見出し画像

セルフレジに頭を下げる男たち(耳ビジnote部)

人間の礼儀は、相手が人間かどうかを確認しない。最近、スーパーのセルフレジの前でそれを見た。

並んだ2台のセルフレジで、年配の男性2人がほぼ同時に会計を終えた。機械が「ありがとうございました」と言う。左の男性が「はい、どうも」と返し、軽く会釈した。すると右の男性も、一拍遅れて頭を下げた。こちらはさらに深い角度である。

顔を上げたところで、2人の目が合った。互いに何も言わない。ただ、口の端がゆるんだのは同時だった。後ろで待っていた私も、つられて笑ってしまった。見知らぬ2人が「機械に礼を言う側の人間」として結ばれる瞬間を、目撃した気がしたのである。

考えてみれば、あの会釈は相手の人格に向けたものではない。礼を言われたら返す。その型が体に染みついているだけだ。型は便利である。考えなくても角が立たない。ただし、ときどき画面に向かって作動する。

おかしかったのは、滑稽さだけではない。深いお辞儀のほうに、取引先に、上司に、客に、頭を下げ続けてきた歳月が透けて見えた気がしたのだ。その癖が、いまや機械にまで及んでいる。

哀しいといえば哀しい。だが、あの角度には妙な品があった。礼を尽くす相手を選ばない人は、たぶん信用できる。

2人は前後して出口へ向かった。自動ドアが開く。先を行く男性が、ドアに向かって小さく「すみません」と言った。後ろの男性が、今度は声を出して笑った。


※9月8日から毎日お届けしてきたまとめ記事を、ここにひとまとめにしました。耳ビジnote部のみなさんの記事に、どの日からでも会いに行けます。

☟一覧はこちら☟
https://note.com/kbito/n/n58e8ef551abd


役所の文書が読めないのは、一文が長く、誰に向けて書くかが未定だから。AIは直せるが、住民が1人ずつ直すのではなく、出す側が通知にやさしい版を添えるべきだ。直す場所は職員の内側でなく、住民に届く出口だ。このような内容で記事を公開しました。

いいなと思ったら応援しよう!

尾藤克之(コラムニスト・作家/日本初のClaude実用書出版) 記事が「役に立った」「面白かった」と思っていただけたら、チップで応援いただけると嬉しいです。いただいた応援が、次の記事を書くエネルギーになります。これからも読んでよかったと思える記事をお届けします。