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創作大賞2026「桜の木の下で」第十四話 最終回

    「さてさて、食べるかーっ!花見の下でランチ!」
    美梨が大きなカバンから取り出したのは、お重のお弁当だった。

    「これ、職場の板前さんが『行くなら持って行きなよ』って」
    「じゃあ、本格的な味だね」

    ふたを開けた瞬間、周りから小さく声が漏れる。
    色とりどりのおかずがきれいに詰められていて、見ているだけで分かる、ちゃんとした“仕事の味”だった。

    「そのうちさ、調理師の資格も取りたいなって思ってる」
    「へえ」
    「まだ仲居だけど、手に職あった方がいいじゃん」

    「手に職かぁ」

    私は頷きながら、少しだけ考える。
    大学に進む予定の自分と、もう働いている美梨。

    同じ場所にいたはずなのに、気づけば違う道の上にいる。

    ふと顔を上げると、美梨が笑っていた。
    その隣で、米山先生も同じように笑っている。

    その距離が、ほんの少しだけ自然に見えて、
    なぜか目を逸らした。

    「ほら、食べよ」
    「あ、うん」

    箸を取る。

    桜の花びらが、一枚、落ちてきた。

    あの日と同じように。

    「……美味しい」
    思わず口に出る。

    「でしょ?」

    美梨が得意げに笑う。

    その笑顔は、ちゃんと知っているはずなのに、
    どこか少しだけ遠かった。

    それでも。

    今、こうして同じ場所で、同じ桜を見ながら食べている。

    それだけで、十分な気がした。

    風が吹く。

    花びらが、また舞う。

    私はそれを、ただ見ていた。

    終わり


     
     
    小説書き! 2026年より「あさ」を毎月刊行。 不定期にエッセイなどをまとめていく予定です。 BL、現代ドラマ好き BL緊縛ドラマ脚本参加作品(綾瀬凛監督原案)「蜘蛛と縄」日韓配信中。

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