
駅の出口は難しい──英会話スクールで思い出した、小さな異文化交流
英会話スクールに通うようになった。
お試し10回セット。
せっかくなので、ネイティブを指名する。
金髪碧眼の若い講師が来た。
ワーキングホリデーのようで、日本に来てまだ3か月だと言った。
講師らしくワイシャツを着ていたが、Tシャツに大きなリュックの方が似合いそうだった。
NHK教育番組の語学講師そのものだった。
日本語は難しいと言う。
言葉が分からなくて困ることはないかと尋ねると、
「駅の出口がよく分からない。なかなか正解の出口から出られない」
と言った。
次に来た講師は、哲学者のような雰囲気の人だった。
日本に来て二十年になるという。
ラーメン店の話になったときだけ、興味を惹かれたらしく、場所を聞いてきた。
「東口を出て徒歩三分です」
そう言うと、
「○○デパートのところ?」
と聞き返した。
それは西口だ。
東口です、と説明すると、彼の目が少し泳いだ。
二十年いても、日本の大きな駅の構造は難しいらしい。
ふと、自分の二十年前を思い出す。
フランスの地下鉄。
駅のホームで、出口が分からなくなった。
暗くて狭いホームで、必死にガイドブックを開く。
“Can I help you?”
振り向くと、金髪の若い女性が笑顔で立っていた。
ここに行きたいんだ、とガイドブックを指さすと、ペラペラと英語で快く説明してくれた。
しかし、分からなかった。
あちこち数字とアルファベットだらけだ。
右左だけでもなく、斜めにも通路が伸びている。
説明を終えて、くるりと背中を向けて去っていく彼女の後を、つい、ついていった。
彼女は振り向くと、
「No, no」
と言ったが、やがて諦めた様子で、正しい出口まで連れて行ってくれた。
高校生のときだった。
おのぼりさんよろしく、新宿駅で人波に揉まれていた。
東口のアルタで待ち合わせ。
行けば分かるとたかを括っていたが、大間違いだった。
意を決して、サラリーマン風の男性に、東口へはどう行ったらいいかを尋ねた。
男性は弾かれたように立ち止まり、少し戸惑っていたが、やがて消化不良で煮詰まったような顔で、ぶっきらぼうな声で言った。
「そんなこと、駅員に聞けよ!」
駅の出口は難しい。
たどり着くまでに、小さなドラマがいくつも転がっている。
*
この作品は「日常の薄皮をなでる」シリーズの一篇です。
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