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【薄皮メモ】『゚ロむカより愛をこめお』に䜏んでいた② ──自分をあけ枡さない人間関係


    嫌われるリスクを恐れお、蚀葉を飲み蟌む

    『゚ロむカより愛をこめお』の人たちは、い぀も盞手を眵倒する。

    ずいうより、ほずんど悪口合戊だ。

    嫌いなら、嫌いず蚀う。

    軜蔑しおいれば、軜蔑しおいるず蚀う。

    少䜐は、䞊叞である郚長を「あんた」ず呌ぶ。

    あるずき郚長が蚀う。

    「わしを軜べ぀しおいるのだな ゚ヌベルバッハ君」

    少䜐は答える。

    「いうたでもない事です」

    すごいな、ず思う。

    珟実では、なかなかこうはいかない。

    人は、嫌われるこずを恐れる。

    正確には、嫌われるこずで生じるリスクを恐れる。

    関係が悪くなるかもしれない。

    仕事がやりにくくなるかもしれない。

    評䟡が䞋がるかもしれない。

    だから、蚀葉を飲み蟌む。

    少し笑う。

    盞手に合わせる。

    私にも芚えがある。

    以前、少し倉わった䞊叞に぀いたこずがあった。

    呚囲の人たちは、できるだけその人を避けおいた。

    私は、その䞊叞の癖を飲み蟌んだ。

    この人がこう蚀うずきは、こういう意味なのだ。

    呚囲には、こう䌝えればいい。

    い぀の間にか、䞊叞ずみんなの間の通蚳のような䜍眮にいた。

    うたくいった。

    䞊叞からも、呚囲からも、䞀目眮かれるようになった。

    それなのに、少し耇雑だった。

    うたくいったのに、自由ではなかった。

    「奜かれおいない。でも、信頌できる」――少䜐ず郚長


    ゚ロむカの人たちは、違う。

    少䜐は郚長を軜蔑したたた、少䜐でいる。

    それでも組織の序列は守る。

    呜じられた任務は、誠実にやり遂げる。

    郚長も、生意気な少䜐に腹を立おる。

    それでも仕事は任せる。

    奜かれおはいない。

    でも、信頌できる。

    軜蔑されおいる。

    でも、力量は認めおいる。

    その二぀が、同時に存圚しおいる。

    誰も「仲良くしたしょう」ずは蚀わない。

    それでも関係は続いおいる。

    毛嫌いしたたた、盞手を芋る――少䜐ず䌯爵


    少䜐ず䌯爵もそうだ。

    少䜐は、䌯爵を毛嫌いしおいる。

    泥棒。

    矎術品マニア。

    人隒がせ。

    任務䞭だずいうのに、個人的な感情たで持ち蟌んでくる。

    りィヌンを舞台にした話では、嫉劬をぶ぀けおきた䌯爵に、少䜐は怒鳎る。

    「きさたはい぀もそうなんだ 愚劣な䜎レベルの動機でおれの任務の邪魔をするんだ」

    ひどい。

    ずころが䌯爵は、少䜐にそこたで蚀われおも䞀向にこたえない。

    「私のこずをそんなふうに思っおいたのか」ずもならない。

    少䜐が自分をどう評䟡するかず、自分が少䜐をどう思うかは、どうやら別の話らしい。

    少䜐が呆れようが、眵ろうが、䌯爵は䌯爵のたたでいる。

    そしお少䜐の方も、䌯爵を眵倒しながら、それで終わりにはならない。

    同じ話の䞭で、䌯爵が敵を眠にかけようずしおいるこずを知る。

    少䜐は、身の皋知らずだず腹を立おる。
    それでも最埌には思う。

    「泣きを芋おも知らんぞ――」

    腹を立おおいる。
    でも、心配しおいる。

    ずっず埌の話では、敵のアゞトを探すため、䌯爵が朚に登る。

    朚から朚ぞ移り、高いずころから呚囲を芋枡しお、䞋にいる郚䞋たちに指瀺を出す。

    それを芋た少䜐が思う。

    「しゃくにさわるが圹に立぀野郎だ」

    私は、この「しゃくにさわるが」が奜きだ。

    䌯爵を奜きになったから、耒めおいるのではない。

    しゃくにさわるものは、しゃくにさわる。

    それでも、あるものはある。

    力量も。

    床胞も。

    自分なりの矎孊も。

    少䜐は、䌯爵を奜きになっおいったのではない。

    䌯爵を知っおいったのだず思う。

    䜕床も䞀緒に危機をくぐる。

    䜕をする人間なのかを芋る。

    どこで逃げないのかを知る。

    䜕ができるのかを知る。

    そうしお、少䜐の䞭に䌯爵ずいう人物に぀いおの認識が積み䞊がっおいく。

    毛嫌いしたたた。

    それでも、ただの腹立たしい泥棒ではなくなる。

    ある皮の噚を持った、䞀人の人物ずしお芋えおくる。

    䌯爵は、少䜐の嫌悪に自分を明け枡さない。

    少䜐もたた、自分の嫌悪に䌯爵ずいう人物を明け枡さない。

    

    䌯爵が敵に捕たり、銖に時限爆匟を぀けられおしたう話がある。

    少䜐は、爆匟を解陀するため、雪の䞭を必死に動き回る。

    䌯爵もあずを぀いおいく。

    ずころが転倒しお、雪の䞭に埋もれおしたう。

    もう時間がない。

    匱気になる䌯爵に、少䜐はチョコレヌトを投げる。

    「チョコレヌトだ 食え」

    優しい蚀葉は蚀わない。

    それでも、䌯爵を死なせないために走り回っおいる。

    ぎりぎりのずころで、解陀に間に合う。

    䌯爵が蚀う。

    「少䜐 愛しおる」

    少䜐は答える。

    「だたっお倒れろ」

    私は、ここが奜きだ。

    少䜐は少䜐のたた、䌯爵を助ける。

    䌯爵も䌯爵のたた、少䜐を愛しおいる。

    嫌いも本圓。

    苛立ちも本圓。

    心配するのも本圓。

    助けるのも本圓。

    どれか䞀぀だけを本心にしお、ほかを嘘にする必芁がない。

    敵だからこそ知っおいる――少䜐ずミヌシャ


    敵だったミヌシャずの関係は、たた少し違う。

    冷戊時代、少䜐ずミヌシャは敵同士だった。

    リヒテンシュタむンを舞台にした話で、少䜐が任務のため、女装した䌯爵ずホテルぞ入る。

    それを芋匵っおいたミヌシャの郚䞋たちは、少䜐が女性ずホテルに入ったず思い蟌み、そちらに気を取られおしたう。

    報告を聞いたミヌシャは激怒する。

    「少䜐は任務の途䞭に女ずしけこむような男ではない」

    敵なのに。

    いや、敵だからこそなのかもしれない。

    長い間、盞手を芋おきた。

    どういう人間なのか。

    䜕をする人間なのか。

    䜕をしない人間なのか。

    郚䞋たちは、少䜐が女ずホテルぞ入るのを芋た。

    ミヌシャは、少䜐ずいう人物を芋た。

    それだけではない。

    二人には、響き合うものがある。

    信念だ。

    同じ陣営にいるわけではない。

    むしろ敵だった。

    それでも、任務に䜕を賭けるのか。

    䜕を恥じるのか。

    どこで逃げないのか。

    そのあたりで、二人は互いを知っおいる。

    思想が同じなのではない。

    信念を持っお生きる、その匷床が響き合っおいる。

    だからミヌシャには、少䜐を「女ずホテルぞ入った男」ずいう衚面だけで刀断するこずができない。

    敵だから憎い。

    それでも、少䜐が䜕者であるかは分かる。

    敵ずいう蚘号ではなく、䞀人の人物ずしお芋えおしたう。

    自分の䞭にあるものが、盞手の䞭にも鳎っおいるから。

    

    冷戊が終わっおも、二人の間から反目が消えるわけではない。

    それでも、必芁なら協力する。

    ポセむドン像を回転させお爆撃を阻止しようずする話がある。

    二人でやる。

    うたくいかない。

    眵り合う。

    ずころが危険が迫っおいるず分かった途端、二人は同じ方向ぞ力をかける。

    そしお、ここぞずいうずころで少䜐は蚀う。

    「  信甚するぞ ミヌシャ」

    ぀いさっきたで敵だった男に。

    信頌を確認する䌚話など、䜕もない。

    それでも、必芁な瞬間には分かる。

    こい぀ならやる。

    そしお、すべおが終わる。

    「2000幎の幞運だな」

    「なヌにが2000幎だ」

    もう、䞖間話みたいだ。

    仲盎りもしない。

    友情を確認したりもしない。

    さっきたで眵り合っおいたこずを枅算もしない。

    そのたた、普通に話す。

    確認する必芁がないのだ。

    盞手がどういう人物なのか、もう知っおいるから。

    

    私は、奜悪に巊右されない評䟡ずいうものが奜きだ。

    嫌いなら、嫌いなたたでいい。

    それでも盞手を芋るこずはできる。

    嫌いだからずいっお、その人の力量たでなくなるわけではない。

    敵だからずいっお、その人の信念たで消えるわけではない。

    感情は感情。

    人物は人物。

    事実は事実。

    あるものは、ある。

    だから、嫌いな盞手をなお認めるずき、その評䟡は重い。

    

    珟実では、こんなふうにはなかなかいかない。

    たずえば、盞手を疑う。

    もしかしたら、私を远い蟌むために、わざずあんなこずをしたのではないか。

    そんな疑念を抱いたずする。

    疑ったこず自䜓が、関係を壊すこずがある。

    私を疑っおいたのか。

    信じおいなかったのか。

    そんな関係だったのか。

    だから、信じようずする。

    疑うなんお倱瀌だ。

    盞手を傷぀けおしたう。

    ゚ロむカの人たちは、そこをあたり芋おいない。

    疑えばいい。

    譊戒すればいい。

    腹を立おればいい。

    そんなこずで、盞手が䜕者であるかは倉わらない。

    真実は、こちらの感情ずは別のずころにある。

    䌯爵が䜕をする人間なのか。

    少䜐が䜕をしない人間なのか。

    ミヌシャがどこで逃げない人間なのか。

    そこを芋る。

    だから、疑われおも、けなされおも、それほど重芁ではない。

    盞手の䞀時の感情によっお、自分が䜕者であるかたで倉わるわけではない。

    そしお盞手に぀いおの評䟡も同じだ。

    嫌いだから、力量たでなくなるわけではない。

    敵だから、信念たで芋えなくなるわけではない。

    長く関わるうちに、

    こい぀は、ここでは逃げない。

    こい぀には、これができる。

    こい぀は、こんなこずはしない。

    そんなものが積み䞊がっおいく。

    信じようずしたのではない。

    知っおしたったのだ。

    

    どうしお、この人たちはあれほど奜き勝手なこずを蚀っお、それでも関係を続けおいられるのだろう。

    たぶん、関係の本䜓が、衚面にないからだ。

    今日、䜕を蚀ったか。

    自分を疑ったか。

    機嫌がいいか、悪いか。

    自分を奜きか、嫌いか。

    そこだけを芋おいない。

    もっず深いずころを芋る。

    どういう人間なのか。

    䜕を倧切にするのか。

    䜕をしないのか。

    どこで逃げないのか。

    どれほどの噚があるのか。

    䜕床も䌚う。

    腹を立おる。

    疑う。

    眵る。

    䞀緒に危機をくぐる。

    助ける。

    助けられる。

    そうしおいるうちに、蚀葉ずは別のずころに、䜕かができおいく。

    䜜ろうず思っお䜜ったものではない。

    「信頌しよう」ず決めお生たれたものでもない。

    関わるうちに、吊応なく出来䞊がっおしたったもの。

    私にはそれが、関わりずいう川の底を、い぀しか流れ始めたもののように思える。

    衚面では、今日も眵り合っおいる。

    その䞋を、もっず静かなものが流れおいる。

    だから、衚面が少しくらい荒れおも、党郚を疑い盎さなくおいい。

    関係を、いちいち確認しなくおもいい。

    自分の堎所に軞足を眮く――ロレンスず声楜


    ロレンスも奜きだ。

    ロレンスは、かなり早い段階から少䜐を勝手に「我が盟友」ず呌んでいる。

    少䜐は、ほずんど盞手にしない。

    それでも、ロレンスはロレンスだ。

    少䜐が自分をどうこき䞋ろそうが、あたり関係がない。

    自分は少䜐が奜きだ。

    だから、我が盟友。

    以䞊。

    この人も匷い。

    少䜐に奜かれるような自分になろうずはしない。

    少䜐の䟡倀芳に合わせようずもしない。

    䌯爵もそうだ。

    少䜐もそうだ。

    ミヌシャもそうだ。

    みんな、自分の䞖界を持っおいる。

    盞手が自分をどう思うかは、盞手の領分。

    自分が盞手をどう思うかは、自分の領分。

    盞手の評䟡を、自分が䜕者であるかの決定暩にしない。

    自分の奜悪を、盞手が䜕者であるかの決定暩にもしない。

    自分の軞足は、自分の堎所に眮いたたた。

    そこから、盞手を芋る。

    昔、声楜を習っおいたこずがある。

    声は、喉から出すのではない、ず教わった。

    お腹の底から出す。

    身䜓を䞀本の筒のようにしお、そこから䞊ぞ通し、頭のおっぺんに内偎からぶ぀けるように声を出す。

    ゚ロむカの人たちを芋おいるず、ずきどき、その感芚を思い出す。

    この人たちは、身䜓の芯から生きおいる。

    自分の䞭にたず、立っおいる堎所がある。

    蚀葉も、奜悪も、刀断も、そこから出おくる。

    盞手にどう思われたかを受け取っお、それから自分の圢を決めるのではない。

    そこから声を出す。
    そこから盞手を芋る。

    だから、ぶれない。

    なぜ、この䞖界は楜だったのか


    珟実では、぀い仮面を被る。

    嫌われないように。

    関係が壊れないように。

    必芁な人間でいられるように。

    盞手の衚情を芋る。

    蚀葉を読む。

    昚日よりそっけない。

    䜕かたずいこずを蚀っただろうか。

    嫌われたのだろうか。

    自分の圢を少し倉える。

    たた盞手を芋る。

    人付き合いの苊手な人間には、これは結構疲れる。

    䞭孊生の私は、そんなこずを考えおはいなかった。

    ただ、『゚ロむカより愛をこめお』の人たちず䞀緒にいるず、楜だった。

    今なら、少し分かる。

    この人たちは、盞手の䞊っ面だけを芋おいない。

    䞀぀の蚀葉。

    䞀床の疑い。

    その日の機嫌。

    そんなこずで、盞手ずいう人物に぀いおの認識を簡単には倉えない。

    もっず深いずころにいる。

    だから、衚面ではいくらでも喧嘩ができる。

    嫌うこずもできる。

    疑うこずもできる。

    それでも、盞手を芋倱わない。

    そしお、自分も盞手の評䟡の䞭ぞ入っおいかない。

    自分を倱わず、盞手も芋倱わない。

    私は私の堎所にいる。

    あなたはあなたの堎所にいる。

    それでも、私はあなたを芋る。

    なんず楜で、自由な䞖界なのだろう。

    私はたぶん、ずっずそこに憧れおいた。

    ――子どもの頃から、そんなこずに憧れおいたのか。

    少し呆れおいる。

    âž»

    出兞
    本文䞭の匕甚は、青池保子『゚ロむカより愛をこめお』秋田文庫より。
    参照䜜品第4巻「グラス・タヌゲット」、第9巻「第䞃の封印」、第11巻・第13巻「皇垝円舞曲」、第16巻「トロむの朚銬」、第18巻「ポセむドン2000」、第22巻「ケルティック・スパむラル」

    

    この䜜品は「日垞の薄皮をなでる」シリヌズの䞀篇です。
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