
【薄皮メモ】こだわりと偏愛を、そっと差し出す ──雨の日の茶房と、猫と梟
雨の日。
朝のうちから病院に行った。このまま帰るのは、つまらない。よし、冒険しよう。
電車に乗る。ターミナル駅に着く。
地下を歩き、エレベーターに乗って、ある茶房に入る。
窓際の1人席に落ち着く。木の格子窓の向こうには、ガラス張りのビルが光を反射している。眼下には傘をさした人たちが斜めに行き交う。
白と琥珀色の店内。黄色い灯り。小さく流れるピアノジャズの調べ。
注文してから、席を立って書棚を見て回る。
店主の選んだ本たちが、ブックカバーに身を包んで並んでいる。この本を薦める言葉が書かれたカードがついている。
何か、特別な意味があるように見える。
……読みたい。けれど、こんなにたくさんは読めない。
本棚に沿って歩きながら、さらりと見る。
――私の中に留まってくれる本はいるだろうか。
席に戻ると、コーヒーが来ていた。
コーヒーを飲んでぼーっとする。
紙のコースターや、そこかしこに、店の代表のような梟がいた。
ふと、目が合う。
「私はこれが好きなんです。よかったら、あなたもどうぞ」
私の周りに、少しずつ空気が広がっていく。その中で、梟とぼんやりして過ごす。
少し前に、ある個展に行ったことを思い出す。
作家先生が在廊していた。
というか、在廊日をめがけて行ったのだ。
猫と梟が縁側に腰掛けてスイカをかじっている。風鈴が、風に揺れている。チリリン。
通りすがりにふと目を引かれた。
いいなぁ。私もこの縁側に混ざりたい。
作家先生にお目にかかれば、何かが近づいてくるような気がした。
版画を一つずつ見る。そこにあるのは、一枚の版画では終わらなかった。猫たちの人生、いや、にゃん生。気だるげな物思い。
作家先生は、何も言わずそばにいる梟について話してくれた。
「ここに置いておきますね」
……そんな声が聞こえるような気がした。
茶房を出て、デパートにある大きな文具店に行く。雰囲気のある珍しい文房具が好きなのだ。
売り場の広さに圧倒される。ここで揃わないものは、まずあるまい、と思わせる佇まいだった。
「紙?あります。ペン?当然。世界中から揃えました。何か?」
実力者ならではのセリフが聞こえる気がする。
「俺すげえだろ、こんなにあるんだぜ」
誰かに頼りたくなるような、心細いときには、ここに来るかもしれない。
今、私のベッドの脇の壁には、白木の額縁の中の猫と梟がいる。
猫は気だるげにカウンターに片頬をぐにゃりと乗せて、ぼんやりと視線を彷徨わせている。
隣の梟は、つまみをつっつきながら、大きな目をじっと見開いて、顔と体を少し猫の方に傾けている。
梟は、何も言わない。
低いジャズの音が聞こえてくる気がする。
……私のそばにも、いてほしい。