
ひとり時間③── 誰にも言えない夢。
みちるは、松葉杖をついて学校の中を歩いていた。
右足の脛のあたりを、白いカバーが覆っている。
松葉杖をついて、ゆっくり体育館の壁際に向かう。
艶のある木の床。
高い天井。
白い体操服を着たみんなが、遠巻きにしていた。
少し前のめりになって、
みんなが、みちるを見ていた。
ざわめきが波のように広がる。
「何? どうしたの?」
「松葉杖じゃん。」
「すげぇ。」
誰かが道を空ける。
誰かが振り返る。
みんなが、みちるを見ていた。
みちるは少し目を伏せて、
そんな光景を、ゆったりと眺めていた。
少し、
口角が上がっていく。
何も言わなかった。
体育館の中央では、
みんなが走っている。
ボールが跳ねる。
笛が鳴る。
ときどき視線だけが、
こちらへ向く。
みちるを初めて見るような目だった。
誰も話しかけてこなかった。
それでよかった。
気がつくと、
プールサイドにいた。
白い床。
透明な水色が、
ゆらゆらと揺れている。
紺色の水着のみんなが、
みちるを避けながら小走りに動く。
ときどき、
松葉杖へ視線が向く。
日差しが暖かい。
跳ねた水が頬にかかった。
気持ちよかった。
目が覚めると、
布団の中で、
カーテンの向こうの薄明かりが透けて見えた。
ああ、
いい夢だったなぁ。
続きを見ていたい。
目を閉じてみる。
もう一度、
あの夢へ戻りたい。
*
この作品は「日常の薄皮をなでる」シリーズの一篇です。
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