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洗面所トークができたなら

    雑談が苦手だ。

    職場の洗面所トーク。
    マンション前の立ち話。

    短くて、当たり障りのない会話。

    適度な共感。
    綺麗な着地。

    それが、うまくできない。

    頭の中が、じんわり汗をかく。

    ⸻

    子供たちが広場で遊んでいる。

    私は、少し高価なチョコを持って行った。

    ママさんや子供たちに配る。

    もしよければ。

    いいんですよ。

    たまたまですから。

    受け取ったママさんの中には、少し居心地悪そうな顔をする人もいた。

    ⸻

    時が経った。

    あるお茶会だった。

    話題は海外生活のこと。

    帰国したばかりのママが、日本での暮らしについて話していた。

    娘が中学校の体育館であぐらをかいていたら注意されたこと。
    寒い日に長袖を着て行ったら、規則違反だと言われたこと。

    個人の感覚の違いなのに。

    少しの怒りと戸惑いが混じっていた。

    なるほど、と流れていきそうになった。

    そのとき、ひとりのママが言った。

    それは、アイデンティティの問題だ。

    マスの中に合わせるのではなく、違和感を言えることが大切だ。

    個人を尊重する雰囲気の高校があるといいですね。

    ⸻

    気づけば、私は普通に話していた。

    次に何を言えばいいのか、探していなかった。

    テーマのある会話では、言葉を探し回らなくていいらしい。

    言葉が、その場に自然に置かれていった。

    ⸻

    昔の自分。

    木の葉のように、風の中でくるくる回っていた。

     

    それでも、

    洗面所トークが軽やかにできる人生も、少しだけ羨ましい。

    *

    この作品は「日常の薄皮をなでる」シリーズの一篇です。
    他の作品もよろしければ。



     
     
    日常の薄皮をなでるように。 どう生きれば、自分の人生を生きたと言えるのか。 そんなことを考えています。

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