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創作大賞2026エンタメ原作部門『ゴーストマスターズ』


    #創作大賞2026 #エンタメ原作部門

    【あらすじ】
    青山霊園に隣接する高校に通う女子高生・香坂真凜は、失恋をきっかけに墓地で20年前に亡くなった女優・後藤愛の幽霊と出会う。一方、吃音に悩み友達がいない佐藤守は、漫才師・でこぽんとこぼんの幽霊と出会い、東大進学を諦めかけていた森田正義は元東大教授の幽霊と出会う。さらに、引きこもりの息子を抱える養護教諭、声楽家を夢見る音楽教師も、それぞれマジシャンやテノール歌手の幽霊と巡り会う。幽霊たちは、自分たちが成仏するためには、生きている人の願いを叶えなければならないという使命を背負っていた。真凜は女優を目指し、守は友達を作るために漫才へ挑戦し、正義は東大合格を目標に勉強を始める。それぞれが幽霊たちの力を借りながら夢に向かって歩み始め、生者と死者が互いの人生を変えていく物語である。

    【登場人物】
    香坂 真凜 (17) 高校2年生
    後藤 愛  (22)  女優の幽霊
    佐藤 守  (17)  高校2年生
    でこぽん  (58)  漫才師の幽霊
    こぼん   (55)  漫才師の幽霊
    矢崎 徹  (17) 高校2年生
    森田 正義 (18) 高校3年生
    東城 孝  (60) 東京大学の教授の幽霊 
    渡辺 加代 (45) 高校の音楽教師
    森繁 和真 (38) 声楽家の幽霊
    持田 歩美 (53) 高校の養護教諭
    ジョー・スギサワ(48) マジシャンの幽霊
    森田 雅子 (52) パート
    森田 隆夫 (55) パート
    香坂 真美 (40) 会社員
    佐藤 妙子 (72) 無職
    中野    (52) 高校の社会科教師
    神津 拓海 ( 17)高校2年生
    男子高校生A(17) 男子高校生B(18)

    〇青山霊園全景(朝)
    都会の中に広がる大きな緑
     
    〇同・とある墓石(朝)
    比較的新しくシンプルで綺麗な墓石。
    その前で制服姿の香坂真凜(17)がしゃがんで、スマホの自撮り画面で角度で表情をチェックする。
    立ち上がり歩道を気にする。
    スマホの時間をチェックして、また自撮り画面に戻し、自分の顔をチェックし、可愛く微笑む。
    墓石の後ろに立って、真凜の様子をみている後藤愛(22)の後ろ姿。
    真凜、人の歩いてくる気配がして、慌ててしゃがみこむ。
    墓石の横を通りすぎていく制服姿の男子の姿。
    真凜、嬉しそうに荷物を抱えて飛び出す。
    先を歩いて行く神津拓海(17)と男子生徒Aの後ろ姿。
    真凜、男子生徒Aを見て一瞬がっかりするが、静かに後をついて行く。
    ×   ×   ×
    男子生徒A「1組の美咲にコクられたんだって」
    拓海「ああ」
    男子生徒A「学年一番人気の美咲にコクられたら、真凜もかすむな」
    真凜、自分のことをいわれてドキッとする。
    拓海「真凜とは、ただの友たちだし。顔もタイプじゃないし。それにぽっちゃり好きじゃないし」
    男子生徒A「うわ~。キッツー。傷つくわ~」
       真凜、その場に呆然とたちつくす。
    笑いながら歩いて行く拓海と男子生徒Aを見送る真凜。
     
    〇南青山高校・正門付近(朝)
    生徒達が登校してくる。
    佐藤守(17)が来て、遠くに真凜を見つけて立ち止まる。
    拓海と男子生徒Aが学校に入っていく。
    真凜、逃げるように墓苑に走って行く。
    守、真凜の様子が気になり墓苑に行く。
     
    〇青山霊園のとある道(朝)
       守がキョロキョロしながら歩いて来る。
    すぐ横の墓石から長身のでこぽん(58)とそれに隠れるようにこぼん(55)が様子を伺うように。
    矢崎徹(17)が男子生徒Bと来て。
    守、真凜を探しているから徹に気がつかない。
    徹「(守にわざとぶつかり)お~、ばぶちゃん学校はこっちじゃないけど」
    守「(萎縮して)……」
    徹「(歩きながら)お前、もう家帰んのかよ」
    徹、あざ笑うように男子生徒と歩いて行く。
    守、その場に立ちどまる。
    それを見ていたでこぽんが行こうとするのをこぼんがとめる。
    守も、学校のほうに行く。
     
    〇同・東城孝の墓(朝)
    シンプルで真新しい墓石に彫られた東城孝という文字。
    近くの石に座ってスマホでマンガを観ている制服姿の森田正義(18)。
    それを後ろから覗きこむ東城孝(60)
       遠くから高校の始業を知らせるチャイムの鳴る音。
       正義、急いで荷物を持って走って行く。
     
    〇同・森繁和真の墓(朝)
    墓石にはめ込まれた笑顔の和真の写真。
    その前に置かれたタマゴサンドとコーヒカップ。
    渡辺加代(45)携帯イスに座り合掌してから、タマゴサンドをおいしそうに頬張る。
    墓石の後ろからその様子を見守る森繁和真(38)の後ろ姿。
    アイパットの画像から流れる、森繁がステージで熱唱する映像。
    うっとりとしながら、タマゴサンドを食べる加代。時折、ハミングする。
    ごくりとつばを飲み込む森繁。
    加代には森繁が見えてなくて、食べ続ける。
     
    〇同・学校へつづく道(朝)
    持田歩美(53)が歩いて来る。
    黒猫が墓から歩いて来て、道の真ん中に座る。
    歩美、黒猫に気が付きカバンから小さなお皿にエサを入れて置く。
    黒猫、エサを食べる。
    しゃがみこみ黒猫をいとおしそうに見つめる歩美。
    それをすぐ近くで見つめる黒いマントを羽織ったジョー・スギサワ(48)。
    歩美、黒猫に別れを告げて歩いて行く。
    見送るスギサワ。
     
    〇南青山高校・二年三組教室
    一時間目の授業が始まっていて、守、徹がそれぞれ座っている。
    守、真凜の席が空いているのが気になる。
     
    〇【回想】同・とある教室
    同校の受験日
    生徒たちが座って試験の準備をしている。
    守、ペンケースに消しゴムがなくて慌てて探す。
    隣からすっと伸びる手。
    置かれた、ちぎられた消しゴム。
    見ると真凜が少し恥ずかしそうに微笑む。
    守も真っ赤になりながら、コクリと頷く。
    試験が始まり集中する生徒たち。
    守も、真凜を気にしながら、テストに向かう。
     
    〇同・二年三組教室
    みんなの視線が守に集中している。
    守、わけがわからずオドオドする。
    徹「(大声)ばぶちゃん、ご指名ですよ」
    女教師「佐藤くん。今、合図くれたよね」
    守「(わけがわからず)……」
    女教師「(呆れて)答えるつもりないなら、まぎらわしい反応しないで」
    少しざわつく生徒たち。
    守、赤くなって俯く。
    徹「(からかうように)バブ、バブ」
    一部の男子生徒が笑う。
    女教師、白けたように授業を進める。
    守、じっとこらえるように俯いたまま。
     
    〇青山霊園・後藤愛の墓
    真凜、墓石に座り、シクシク泣きながらお菓子を食べている。
    後ろから愛の声
    愛「(笑って)やけ食い?」
    真凜、驚いて見ると、派手なアイドルのようなステージ衣装の愛が微笑む。
    真凜、固まってしまう。
    愛が真凜の横に座り
    愛「授業、はじまってるでしょ?」
    真凜、コクリとうなづく。
    愛「もしかして、ふられた?」
    真凜、悲しそうに俯く。
    愛「(つとめて明るく)あ、ごめん」
    真凜「……」
    愛「何年生?」
    真凜「(少しだけ顔をあげて、小さく)2年」
    愛「2年生か。じぁあ、17歳」
    真凜、コクリとうなづく。
    愛「セブンティーンか。いいな…」
    真凜「……」
    愛「私、5歳からお仕事していて、高校もほとんど行かなかったから、うらやましい。」
    真凜、少し愛を伺うように見る。
    愛「勉強はほとんどしなかったけど、たくさん恋はしたな」
    真凜、愛を見て
    愛「そう、恋で身を滅ぼしちゃったんだ」
    真凜「(意味がわからず)……」
    愛「(真凜の食べていたお菓子を見て)でも、大丈夫みたいね」
    真凜、愛のいいたいことがわからず
    愛「(笑って)私は食べられなくなるの」
    真凜、なんとなく理解してお菓子をぎゅっとにぎる。
    愛「(小さく)……大丈夫だね」
    真凜、バツが悪くなり立ち上がる。
    愛「私ね、失恋して、自殺したの」
    驚き、愛を見る真凜。
    愛「(苦笑して)引くよね」
    真凜、走って行く。 
    愛、さびしそうに見送る。
     
    〇同・でこぽん・こぼんの墓
    守がキョロキョロしながら歩いてくる。
    でこぽん、守の前に立ち
    でこぽん「よ!」
    守、驚き、でこぽんを見上げる。
    こぼんも来て
    こぼん「お兄さん、誰か探しているの」
    守「(オドオドして)あ、あ、あの…ど、ど、どうきゅうせいの…」
    でこぽん「(小指を立てて)これか」
    守、意味がわからずポカンとする。
    こぼん「(でこぽんに)お前も古いね(守に)彼女を探しているの」
    守「(真っ赤になって)か、か、か、のじょ、じゃ、な、な、ないです」
    でこぽん「お兄ちゃんさ~そんなに怖がらないでよ。俺たちこうみえて、優しいよ~」
    こぼん「(でこぽんを制して)お前の姿そのものが、もう怖いんだよ。お兄ちゃんが探していた女の子はさっき、あっちに走って行ったよ」
    守「あ、あ、ありがとう、ご、ご、ございます」
    守、行こうとするのをでこぽんが
    でこぽん「お兄ちゃんさ、もしかして、いじめられてんのか」
    こぼん「だから、お前はなんでそう聞くかな」
    でこぽん「じゃ、なんていうんだよ。お前が聞いてみろよ」
    こぼん「(やさしく)学校で友だちいるの」
    守、俯く。
    でこぽん「(こぼんに)ほら~そんなにストレートに聞いたらかわいそうだろ」
    こぼん「じゃあ、なんて聞くんだよ」
    でこぽんとこぼんがいい合いをする。
    守、そのやり取りを見ていて、笑ってしまい
    守「お、お、お、もしろい、ですね。ま、ま、ま、んざい、し、みたいですね」
    でこぽん、こぼんがぴたりとやめて
    でこぽん・こぼん「(同時に)俺たちはコンビを組んで30年になる漫才コンビの」
    でこぽん「でこぽんです」
    こぼん「こぼんです」
    でこぽん、こぼん「(同時に)でこぼこです」
    守「ま、ま、ま、ま、んざいしなんですか?」
    こぼん「そう。でも今はただの幽霊だけどね」
    守「(怪訝に)あ、あ、あ、の。ゆ、ゆ、ゆ、うれいって」
    こぼんが足元を指すと、30㎝くらい浮いている。
    守、しゃがみ込み、こぼんの足元を覗きこむ。
    でこぽん「お兄ちゃん。俺もそうだよ」
    守、でこぽんの足元も覗く。
       守がその場で尻餅をついてわなわなしながら
    守「な、な、なんで、う、う、ういているんですか」
    でこぽん、こぼん「(同時に)だって俺たち幽霊だもん」
    守、わなわなと震えて動けず、失禁してしまう。
    守「ま、ま、ま、まん、ざいしの、で、で、で、でこぽん、こ、こ、こ、こぼんさんたちは、こ、こ、こう、つう、じこで亡くなったんでは」
    こぼん「だからさっきから、俺たちは幽霊だっていってるじゃないか」
    守、その場からとにかく逃げようとするがうまく動けない。
    でこぽん「(守に近づき)なぁ、兄ちゃんの望を教えろよ」
       守、ただぶるぶるとする。
    こぼん「(でこぽんに)お前のいい方が怖いんだよ。ただでさえ顔が怖いんだからな」
    でこぽん「そんなことないよな」
    でこぽん、守に近づく。
    守、腰が抜けて動けなくて、わなわなしている。
     
    〇南青山高校・保健室中
    ベットで横になっている真凜。
    ぼんやりとしている。
    カーテンの外で人が入ってくる気配。
    白衣を着た歩美が主事に支えられて入ってきた守を迎える。
    ×   ×   ×
    守、座っていて、歩美が守に飲み物を渡し
    歩美「漫才師の幽霊?でこぽん、こぼんの」
    守、少し興奮ぎみに何度か頷く
    歩美「この学校は墓地に隣接しているから、噂で幽霊を見たとか聞いたことはあるけどね。でこぽん、こぼんがね。よくさ、そっくりさん、っているじゃない。テレビにでだりする人、じゃないの」
    守「(首を激しくふり)ほ、ほ、ほ、んもの、ゆ、ゆ、ゆうれいです」
    カーテンがはらわれ、真凜が来て
    真凜「(歩美に)ありがとうございます。戻ります」
    守、驚き、真っ赤になる。
    真凜、守を少し気にしながら行く。
     
    〇同・廊下
    和代、歩いてくると、真凜が保健室から出てきて。
    加代「鈴木さん、具合悪かった」
    真凜「(バツが悪く)ちょっと……」
    加代「放課後の部活は出られそう」
    真凜「(うつむいて)今日は、ちょっと……」
    加代「そう。お大事ね」
    真凜、急いで行く。
    加代、真凜を見送り、保健室に入る。
     
    〇同・保健室中
    守、立ち上がり歩美にお辞儀をして出て行く。
    加代「(守を見送り、明るく)いつも賑わっていますね」
    歩美「(気安く)コーヒーでいい?」
    加代「は~い」
    ×   ×   ×
    歩美と加代がコーヒーを飲んで
    加代「幽霊?漫才師のでこぽん、こぼんの」
    歩美「だってさ」
    加代「いいな~」
    歩美「え?」
    加代「私、推しの和真さまのお墓があるからこの学校に赴任して、毎日、お墓に行ってるけど、一度も会ったことないし」
    歩美「へ~。毎日?」
    加代「そうですよ。毎朝、和真さまが好きだった、タマゴサンドをお供えしてます」
    歩美「タマゴサンドを、毎朝」
    加代「はい。ここに赴任して1年になりますが、未だ再会はしてません」
    歩美「再会?」
    加代「和真さまのコンサート、そして、握手会、お会いできるところには、行ってましたので」
    歩美「渡辺先生は、その和真さま?なんだけっけ?」
    加代「日本を代表するテノール歌手です」
    歩美「そのテノール歌手さまに憧れて、音楽の先生になったの?」
    加代「いいえ。和真さまは私よりも7歳も年下です。和真さまの歌声は~」
    歩美「私、高い声の男性って苦手なの。歌手なら寺尾聰よ。知ってる、ルビーの指輪」
    加代「はい。私も昭和生まれなんで」
    歩美「でも、それでお墓までにね。そこまでしてもらったら、和真さまも成仏できるんじゃない」
    加代「も~幽霊でもなんでもいいから、会いたい!和真さま~」
    歩美、呆れて。
     
    〇同・三年一組の教室
       放課後で、部屋には正義と森田雅子(52)が並んで座り、担任の中野(52)が対峙して
    中野「(資料を見ながら)森田は進路はどうするんだ。何も書いてないが、進学しないのか」
    雅子「(正義を気にしながら)何も書いてないですか。ねぇ、どうするの」
    正義「……」
    中野「ハッキリいうが、今の時点で進路が決まっていないのは、まずいぞ。今は高卒だと就職もな。とくに男子だとな」
    雅子「そ、そうですよね…(小声で)どうすの」
    正義「(むくれて)……別に……」
    中野「(少し威圧的に)なんだ」
    雅子「(困って、正義に)いや、ねぇ、ちょっと」
        重い沈黙が続く
     
    〇青山霊園(夕)
    むくれながら歩いて来る正義。
    少し距離を取りながら一緒に歩く雅子
    雅子「ねぇ。進路、どうするの」
    正義「(さらにむくれて)……」
    雅子「大学、行く、よね」
    正義「(立ち止まり)なりたくないから」
    雅子「(意味がわからず)なりたくないって」
    正義「(声をはって)お父さん、みたいになりたくないんだ!」
    雅子「(驚き)お父さん、みたいって」
    正義「大学出て、中堅の会社に入って、50過ぎてリストラされて、再就職できななくて、スーパーと牛丼屋のアルバイト掛け持ちして」
    雅子「……」
    正義「いやなんだよ」
    踵を返して歩いて行く正義。
    雅子、悲しそうに正義を見送り
     
    〇同・東城の墓(夕)
    正義、苛立ちながら来て、どかっと座るが気持が収まらない。
    東城の声「続きがよみたいな」
    正義、声のするほうを見る。
    髪をオールバックにして三つ揃いのスーツを着た東城がにこやかに
    東城「いつもここで見ているマンガのつづきが気になってな」
    正義「……」
    東城、少し離れて座って
    東城「東大に入りたいのか」
    正義「(怪訝に)……はぁ」
    東城「君はいつもここで『俺の人生が狂いはじめたのは、高校受験の一週間前にインフルエンザにかかって、受験当日も調子が悪く、志望校に入れなかった。今の学校は、滑り止めのまたその下で、周りはバカな奴ばかりで友達にもなりたくない。女子もチャラチャラしていてコクられたっていやだね』ってね」
    正義「……」
    東城「君がいつもここでぶつぶついっているから、すっかり覚えてしまったよ」
    正義「……あなたは」
    東城「(笑顔で)私は東城正義。この墓の主だ」
    正義「墓の持ち主、ってことですか」
    東城「正確にいうと、この墓に眠っている者だ。わかりやすくいうと幽霊だ」
    正義「幽霊って?」
    東城がゆっくり立ち上がり、
    東城「私の足元を見ろ」
    正義、東城の足元を見ると、東城の足が地面から、30㎝ほど浮いている。
    正義「(かがんでじっと見て、呟く)浮いてる。何で浮いてるんだよ」
    東城「いっただろ。私は幽霊だって」
    正義「幽霊って、ほんとにもう、死んだ人ってことですか」
    東城「そうだ。私は2年前に肺ガンで死んだんだ」
    正義「(呟き)マジかよ」
    東城「君の望を叶えるために出てきたんだ」
    正義「俺の望?」
    東城「そうだ。私は君を東大に合格させるぞ」
    正義「はっ?なんでいきなり、東大?」
    東城「君、私を誰だか知らないんだね」
    正義「たった今、会ったばかりだし」
    東城「スマホで『東城正義、東大教授』でググってみろ」
    正義、スマホでググる。
    画面に出てきた東城の画像と目の前の東城を見比べる。
    東城「私は東京大学の教授だったんだ。それも他の教授よりもちょっと偉くて、人気があったんだ」
    正義「…享年60歳って。…じゃあ、本物の幽霊」
    東城「そうだ。本物の幽霊だ。君は『今に見てろよ。俺だって、東大に合格して、周りの奴らをアッといわせてやるさ』ともいっているよな」
    正義「……」
    東城「東大に行きたいんだろ」
    正義「そう思ったって、今の俺の頭じゃ、絶対無理だし」
    東城「確かに今までの君では無理かもしれないが、私のいう通りにやればいいんだ」
    正義「幽霊のいう通りに」
    東城「幽霊っていっても、私は普通の幽霊じゃない。私と君が今こうして出会ったってことは、私が君を大学に、いや、そんじょそこらの、大学じゃない。私の教えていた、日本一の大学に入れるためじゃないか」
    正義「この俺が、あなたが教えていた、日本一の大学に入れるわけがないでしょ」
    東城「どうしてだ」
    正義「どうしてって。今までろくに勉強してこなかったんだ。受験まで、もう一年もないし。どう考えたって、そんなの、ありえないし」
    東城「ありえなければ、私と君はこうして出会っていないんだ。君を東大に合格させることが、私の次の人生に旅立つためのミッションなんだ」
    正義「ミッション?」
    東城「そうだ。マイミッションだ」 
     
    ○守の住む団地
    守が帰ってきて机に荷物を置くと、佐藤妙子(72)が帰ってくる。
    妙子「お帰り。早いね(持っていたビニールの袋を出し)ほら、これ食べな」
    いろんな菓子が入っている
    守、菓子をつまみながら
    守「ば、ばあちゃんさ。ゆ、ゆ、ゆうれいに会ったことある?」
    妙子「あるよ」
    守「(とても驚いて)あ、あるの?」
    妙子「おじいちゃんが死んだ時にさ。枕元に立っていたんだよ。でも、それっきり、まったく出てこないけどね」
    守「お、おじいちゃんか……」
       妙子、守の前に座って、ビニール袋のお菓子を頬張りながら
    妙子「幽霊が、どうしたんだい?」
    守「う、うん。な、なんでもない」
      
    ○青山霊園(夕方)
    歩美が歩いていくと道の真ん中に黒猫が座っていて、導かれるように、ある墓石に入っていく。
     
    ○ジョー・スギサワの墓
       回りとは違うド派手な墓石
       トランプやシルクハットが供えられている。
    黒猫が墓石の前でニャーと鳴くと突然目の前にキラキラのシルバーのシャツにシルクハットをかぶり、黒いマントを羽織ったジョー・スギサワ(48)が立っている。
       歩美、驚き、その場から逃げようとするが、体が動かない。
    ジョー「驚かせてすみません。少しお話させいただいてもいいでしょうか」
       歩美、固まったまま。
    ジョー「(にこやかに)私は世界チャンピオンを3回獲得したマジシャンのジョー・スギサワと申します」
    歩美「……あ、あの……本物?ですか?」
    ジョー「はい。本物です。しかし残念ですが、今は幽霊になってしまいました」
    歩美「ゆう、れい?あなたが?」
    ジョー「そうです」
    ジョーが足元を指さすと地面から30㎝くらい浮いている。
    歩美、ジョーに恐る恐る近づき、足元にしゃがみこんで覗きこむ。
    歩美「(見上げて)これもマジックですか?」
    ジョー「ほ~面白い!そうですね。私のマジックのテクニックを使えばこれくらいのことはできますね」
    歩美、ジョーの後ろに回ったり、いろんな角度からジョーを見回す。
    ジョー「3年前にラスベガスのショーの最中に銃の乱射があり、その時に私は死にました」
    歩美、スマホを取り出し、検索してみる。事件の記事と目の前のジョーを見比べて、
    歩美「あなたがいっていることは本当のようね」
    ジョー「信じてもらえてよかったです。さて、あなたの望は何ですか?」
    歩美「私の望?ですか」
    ジョー「そうです。私があなたの望を叶えることで私は成仏して次の新しい人生へと旅立つことができるんです」
    歩美「そんなこと急にいわれても(考えこんで)」   
     
    ○香坂家中(夜)
       香坂真美(40)が帰ってくると、
    テレビにスマホをつなげて激しい筋トレをする真凜。
    真美「あ~、お腹空いたわ~」
    真凛「ごめん。わたし今日からダイエット中だから、何も作ってないわ」
    真美「うわ~出た~ダイエットおばけ」
    真凜「今度は、本気!マジでやせるから」
    真美「(相手にしないで)はい、はい、そうだね」
    どっかりとソファに座りこみ
    真美「もう、カップラーメンでいいからさ。お湯沸かして」
    真凜「(呆れて)それぐらい、できるでしょ」
       いいながら、キッチンに行く。
    真美「ありがとう!もう、大好きよ」
    ×   ×   ×
    カップラーメンのスープを飲みほし
    真美「で、なんでダイエット」
    真凜「……」
    真美「男?」
    真凜「……ぽっちゃり、嫌いだって」
    真美「(呆れて)なに、それ」
    真凜「……むっちゃ、傷ついた」
    真美「そんな奴」
    真凜「(思い出してめそめそして)タイプじゃないって」
    真美「(呆れて)はぁ~なんだ、そいつ」
    真凜「今日さ、振られて自殺したって女子にあったんだけど」
    真美「やだ、どこで?」
    真凜「学校の墓地で」
    真美「こわっ。なにその子。自殺したって未遂ってこと」
    真凜「でしょう。けっこう美人さんで。でも、すっごい派手な格好していた。朝だから、近くで働いているお水の人かな」
    真美「やだ~、真凜が失恋して自殺したら、ママも、あとを追うからね」
    真凜「するわけないじゃん。ぜったいに見返してやるんだから」
    真美「そうだ!真凜はママの子ね。(可愛く)お風呂入れて」
    真凜「も~、自分でやってよ」
     
    〇正義の部屋中(夜)
       ベットに仰向けに寝ている正義。
     
    〇正義の回想・東城の墓(夕)
       東城と正義が対峙している。
    正義「なぜあなたが見えるんですか」
    東城「それは君が、わたしを必要としていたからだよ」
    正義「俺が、あなたを必要としている」
    東城「自分が幽霊になって知ったんだが、死ぬ時にやり残したことがある魂は、こうして幽霊となって、さまようんだよ。自分の力を必要としている人を助けることによって、その助けた人に心から、感謝をされたら、成仏して次の新しい人生がはじまるんだよ」
    正義「死んだ世界がそんなことになってんだ」
    東城「お互い助け合おうということさ」
    正義「助け合うって」
    東城「だからわたしが君を東大に合格させる」
    〇加代のマンションの部屋中(夜)
       暗い部屋の灯りをつける。
       部屋の壁に和馬の歌う姿のポスターが貼ってある。
    テレビの電源を入れると画面から和真がステージで歌う姿がながれる。
       白猫が加代の足元に来る。
       加代が白猫を抱き抱えて
    加代「アリア。和真さまの幽霊でもいいから会いたいよ~」
       和真の映像に合わせて歌う。
     
    ○歩美の住むマンションのリビング中(夜)
       リビングの片隅に置かれた、歩美、歩美の夫、持田翔太(高校生くらい)の3人の笑顔の写真。
     
    ○同マンションのキッチン(夜)
       鍋に作られたカレー。
        ×   ×   ×
        冷蔵庫を開けると一人分のサラダにラップがかけられている。
     
    ○同将太の部屋前
       歩美がドアごしに
    歩美「カレー作ってくれてありがとう。もう、食べたよね。お母さんこれから食べるんだけど、少し話したいな」
       返事はない。
     
    ○同家リビングダイニング
    歩美、テレビ画面につなげたYouTubeでジョー・スギサワのマジックシーを観ながら食事をする。
    持田翔太(23)が来て、ジョー・スギサワの画面を見て
    歩美「この人、有名な人なんだって」
    翔太「そう、だね」
    歩美「会ったんだ」
    翔太「誰に?」  
    歩美「このマジシャンに」
    翔太「は~?いつ?」
    歩美「さっき」
    翔太「(画面を見て)なにいってんの。この人もう、死んでんだよ」
    歩美「だってね」
    翔太「会ったって」
    歩美「幽霊。本物のこの人の幽霊にさ、会ったんだよね」
     
    〇和真の墓(翌日・朝)
       加代、墓石にタマゴサンドを置き合掌する。
    後ろから和真が
    和真「タマゴサンド、おいしそうですね」
       加代、一瞬驚いて飛び上がる。
       和真が派手なステージ衣装で微笑んでいる。
    加代「(じっと和真を見て)……あの……そっくりさんですか?」
    和真「(一瞬、ムッとするが、笑顔をつくり)いいえ」
    加代「(小さく)でも、そっくりなんだけど」
    和真「毎日、タマゴサンドを作ってきてくれてありがとうございます」
    加代「あ、いえ。(考えて)でも、毎日ってどうして知っているんですか」
    和真「いつも見てました」
    加代「(急に恥ずかしくなって)えっ、見ていたって(身の回りを気にして)え、えっと」
    和真「おひとつ、頂いてもいいですか」
    加代「あ、あ、はい。どうぞ」
    タマゴサンドを差し出す。
    和真、タマゴサンドを一つ食べて、すぐに二つ、三つと全部のタマゴサンドを食べてしまう。
    加代がコーヒーを差し出すとそれも一気に飲み干す。
    和真「……ボーノ!」
    加代「は?」
    和真「ずっと食べたかった!」
       声を整えて歌いはじめる。
       和真の美しいテノールの歌声が響きわたる。
    加代、最初はぽか~んとしているが、だんだん笑顔になり。
    和真が歌い終わり、われんばかりの拍手をして
    加代「(興奮して)素晴らしい!本物みたい!」
    和真「(咳払いをして)本物、なんですけど」
    加代「本物って、和真さまは3年前に、飛行機事故で……お亡くなりなりました」
    和真「そうですよ。だから私は、本物の幽霊なんですよ」
    加代「幽霊、(大きく)幽霊!」
    その場に気を失う。
    ×   ×   ×
    加代「ずっと前からファンでした」
    和真「それは嬉しい。ありがとうございます」
    和真「はい。本物の幽霊です」
    加代「でも、こうしてお会いできて嬉しいです。(いいにくそうに)お亡くなりなってからは、心にぽっかりと穴があいたようでした」
    和真「まさか自分が飛行機事故で死ぬとは思
    ってなかったんで、とっても未練があります」
    加代「そうですよね。ご本人が一番辛いです
    よね」
    和真「でもこうしてあなたにお会いできまし
    たから。あのお名前を教えていただけますか」
    加代「渡辺加代です。そこの高校で音楽の教
    師をしています。音大で声楽を専攻していま
    した」
    和真「だから歌声が美しかったんですね」
       加代、照れて俯く。
    和真「一曲、一緒に歌いましょう」
       加代、驚くが笑顔になり
    加代「(嬉しそうに)はい」
       和真がリードして歌いはじめる。
       加代も和真の歌声にうっとりしながら、
       和真に合わせて一緒に歌う。
       歌い終わるとお互いが多幸感に包まれる。
    和真「いい歌声ですね。久しぶりに気持ちよ
    く歌えました」
    加代「(興奮して)あ~、夢のようです!」
    和真「加代さんの望はなんですか」
    加代「望ですか?」
    和真「私がこうして加代さんと出会ったのは、
    加代さんの望を叶えるためなんです。加代さんの望を叶えると、私は次の新しい人生へと旅立つことができるのです」
    加代「…私の望ですか…(少し考えて)」
       和真、加代をじっと見つめる。
    加代「(照れながら)2つあります。合唱部の顧問をしているんですが、全国大会に出場して、優勝したいです。まだ出場もしてないんですけど」
    和真「しましょう。もうひとつは」
    加代「(はにかんで)もうひとつは、私自身が声楽家として舞台に立ちたいです。もう、年齢的にも遅いでしょうが」
    和真「2つとも、叶えましょう!」
    加代「でも…。これはホントに夢というか。和真さまに聞かれたからいいましたけど」
    和真「無理じゃないですよ。加代さんの望を
    叶えることが、私が次の新しい人生に旅立つための重要なミッションなので」
    加代「私の夢を叶えることが、和真さまの重
    要なミッション、ですか」 
     
    〇こぼん・でこぽんの墓
       守が恐る恐るくる。
       突然、前後に立つでこぽん、こぼん。
       はさまれたようになり、オロオロする守。
    でこぽん「お兄さん、そんなに驚かないで」
    こぼん「お前のいいかたが怖いんだよ」
    でこぽん「仕方ないだろ、生まれつきなんだから」
    こぼん「お兄さん。まあ、座って」
       守、遠慮がちに墓石に座る。
    こぼん「お兄さん。名前は?」
    守「さ、さ、さ、さとう、ま、ま、まもるです」
    でこぽん「おっし、まもる。まもるの望は何だ」
    守「…の、の、のぞみ、ですか」
    こぼん「今、守くんが一番叶えたいことがあるだろ」
    守「と、と、と、ともだちが、ほ、ほ、ほしいです」
    でこぽん「友達がいないのか」
    守「(コクリと頷き)ぼ、ぼ、ぼくは、き、き、き、き、きつおんで、う、う、うまく、は、は、はなせないから、と、と、と、ともだちが、で、で、できないんです」
    こぼん「そうか。守は吃音なんだ」
    でこぽん「俺達を怖がっているからじゃないんだな」
    守「こ、こ、こわいです」
    でこぽん「守に友達をつくることが、俺達のミッションか。簡単だよな」
    守「そ、そ、そ、そうですか」
    こぼん「友達になりたいやつがいるか?」
    守「(俯き考えて)…」
    でこぽん「誰だ」
    守「…や、や、や、やざき、と、と、とおるくん」
    こぼん「やざき、とおるか。同じクラスのやつか」
    守「(コクリと頷き)ぼ、ぼ、ぼ、ぼくをいじめるやつ」
    でこぼん「あ~、このあいだ守をいじめたやつだな。そいつと友達になりたいのか?変わってんな」
    守「カ、カ、カッコよくて、ク、ク、クラスの、に、に、にんきものなんです」
     
    ○青山霊園・後藤愛の墓
       真凛と愛が墓石に並んで座っている。
    愛「もう、ここにこないかと思った」
    真凜「なんか、気になって」
    愛「(苦笑いして)スマホで後藤愛で検索して」
       真凜、いわれた通りにスマホで検索する。
       スマホの画面に出てくる愛の沢山の画像。
    真凜「(いいにくそうに)あの……。この後藤愛さんは20年前に自殺したと書いてありますが」
    愛「そうよ。だってわたし幽霊だもん」
       愛が立ち上がり、足元を指さすと地面から30㎝くらい浮いている。
    真凜、しゃがみ込み、愛の足元を覗く。
    愛「私、本物の幽霊なの」
    真凜「本物の幽霊?ここに女優さんだったって」
    愛「そう。私が死んだ時にあなたは小さかったからね」
    真凜「(スマホの画像愛の写真と目の前の愛を見比べて)本物、みたいですね」
    愛「あなたの名前は?」
    真凜「真凜です。香坂真凜です」
    愛「真凜。あなたの望は何?」
    真凜「は?望、ですか」
    愛「そう。真凜の望を私が応援することで、私が成仏することができるの」
    真凜「(困って)は~」
       愛、真凛のことを見つめる。
    真凛「わたしのことをタイプじゃない、とかいったやつをみかえしてやりたい」
    愛「うん」
    真凜「……わたしも……愛さんみたいに女優さんになりたい…無理かもしれないけど」
    愛、思わず真凜に抱きつき
    愛「なれるよ!」
       愛、真凜から離れて
    愛「その真凜の望を叶えるために、わたしたちは出会ったんだよ。私に任せて!日本中の人を真凜に夢中にさせるから」
       真凜、コクリとうなずく。
     
    〇東城の墓(朝)
    東城が自分の墓石に座り、正義も近くの石に座っている。
    東城「そうか。東大を受けると決めたか」
    正義「はい。教授と出会えたんで」
    東城「まずは環境を整えよう。今のところ俺はこの墓地の敷地内なら出歩くことができる。だから学校の授業が終わったら、どこ
    かの教室を借りて、俺が特別な授業をする」
    正義「はい」
    東城「だから担任の先生に、君が東大を受験するから協力してもらえるように話そう」
    正義「担任のブルドックにですか」
    東城「(笑って)担任は犬なのか」
    正義「あ、いえ。ブルドックにそっくりで、
    受験に対して協力してくれるタイプじゃないっていうか」
    東城「使えるものは何でも、味方にするんだ。
    それに自分の教え子が、日本一の大学に合格したら、嬉しいだろ」
    正義「アイツの嬉しそうな顔なんて、一度も
    見たことはないけど」
    東城「学校あげて、君を日本一の大学に合格させようというムードを作るんだ」
    正義「……はあ……」
    東城「あと一番大切なのは家族だ」
    正義「……たぶん、両親は喜んで協力してくれると思います」
    東城「それは良かった。安心して勉強だけに
    打ち込める環境があって、日本一の優秀な大学教授が個人授業をする。君がわたしのいう通りに本気でやりきれば、合格できるぞ」
    正義「俺も、これが自分のミッションだと思って挑みますよ」
    東城「ここから具体的な勉強のスケジュールをいうからメモを取ってくれ」
     
    〇南青山高校・三年一組・教室
       休み時間で男子高校生Bが
    男子高校生B「なあ、昨日、2年の男子が、墓地で幽霊を見たらしいぞ。そいつ幽霊見て、ビビッって、ションベンちびるは、腰が抜けるわで、大変だったったらしいよ」
        正義、東城のことを思い窓から霊園をじっとみつめる。
     
    〇同・教室中
    放課後で、教室には中野が仏頂面で腕を組んでいて、対峙する正義。
    中野「ふざけてんじゃないよな。本気なんだな」
    正義「はい。本気です」
    中野「大学を受験するのはいいが、ホントに東大1本でいくのか?」
    正義「はい。東大だけです」
    中野「よし、わかった。それだったら、校長や他の先生にも話して、協力してもらおう」
       中野、ニヤリとして
    中野「森田が東大に合格したら、俺は女装し
    て表参道の街を歩いてやるよ」
    正義「(ムッとして)約束ですよ」
    中野「ああ、約束するよ。でも、なんで東大
    なんだ」
    正義「俺のミッションなんです」
     
    〇ジョー・スギサワの墓(夕)
        ジョーが墓石に座っている。
        歩美、少し離れた所に立って
    歩美「わたしの息子は大学受験に失敗してか
    ら、引きこもりになって5年になります」
    ジョー「…」
    歩美「息子が何かやりたいことを見つけて、社会に出て欲しい。これがわたしの望です」
    ジョー「息子さんが好きなことや興味があることは何ですか」
    歩美「それが……わからないんです。でも……ジョーさんのマジックショーは」
    ジョー「くいるようにみていましたか」
    歩美「くいるようかはわかりませんが、見ていました」
    ジョー「ここに息子さんを連れてきてください」
    歩美「ここにですか」
    ジョー「そうです。わたしが息子さんと話しましょう」
    歩美「(困って)そう、いっても。うちからここまで1時間かかるんですよ。近所のコンビニにだってたまにしか行かないのに」
    ジョー「ではこれを息子さんに渡してください」
        ジョーが靴箱くらいの鍵のかかった箱を渡す。
    ジョー「わたしからといって渡してくだい」
       歩美、コクリとうなずく。
    〇音楽室(放課後)
       男女混ざった30人程の生徒たちが並んでいる中に真凜もいる。
       加代がグランドピアノを弾きながら、全員で発声練習をする。
    ×   ×   ×
    加代「全国合唱コンクールの出場が決まるオーディション用の収録を一ヵ月後にします。うちの高校は出場したことはないけど、わたしはみんなの歌声を聞いていて希望を持っています」
        ×   ×   ×
       練習が終わり生徒達が帰っていく。
       真凜、加代のところに行き
    真凜「先生にお願いがあるんですけど」
    加代「なに」
    真凜「発声と歌の個人レッスンをお願いしたいんですけど。部活が終わってからの30分  
    でいいので」
    加代「香坂さんは、みんなの中でもよく歌えているけど。なにか不安かしら?」
    真凜「わたし、オーディションを受けたいんです」
    加代「オーディション?って、なんの」
    真凜「あの…他のひとには内緒にして欲しいんです」
    加代、頷く
    真凜「シンデレラガールズです」
    加代「え~香坂さん、芸能界に入りたいの?」
    真凜「はい。女優になりたいんです」
    加代「素敵な夢ね」
    真凜「うち、母子家庭でレッスン代払えないんです」
    加代「オーディションか。若いっていいわね。
    いいわよ。部活が終わってからの30分ね」
    真凜「(喜んで)ありがとうございます!」
    加代「わたしも、頑張るわ!」
    真凜「えっ、先生も?」
    加代「だってわたしが教えた生徒が、女優さんになったら自慢できるしね。合唱コンクールも優勝狙うから、よろしくね」
    真凜「はい」
     
    〇牛丼屋(夜)
       客はまばら
       カウンターの中で働く森田隆夫(55)
       雅子と正義が入ってくる。
    隆夫「いらっしゃいませ(二人に気づき)」
       ×   ×   ×
       食べ終わったどんぶりを前にして
    正義「あ、あのさ。俺、大学行くことにした」
    雅子と孝男が一瞬顔を見合わせる。
    雅子「(嬉しさを押さえて)うん。そうだね」と孝男を見る。
    孝男「そうか。どこを受けるんだ」
    正義「…無理っていわないで」
    孝男「いわないさ」
    正義「…東大」
    雅子「えっ?」
    正義「東京大学か」
       雅子が孝男に視線を送り
    雅子「東京大学って、あの東大を受けるの?」
    正義「…うん」
    孝男「他も受けるんだろ」
    正義「ううん。東大だけ」
    雅子、孝男、同時に
    雅子、孝男「それは!むり、じゃ~」
    孝男「無理、じゃない。今から準備すればきっと大学には合格できる。私立でもいいぞ」
    雅子「そうよ。お母さんも働いているんだか
    ら、お金のことは心配しないで」
    正義「うん。でも、東大に行きたいんだ。それに約束したし」
    孝男「約束した?誰と」
    正義「今は、まだいえないけど。とにかく受験するから」
    雅子「じゃあ、塾行くでしょ」
    正義「行かない」
    雅子「だって、東大でしょ。塾、行かなきゃ無理でしょ」
    正義「とにかく。俺の決めたペースでやるからさ。必要なテキストとか買うからよろしく」
     
    〇森田家の玄関(早朝)
        正義、リュックを背負い靴を履く。
        雅子が心配そうにお弁当のカバンを渡して
    雅子「お弁当、2食分入っているからね。学校まで歩いていくって大丈夫なの」
       正義、出て行く。
     
    〇道(早朝)
    正義、スマホにダウンロードした英語のリスニングテープを聞きながら歩く。
    東城の声「英語は学校の行き帰りに歩きなが
    ら聞くんだ。歩いている時は脳がとても、いい状態だし、歩く事で運動不足を解消し、持久力のある健康な体が作られるしな」
     
    〇青山霊園・高校への道
       徹が歩いて行く後ろから歩いてくる守。
       徹が立ち止まり
    徹「(前を見たまま)おい!なんだよ。キモイんだけど(振り返る)」
       守、びっくとするが、意を決して
    守「ほ、ほ、ほ、うかごに、い、い、いっしょにい、い、ってほしい、と、と、こがあるんだけど」
    徹「は~。俺が?お前と。どこだよ。いまいえよ」
    守「こ、こ、この、さ、さ、さ、きにある、ま、ま、ま、んざいしの、でこぼん、こぼんの、は、は、はかに」
    徹「お前と一緒に墓参りかよ。そんなヒマじゃねーし」
    守「でこぽん、こぼんさんが、や、や、やざきくんに、あ、あ、あ、いたいって」
    徹「お前、何いってんの。漫才師のでこぽん・こぼんは2年前に死んでんだぞ。幽霊にでも会うっていうのかよ」
    守「そ、そ、そうなんだ。ゆ、ゆ、ゆうれい、でこぽん・こぼんのほ、ほ、ほ、んものの、ゆ、ゆ、ゆうれいが、あ、あ、あいたいって」
       徹、守の顔をじっと見て
    徹「あの噂は本当だったのか。お前が幽霊に会って、しょんべんちびったって」
       守、コクリとうなずく。
    徹「……もしも、ウソだったら、ただじゃおかないからな」
    守、真剣な顔でうなずく。
     
    〇でこぽん・こぼんの墓
    放課後に、守と徹が墓石の前に立っていると背後から
    でこぽんの声「よ!」
       守と徹が振り向くとでこぽん・こぼんが立っていて
    でこぽん「どーも!でこぽんです」
    こぼん「はい!こぼんです」
    でこぽん、こぼん「(同時に)でこぼこです」
       徹、ポカンと口を開けたまま
    でこぽん「お兄ちゃん、噂通りのイケメンだ」
    こぼん「守、良かったな」
    徹「あ、あ、あの…おふたり、ほ、ほ、ほんものの幽霊なんですか」
    こぼん「そうだよ(足元をさす)」
       徹、こぼんの足元を見て、驚き、しゃがみこみ手を入れてみる。
    でこぽん「な、浮いてるだろ。これが、本物の幽霊の証なんだよ」
       徹、立ち上がり、こぼん、でこぽんに顔を近づけてジロジロを見る。
    徹「…ほ、ほ、ほんものでこぽん・こぼん」
       守、徹の態度が心配になり
    守「や、や、やざきくん…」
    徹「(でこぽん、こぼんに抱き着き)本物だ!」
    でこぽん「ああ、本物の幽霊だよ」
    徹「俺、お笑い好きで。子供のころからテレビで見てて。交通事故で亡くなったって知った時はホントにショックで」
    守「や、や、や、ざきくんが、お、お、おわらいが、す、す、すきなの」
    こぼん「じゃあ話が早い。矢崎くんだよね。守と一緒にコンビを組んで、漫才をやらないか」
    でこぽん「お~それはいいな。おれたちもふたりと同じ歳くらいの時にコンビを組んだもんな。それから30年も一緒で、こうして死ぬ時も一緒だもんな」
    徹「俺とこいつが漫才コンビ」
    でこぽん「そうだ。君たちはおれたちみたいな名コンビになれるぞ」
    こぼん「矢崎くんは、守とコンビを組むのが嫌か」
        守が不安そうに徹を見る。
    徹「……」
       でこぽん・こぼんも徹を見る。
    徹「守はどうなんだよ。俺と組んで漫才やり
    たいのかよ」
    守「ぼ、ぼ、ぼくは…や、や、や、ざきくんとコ、コ、コ、コンビに、な、な、なりたい」
    でこぽん「よ~し!これで決まりだ!俺達、名コンビが全力で漫才を教えるぞ」
    こぼん「(涙ぐみ)守、良かったな」
     
    〇ジョー・スギサワの墓(夕方)
        シルクハットをかぶり、黒いマントを羽織ったジョーが墓石に向かって立っていて、背後から近づく二人の人影。
        振り向き、空中でトランプを華麗にさばき、一枚のカードを目の前にいる翔太に渡す。
        翔太、驚きながら、カードを受け取る。
        横にいる加代も心配そうにみつめる。
    ジョー「どうも。マジシャンの世界チャンピオンのジョー・スギサワです」
    翔太「(驚き)ほ、ほ、んものですか」
    ジョーが手を振ると翔太が持っていたカードがコーヒーの缶に変わる。
    加代と翔太が驚いて。
    ジョー「本物のマジシャンです。今は幽霊で
    すけどけどね(足元を差す)」
       翔太、しゃがみこみ浮いているジョーの足元を覗きこむ。
    翔太「(立ち上がり)本物なんですね。母からあなたのことを聞いて(箱を出して)これ  
    をもらって」
    ジョー「マジックに興味があるんですよね」
    翔太「あなたの弟子にさせてください」
    加代「え~。翔太、そうなの?マジシャンになりたいの」
    ショー「(加代に)私があなたに出会ったのは、お互いが求めているものが一致しているからなんです。あなたに望を聞いた時に、息子さんの話をされたから、きっとそうだと思いました」
    加代「じゃあ、その箱には」
    ジョー「私が世界チャンピンを取った時にもらった記念の盾です。それはわたししか持っていないものです」
    翔太「母さんにジョーさんの話を聞いた時は、
    信じてなかったけど、この盾を見せられたら、ウソでも会ってみたかったんだ」
    加代「(涙ぐみ、頭を下げて)ジョーさん。この子を弟子にしてやってください」
    ジョー「顔をあげてくだい」
    加代、ゆっくり顔をあげる
    ジョー「わたしは、今こうして幽霊になりました。でも、翔太さんをプロのマジシャンにすることで、次の新しい人生へと旅たてます。これはわたしと翔太さんのふたりの人生最大のミッションなんです」
                    おわり


     
     

    Katy Moon

     
     
    映像化を目指して物語を書いています。 このブログでは私の「好き」を、 エンタメとして発信しています。 創作作品:https://qr.paps.jp/EM4nC

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