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半歩|音が遅れて聞こえた日

    ある日、音が遅れて聞こえるようになった。

    気づいていたはずだった。


    私は、何を追いかけていたのだろう。

    評価がなければ、ここにいてはいけない気がしていた。

    貢献することで、生存を許されている。

    そう思っていた。

    歪んでいると、知っていた。

    やれる限りのことをやった。

    身体にサインは出ていたが、構っていられなかった。

    仕事をして、仕事をして、結果を出した。

    流れに乗っていた。

    気力が勝負だと、なぜか思っていた。

    止まらなかった。

    手を伸ばした。


    ぶつん、と
    何かが切れた音がした。

    頭の中が真空になる。

    音が遅れて聞こえる。

    言葉に意味がない。

    周りが、薄く見える。

    人も、物も。


    外界から遮断されたかった。

    深い海の底で、じっとしているような感覚。

    電話の声は、ノイズでしかない。


    面接を受けた。

    話が噛み合わない。

    私は別の場所にいる。

    向こうは、同じ場所にいるつもりでいる。

    私の言葉は、向こうの世界の言葉に、引き直されていく。

    「分かりますよ」と言われる。

    その先には、同じ場所へ戻るための道が、用意されている。

    行けるはずがない。

    向こうの笑顔。
    誠実そうな目。

    それを、画面越しに見ているようだった。

    時間は続いているのに、連続していない。

    裂け目に触れたように、一瞬で、別の場所にいた。

    ——このままでは、
    どんなに成功しても、自分の人生に納得はできない。


    二十年会っていなかった友人に、会った。

    半歩、
    手を差し出す。

    半歩、
    返ってくる。

    驚くほど、自然に話せた。

    楽しかった。

    その「楽しい」が、少しだけ新しかった。

    何も考えていなかった。

    ただ、会話が続いていた。

    二十年ぶりの友人は、ただ、そこにいた。

    焦りはない。

    手の届くものだけを、確かめている。



     
     
    日常の薄皮をなでるように。 どう生きれば、自分の人生を生きたと言えるのか。 そんなことを考えています。

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