではない。声をかけたのは駅員のほうだ。私が出したのは「まあいいや」と言う勇気である。急いでいる、という理由はいつでも使える。使っても誰も責めない。
日本人は人に迷惑をかけないことを美徳として育つが、この美徳は「人に関わらない」と同じ顔をして日常に居座る。急いでいる私と、関わりたくない私は、外から見ると区別がつかない。
握手の手は、こちらが思うより強かった。あの強さは、彼女がどれほど困っていたかの分量だったのだろう。
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