
洗面所トークができたなら
雑談が苦手だ。
職場の洗面所トーク。
マンション前の立ち話。
短くて、当たり障りのない会話。
適度な共感。
綺麗な着地。
それが、うまくできない。
頭の中が、じんわり汗をかく。
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子供たちが広場で遊んでいる。
私は、少し高価なチョコを持って行った。
ママさんや子供たちに配る。
もしよければ。
いいんですよ。
たまたまですから。
受け取ったママさんの中には、少し居心地悪そうな顔をする人もいた。
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時が経った。
あるお茶会だった。
話題は海外生活のこと。
帰国したばかりのママが、日本での暮らしについて話していた。
娘が中学校の体育館であぐらをかいていたら注意されたこと。
寒い日に長袖を着て行ったら、規則違反だと言われたこと。
個人の感覚の違いなのに。
少しの怒りと戸惑いが混じっていた。
なるほど、と流れていきそうになった。
そのとき、ひとりのママが言った。
それは、アイデンティティの問題だ。
マスの中に合わせるのではなく、違和感を言えることが大切だ。
個人を尊重する雰囲気の高校があるといいですね。
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気づけば、私は普通に話していた。
次に何を言えばいいのか、探していなかった。
テーマのある会話では、言葉を探し回らなくていいらしい。
言葉が、その場に自然に置かれていった。
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昔の自分。
木の葉のように、風の中でくるくる回っていた。
それでも、
洗面所トークが軽やかにできる人生も、少しだけ羨ましい。
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この作品は「日常の薄皮をなでる」シリーズの一篇です。
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