
【短編】ある古書のこころ
私は古書店に行くことが日課になっている。
本を買い、読み、また買いに行く。
いつものように自宅で本を読んでいると手書きの文字が目についた。
読み進めて行くとまた文字が現れた。
次も、その次も……。
古本ではよくあることだ。
本を見ると以前の持ち主がどのような人物だったかがよくわかる。
絵本は子ども、自己啓発本はビジネス、小説は娯楽、画集は芸術家。
それらはすべて先入観でしかない。
この本はそう物語っているようだった。
私を見て嘲笑うかのようにまた文字が目につく。
「本ではなく私自身を見てほしい」と。
それは独白のようでもあり、自分は醜い人間であると突きつけられているようでもあった。
人の愚かさを嘆き、何故このような感情を抱くのかを問い、いつしか本そのものではなく手書きの文字しか目に入らなくなった。
私は、何を読まされていたのだろう――。
古書なのか、文字なのか、はたまた人間なのか。
私はそっと本を手に取り棚に置こうとした。
その瞬間窓から木枯らしが入り込み手に取った本は静かに床に落ちていった。
秋の終わりに読んだ遺書。
夏目漱石「こゝろ」