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その時、歎史が止たった華のアむドルずチキンなオダゞたちのゞグザグ飛行『オダゞの心に灯った小さな火』

【1分でわかるあらすじ】
普通の䌚瀟員だった僕は、地味なおじさん二人組のナニット「藀岡藀巻」の掻動に巻き蟌たれる。オダゞの劄想から生たれたデュ゚ット曲は、奇跡的にトップアむドルずのコラボが決定。ヒット曲の切笊を手にしたかず思いきや、圌らは「テレビに出たら家族にバレる」ずいうたさかの理由で、党プロモヌションを拒吊 必死に逃げ回るおじさん、神察応で乗り切るアむドル。

それを間近で目撃する僕。普通のドラマのセオリヌ右肩䞊がりを根底から芆す、事実にしか成し埗ない『逆ゞグザグ飛行』のお話。
これは、埌にゞブリ映画『厖の䞊のポニョ』で、本人の意思ずは裏腹に囜民的歌手になっおしたうおじさんたちの、愛おしきチキンパンク前日譚です。




プロロヌグ

䞖の䞭には、面癜いのに知られおない話がたくさんある。これはそんな話のひず぀だ。

「藀岡藀巻」 ず蚀ったずころで、ピンずこないかもしれない。でも、「ぜヌにょぜにょ♪」ずゞブリ映画『厖の䞊のポニョ』の䞻題歌を歌っおいた可愛らしい女の子の埌ろにいた目立たないおじさん二人組ずいえば、日前の倕食を思い出すみたいに、がんやりず浮かぶ方もおられるず思う。

この話は、「藀岡藀巻」がポニョを歌う前に、圓時のトップアむドルだった里田たいちゃんず『オダゞの心に灯った小さな火』ずいうデュ゚ット゜ングを出しおいたお話です。話題性もあっお、カラオケにも入っおいるのに、ほずんど知られるこずがなかったこの歌。蓋を開ければ、誰もがそりゃそうだよずうなずきたくなるノンフィクションの物語です。


幎月、芳客でいっぱいになっおいる枋谷のラむブハりス「クアトロ」。曲が終わっお拍手を济びるステヌゞの䞭倮には、バンドを埓えた、スヌツ姿の人の地味な䞭幎オダゞが、ステヌゞラむトに照らされおいた。オダゞの䞀人が、マむクを握っおいる。

「では次の曲は『オダゞの心に灯った小さな火』ずいう歌です。里田たいちゃんずのデュ゚ットなので、圌女を倧きな拍手でお迎えください。では、里田たいちゃん」

䌚堎からアむドルを迎える倧きな拍手が起こった。


第䞀章 藀岡藀巻に巻き蟌たれる

僕はごくふ぀うの䌚瀟員だ。だけど、クラブ掻動でもするように、「藀岡藀巻」の二人ず毎月のように顔をあわせおいる。

きっかけは、なんでもないこずだった。その昔、ヘンな攟送犁止の歌ばかりを歌っおいた「たりちゃんズ」ずいう人組のバンドがあったんだ。今ならきっず、コンプラむアンスの方が逃げ出しおる。䜕しろデビュヌ曲のタむトルが『ブスにはブスの生き方がある』だからね。

䞖間では「䞋品だ」「ひどい歌だ」ず笑われおいたコミックバンドだったけど、僕は、りケればいいずいう突き抜けた面癜さがパンクのレベルにたで達した本物だず思っおいたから、そのこずをブログに曞いたんだよ。バンドが解散しおから、もう随分ず経っおいた頃のこずだった。そもそも僕が圌らを知ったのも解散しおからだしね。

そしたら元メンバヌの藀岡さんから「ブログを読みたした。はじめお耒められたした」っおメヌルをもらったんだ。もちろん、ホントに本物なのかなっお半信半疑だった。だっお、そんな人いる

で、すぐに顔をあわせるこずになった。堎所は、枋谷の路地裏にある倧衆居酒屋。怪しい人だったら、すぐ逃げられるようにず、店に入ったらたず非垞口を確認したよ。奥の座敷のテヌブルに藀岡さんず、同じく元メンバヌの藀巻さんがいた。そしお、いざ䌚っおみたらすぐにバカ話で盛り䞊がったんだ。それが幎の暮れのこず。

二人は小孊校からの同玚生で、藀岡さんは元倧手レコヌド䌚瀟の音楜プロデュヌサヌ、藀巻さんは倧手広告代理店ずいう裏方のプロ。いわゆる業界の人だから、なんか偉ぶっおるんだろうなっお勝手にむメヌゞしおた。でも、初めお䌚った時から二人にはそんなずころがたるでなくお、随分ず幎䞋の僕にも同玚生みたいに接しおくれた。

ケむ「業界のひずっお、もっず䞊から目線かず思っおたした」

藀巻「なんで でもさ、オレたちが代の頃、たりちゃんズをやっおた時は、呚囲の倧人たちがみんなすごく偉そうだったんだよね。䞊から目線で、ホントにむダな感じでさ。で、『あんな颚には絶察になるものか』っお思ったんだよ」

藀岡「そうそう そしたら、その気持ちが匷すぎお、逆にどんどん卑屈になっおっちゃったんだよね」

藀巻「逆の方向に行き過ぎたよ。なんにでも劥協するよ」

それはそれでどうなのっお思った。サラリヌマンの凊䞖術じゃん。どんな業界でもサラリヌマンは倉わらない。

藀巻「この前、”たりちゃんズ”を解散しおから、䜕十幎ぶりかではじめおラむブをやったんだよ。断っおたんだけど、ラむブハりスのオヌナヌに『どうしおもやっおほしい』っお蚀われおさ。で、藀岡ずふたりだったんだけど、やっおみたら、りケお楜しかったんだよね」

藀岡「オレたちも代になっお、仕事も萜ち着いおきたからね。今床、ふたりで、藀岡藀巻ずいうバンドを組もうず思うんだよ。だからブレむンになっおよ」

ブレむンなんお名前だけだ。それがなんなのかは未だによくわからない。でも、こんな感じで話が進んで、今に至っおいる。


第二章 なんだかヘンな人たち

藀岡藀巻が掻動を始めたのは幎。それからは毎週、人で麻垃十番の居酒屋に集たっおは、バカ話でゲラゲラず笑っおた。するず、そこでのバカ話をネタにしお、翌週には藀岡さんが新曲のデモを䜜っおくる。

業界は違えども、人ずも䌚瀟員だったから、そんな颚にしお、䞭幎サラリヌマンの情けなさや開き盎りをテヌマにした歌が、次々ず生たれおいった。わかりやすく蚀えば、ヘンな歌だ。

「この前さ、友達がこれみおよっお、情けない顔で携垯ガラケヌをみせるわけ。奥さんからのメヌルなんだけど、のぞいお芋たら”牛乳、サランラップ、海苔”っお3行あるだけなんだよ。『買っおきおね』ずの䞀蚀もないんだよね」

こんな䌚話から、翌週には『牛乳・トむレットペヌパヌ・海苔』ずいうデモができる。サランラップは商品名だから、玅癜に出られなくなるかもず、トむレットペヌパヌに倉えたずころなんおいじらしい。

「孊生時代の藀岡んちには、父芪があちこちにベタベタず人生蚓みたいなのを貌っおたんだよ。オダゞっお暙語ずか説教ずか奜きだよな」ず笑っおるず、翌週には父芪が息子に説教する『息子よ』のデモがあがっおくる。「キャバクラ嬢に本気になるオダゞっおなんだろうね」ず笑っおれば、そんなオダゞを䞻人公ずする『嚘よ』のデモがず、毎週のように曲が生たれおいった。

ちょうどこの頃、若い頃にバンドを組んでたオダゞたちが、䞭幎になっおたたバンドをはじめようかっおいう「オダゞバンドブヌム」の流れもあっおか、藀岡藀巻は少しず぀知られるようになっおきた。そしお、䞀幎埌には゜ニヌミュヌゞックからメゞャヌデビュヌするこずになったんだ。

ずはいえ、「藀岡藀巻」のレコヌド䌚瀟での立ち䜍眮はなんだかヘンだった。誰も構っおくれない感じずいうか、関わりたくない感じずいうか、攟っおおかれおる。でも、それは圓たり前のこず。だっお劙なオダゞバンドになんお近づきたくない。厄介なこずに巻き蟌たれないように、そっずしおおく。それがサラリヌマンの生存の知恵ずいうもの。僕が瀟員だったらそうする。

そんなわけで「藀岡藀巻」は、あたり構われるこずなく、自由に掻動をしおいた。そしお、僕はそんな圌らず行動を共にしお、䌁画のアむデアを出したり、幕間のコントを曞いたりしおた。

デビュヌするからには、アルバムが必芁だ。曲のストックは十分にあったから、すぐにファヌストアルバム『藀岡藀巻Ⅰ』の制䜜がはじたった。それにしおも初めお芋たレコヌディング颚景には驚いたな。

だっお想像しおたレコヌディングっおのは、スタゞオに入るず粟神統䞀的なものずか、発声緎習的なものずかがあっお、そこには「やる気がみなぎるぜ」みたいな空気が充満しおるもんだず思っおたからね。

だけど実際のレコヌディング颚景は党然違っおた。䟋えば『牛乳・サランラップ・海苔』のスタゞオはこんな感じだ。

藀岡さんがバンドメンバヌず準備したカラオケに、自分の歌パヌトを録音する。そこに䌚瀟垰りの藀巻さんがやっおくる。ちょろっず蚀葉を亀わすず、藀巻さんは鞄をそこらぞんの怅子に眮いお、䌚議宀にでも入るみたいに録音ブヌスに入る。藀岡さんはミキシングルヌムからトヌクバックで指瀺を出す。

藀岡「この歌は”歌う”っおいう感じじゃなくお、リズムもずらなくおいいから」
藀巻「この歌は誰みたいに歌えばいい」
藀岡「誰っお 君みたいにでいいよ」

藀岡さんはマむクをオフにしお「だいたい、”誰みたい”にっお指瀺しおもできないじゃん」ず、ボ゜っず぀ぶやく。

ミキシングを補䜐する女性スタッフが、「今日の録音スケゞュヌルは時間的には順調ですよね」ず藀岡さんに声をかける。

藀岡「だっお普通は、歌う人っお『今のは玍埗できないから、もう䞀回やらしおくれ』ずかっお蚀うものじゃん。藀巻くんは、早く終らせたいから絶察にそういうこずを蚀わないからね」

歌の最埌の方には「犬に吠えられお驚く」ずいう堎面がある。ヘッドフォンから流れる犬の吠え声にあわせお驚き声をあげる藀巻さん。歌の録音ずはうっおかわっお、小芝居になるず急に熱心になる。藀岡さんのディレクションも歌より厳しい。

藀岡「もっず地味に驚いお もっず情けない感じで」
藀巻「うわぁ」
藀岡「驚くタむミングがちょっず早いよ。あず曎に情けなく」

藀岡さんは、藀巻さんのモニタヌを切るずミキサヌに指瀺をだした。

藀岡「藀巻くんのヘッドフォンに、犬の音だけをすごくデカくしお流しおくれる 藀巻くんが本圓にびっくりするから」

藀岡さんは海千山千のディレクタヌだ。藀巻さんはうたくノセられお、あるいは怒られおボヌカルを録る。䞀方の藀巻さんはずいえば、ブヌスを出るず急に匕き締たった顔぀きになっお、出前のメニュヌを食い入るように芋おいた。

藀岡さんが少し埗意そうに語る。

「藀巻くんのボヌカルを録れるのはオレしかいないからね。だっお音皋がどこにいくかわからないんだもん。もうダメだず思ったら、突然、いい感じになったりするんだよ。で、よし、あずもう䞀回歌えば完璧だず思っお、もう䞀回歌っおもらうず、音皋がずんでもないずこにいっちゃっお。あぁ、さっきの人に戻っおきおほしいなぁず思っおも、もう二床ず垰っおきおくれないんだよね。それどころか違う人が出お来ちゃったりするし。その加枛を芋極めおディレクションできる人はオレしかいないよ」

なんなの、この人たち レコヌディングっお、こんなものなのかずずっず思っおたけど、こんなものなのは「藀岡藀巻」だけだった。


第䞉章 若い子に耒められお

幎月。アルバム「藀岡藀巻Ⅰ」が発売されおから半幎埌、セカンドアルバムの制䜜が決たった。そしお垂ヶ谷のCBS゜ニヌで打ち合わせを終えたあず、代の女性瀟員ず藀岡藀巻ず僕は、近くの居酒屋に足を運んだ。

居酒屋の座敷で若い嚘ずテヌブルを挟んだ藀岡藀巻の二人は、劙に嬉しそうだ。ビヌルを飲み亀わしお話も匟む。そこでたた女性が二人をくすぐるようなこずをいうわけさ。

女性「私、藀岡藀巻さんの倧ファンなんですよ」

藀岡「ほんずなの たたテキトヌにそんなこず蚀っちゃっお」

女性「ホントですよ。䞀床、お話したいず思っおたんです」

藀巻「もしかしお、オレたちのラむブに来おくれたの」

女性「いえ、ラむブには行っおないですけど。 今床、行きたいず思っおた
すけど」

藀巻「あっ、そうなの。じゃ、ずか買っおくれたんだ」

女性「いえ、買っおはないですけど。 䌚瀟のみんなで遊びに行ったずきに車で聎かせおくれたので」

藀巻「いいのいいの。気に入っおもらえれば嬉しいからね」

藀岡「ねえ、ちょっず質問なんだけどさ。䜕歳ぐらいたでだったら幎が離れおおも぀き合えるず思う」

女性「私、おじさん奜きなんですよ。幎配でもぜヌんぜん、倧䞈倫です」

藀岡「えぇ、ホント」

藀巻「ホントにマゞで」

女性「はい」

二人のオダゞが、目を茝かせおいる。それにしおも、なんずダラしない顔をするのか。衚情筋がぶらぶらしおる。

藀巻「オレ、なんかドキっずしちゃった」

藀岡「藀巻くんさぁ、露骚に嬉しそうな顔しおるけど、別にきみずお぀き合いしたいっお蚀っおるわけじゃないからね」

藀巻「あっ、そうか 。そうだよね。なんか今、小さな火がポッず灯った気がしちゃっお」

藀岡「マンガみたいに、こう心の䞭にポっず火が灯く感じね」

藀巻「そうそう それだよ」

二人のこがれるような笑顔。オレにはそんな顔をみせたこずはないぞ。圌らはこの䞀瞬の間に、どんな劄想を浮かべおいたのか。いや、絶察に知りたくはない。

藀岡「で、幎配っお、いく぀ぐらいたでだったら蚱容範囲なの」

女性「私は結構、広いですからね。代ぐらいたでなら党然平気ですよ」

藀岡藀巻「えっ 」

女性「ヘンですか」

代のオダゞたちから䞀瞬にしお笑顔が消えた。しょんがりしおる。おそらく月に向かう途䞭で爆発事故が起きたアポロ13号の乗組員たちも、その瞬間、このような衚情を浮かべたのではあるたいか。だがアポロ号の乗組員たちは決しお、くじけなかった。藀岡藀巻も、わずかな可胜性に賭けた。

藀岡「いや、あの、代ずかはどう」

女性「うちのお父さんが代なので、さすがにちょっず 」

藀岡藀巻を乗せたアポロ号は、宇宙の塵ずなっお虚空を挂う。

藀巻「なんか火が消えちゃったよ」

藀岡「䞀瞬で灯っお、䞀瞬で消えたよね」

女性「 」

藀岡「でもさ、オダゞっおのは勝手に劄想するよね。䌚瀟でも女子瀟員ず目が合っただけで、自分を奜きなんじゃないかずかさ」

藀巻「そうそう、劄想力だよね。オダゞは劄想で生きおるから」

藀岡「そういえば昔、友達ず”劄想オダゞが女の子が曞く日蚘を想像したら”っおいう遊びを、飲み屋ずかで話しおゲラゲラ笑っおた時期があったな。あれ、これでなんか䞀曲、䜜れるかも」

若い女性の䞀蚀でアップダりンするオダゞたち。だが、そこには歌のヒントがあった。そしお、藀岡さんの蚀葉どおり、この時の䌚話から、新たな楜曲が生たれるこずになる。そしお、これがこの物語の立ち䞊がりなんだ。


第四章 調子に乗っおデュ゚ット曲が誕生

それから玄週間埌、藀岡藀巻ず僕は、圌らのホヌムタりン倧森にいた。
人の毎週定䟋のミヌティングは、たいおいはフォヌク居酒屋『颚に吹かれお』で行われおいた。

ここはステヌゞがある居酒屋颚のラむブハりス。店の奥に楜噚が蚭眮されたステヌゞがあっお、客垭にはテヌブルが䞊んでいる。名から名ぐらいが収容できる店なんだ。

店のオヌナヌは初期のバンドメンバヌで、藀岡藀巻の䞭孊の先茩でもある。そんなわけで、店の定䌑日には、ミヌティングや緎習の堎ずしお借りおいる。先客がいるずきは、近くのカラオケボックスが打ち合わせ堎所になる。

䞉人でテヌブルを囲んで、猶ビヌルを飲みながらミヌティングがはじたった。たいおいの堎合は無駄話からはじたっお、藀巻さんずゲラゲラ笑っおるず、「おたえら、真面目に考えろ」ず藀岡さんに怒られる。

この日は、しばらくバカ話で笑ったずころで、藀岡さんがテヌブルにCDラゞカセを眮いた。

藀岡「この前の居酒屋の䌚話から、こんな歌を䜜ったんだよね。タむトルは『オダゞの心に灯った小さな火』っおいうんだけど、今回はムヌド歌謡にしおみた。歌のサビになるずころで、藀巻くんがオダゞの劄想日蚘を読むセリフが入る構成。セリフはただ䜜っおないから、藀巻くんが考えおよ。こういうの埗意でしょ」

藀巻「ムヌド歌謡かぁ。よくわかんないけど」

藀岡「オレだっお知らないよ。でも、ムヌド歌謡には䜜法みたいなのがあるみたいよ。そういうのを知らなくお、雰囲気だけで䜜ったから、ムヌド歌謡っぜさが足りない気がするけど。しかも、あたりに自然にメロディが出おきちゃったから、どっかに同じ歌があるんじゃないかっお䞍安でしょうがないんだよ。はじめからパクっおれば元歌がはっきりしおるから、そういう心配がなくおいいんだけど」

たしかにパクり元がはっきりしおれば、埮劙にメロディを倉えるこずができる。これが䜜曲の神髄ずいうものなのか。

スピヌカヌから、『オダゞの心に灯った小さな火』のデモが流れおきた。これは埌に「劄想バヌゞョン」ず呌ばれお、アルバムに収録されるものだ。完成版では曲間で藀巻さんが劄想日蚘を読む小芝居が入るけど、今はただBGMだ。

小芝居パヌトでは、課長を挔じる藀巻さんが、䌚瀟の若い女性に勝手に恋心を抱いお、自分に郜合よく曞いた劄想日蚘を感情豊かに読み䞊げる。「〇月〇日、たいの日蚘。今日、藀巻課長ず目があっちゃいたした 」などず、小芝居がはじたるず、誰もが「このバカオダゞが」ず笑っおしたう。

ケむ「この歌、面癜いですよ でも、これっおデュ゚ットにしおもいいような気がするけど」

藀岡「やっぱりそう思う オレもなんかそういう気がしおさ。実はデュ゚ットバヌゞョンも䞀応䜜っおみたんだよ。これもただ歌詞がテキトヌなんだけどね」

藀岡さんは、ごそごそずカバンから別のCDを取り出すず、ラゞカセにセットした。スピヌカヌから流れるのは、さっきず同じ曲だ。でも、小芝居郚分にメロディが぀いお、藀岡さんの倚重録音で男女の掛け合いをするデュ゚ットになっおいる。デュ゚ット曲でありながら、「女性が男性を最埌たで嫌がっおすれ違う」ずいう斬新な歌だ。

藀巻「わははヌ。これいいなぁ」

藀岡「最埌の郚分をどうたずめるか、ただ思い぀いおないんだけどさ」

ケむ「これ、いいですよ デュ゚ットなら、人気がある人ず歌えば䟿乗しお売れるじゃないですか コバンザメになれたすよ」

藀岡「そうなんだよ オレたちだけで売れるわけないんだからさ。もう他力本願でいくしかないだろ」

藀巻「そうだよね。じゃ、誰に歌っおもらおうか ムヌド歌謡だからテレサ・テンずかどう」

ケむ「もう、死んでたすけど。それに新入瀟員のむメヌゞじゃないけど」

藀岡「やっぱし、アむドルでしょ 盞手圹は、新入瀟員っおいう想定なんだからさ」

藀巻「アむドルかぁ。『モヌニング嚘。』のメンバヌみたいな」

ケむ「いいじゃないですか。でも、そんなツテずかあるの」

藀岡「藀巻さ、『モヌニング嚘。』の事務所に知り合いがいるから聞いおみおよ。ちゃんずデモを䜜るから」

盛り䞊がる藀岡藀巻。しかし、䞀䞖を颚靡したアむドルグルヌプにオダゞが曲を持ち蟌んで、盞手にされるんだろうか。だが、火が぀いたオダゞは止たらない。「知り合い」ずいうあいたいなツテだけで突撃しおいった。


第五章 デュ゚ット盞手が決たったよ

デュ゚ット゜ング『オダゞの心に灯った小さな火』を売り蟌む気になった藀岡藀巻。

売り蟌み甚にデモを甚意するなら曲は必芁だろうずいうこずで、あらたに『オゞサマっお倧奜き♪』ずいう歌も甚意した。こちらは女性のリヌドボヌカルに、オダゞが合いの手を入れるずいう構成だ。

そしお歌詞には、これたた䟋の居酒屋での䌚話が反映されおいた。぀たり居酒屋で亀わされた女性ずの䌚話から、『オダゞの心に灯った小さな火』の劄想版ずデュ゚ット版、そしお『オゞサマっお倧奜き♪』ずいう曲が生たれたこずになる。たたに若い女性ず䌚話が出来たからずいっお、どこたでその蚘憶を絞り尜くそうずいうのか  たるで焌き鳥の䞲を味がなくなるたでしゃぶっおるみたいだ。意地汚いぞ

藀巻さんは、できあがったデモをハロプロの事務所に持ち蟌んだ。いろんなツテがあるもんだなず感心したけど、孊生時代の先茩がいただけだった。

事務所から提案されたのは、バラ゚ティ番組 『クむズヘキサゎンⅡ 』でブレむク䞭の人気アむドル、里田たいちゃんずのデュ゚ットだった。もっずも藀岡藀巻はずいえば、圌女の名前を聞いた時、䞀瞬、誰だかわからずにキョトンずしおいたらしい。売れっ子だよ 倧人気だよ そこらのオダゞかよ

圓時の里田たいちゃんは『カントリヌ嚘。』のメンバヌだったけれど、グルヌプずしおの楜曲は幎以䞊もリリヌスされおいなかった。だから歌を歌いたいずいう思いがあったずいう。

ちなみに圌女は、「おバカタレント」ずいう圹回りだったけれど、実際はずおも頭の回転が早くお、现やかな気遣いの方だ。そしお、この歌の歌詞を完成させるために、藀岡さんから「オダゞのむダなずころを箇条曞きにしおおいお」ず蚀われお曞いた䞭から、「寒いギャグをいう」などの面癜いフレヌズが歌詞に取り入れられた。

レコヌディングでは藀岡さんが男性ボヌカルをずった。藀巻さんは仕事で参加しおいない。ちなみに里田たいちゃんのボヌカル録りでは、藀岡さんがディレクションをした。だから藀岡さんずたいちゃんは歌入れは別々だ。

぀いでにいえば、カップリングの『オゞサマっお倧奜き♪』は、埌ろで合いの手をいれおるのは藀岡藀巻のどちらでもなく、スタゞオに呌ばれたバンドメンバヌず僕だ。クレゞットは「里田たい with 藀岡藀巻」なのに、䞭身は「里田たい with 知らないおじさん」になっおる。ひどい。もちろん、たいちゃんずは別録りだ。

でもね、藀岡藀巻のために匁解しおおくず、二人は手抜きをしたわけじゃない。これは「オダゞなんお、みんなたいしお倉わらないよ」ずいうメッセヌゞなんだ。そしお自分のために匁解するなら、今のは党然、匁解になっおないけど、しょうがないじゃん。ほかにどう曞くのさ。ずにかく、無事にレコヌディングが終わった。


第六章 『オダゞの心に灯った小さな火』の初披露

『オダゞの心に灯った小さな火』の初披露は、ただCDが発売される前の幎月日。藀岡藀巻のSHIBUYA-AXワンマンラむブでのこずだった。

「SHIBUYA-AX」は、圓時枋谷にあった最倧収容人数1,700人の倧型ラむブハりスで、藀岡藀巻にずっおは倧きな䌚堎での初のワンマンラむブになる。念のために曞いおおくけど、最倧収容人数ず実際のお客さんの数は別だからね。

で、このラむブは、サブタむトルずしお「だから嫌だっお蚀ったのに 」ず぀いおたけれど、文蚀ずは裏腹に倧きな䌚堎っおこずで、お祭り気分で盛り䞊がっおた。だから海倖の人気アヌティストがよくやるように、ロビヌにステヌゞ衣装を展瀺するこずにしたんだ。ずはいっおも、藀岡藀巻にステヌゞ衣装なんおものはない。ステヌゞで着おるのは、普段から䌚瀟で着おいる普通のスヌツだ。

そこで、い぀も着おるスヌツをそれっぜくディスプレむしお、その前にこんなボヌドを立おるこずにした。

これが藀岡藀巻のステヌゞ衣装だ

本衣装は、藀岡藀巻のステヌゞ甚衣装です。圌らは、い぀でもアヌティストずしおの心構えを忘れるこずがないように、普段からステヌゞ衣装で生掻するこずを心がけおおり、普段甚のスヌツは䞀着も持っおおりたせん。

さらに調子にのっお、藀岡藀巻の「顔はめパネル」も䜜った。芳光地によくある䟋のや぀だ。顔の郚分に穎があいおる人物パネル。これをあえお少し小さめに䜜っお、パネルの前に、こんな案内を曞いたボヌドを眮いた。

あなたも藀岡藀巻になれたす
おむダでしょうが、ご自由に写真をお撮りください。

【お詫び】
本パネルは、藀岡藀巻の原寞倧で制䜜したしたが、できあがっおみたら、ほが原寞倧になっおたした。写真を撮られる方はパネルの埌ろに回っおから、少し離れおいただきたすず、ほどよい倧きさでパネルに収たるこずができたす。今埌、このようなこずがないように泚意したす。誠に申し蚳ありたせん。

ゲスト出挔するたいちゃんは、圓日のリハヌサルで、初めお藀岡藀巻ず䞀緒に歌うこずになる。だっおレコヌディングは別録りだったから。

䌚堎に到着したたいちゃんは、藀岡藀巻ずバンドメンバヌがいる楜屋に差し入れをもっおきおくれた。っおいうか、逆だよ、逆 ふ぀ヌはこっちが持っおいくの たいちゃんは売れっ子なんだから

ノックの音に続いお、たいちゃんが楜屋に入っおきたずきは驚いた。䞀瞬でアむドルのオヌラが充満しお、花びらが飛び散っおる感じ。それたでは終電を埅぀駅のホヌムみたいに淀んでた空気だったのに、䞀瞬で浄化されおる。オダゞたちは、綺麗な空気では生きられないから息苊しくなっおた。

そしおバンドメンバヌはずいえば、そんなたいちゃんに完党に気埌れしお、写真をせがむ勇気もなく、圌女が去った埌で、差し入れの写真をパシャパシャず撮っおいた。しかも接写しおる。それっお、ふ぀ヌに゚クレアの写真だからね。あずで芋たら、゚クレアのお芋合い写真みたいになっおるから。

たいちゃんずのリハヌサルがはじたるず、圌女はステヌゞに藀巻さんが出おきたこずに驚いおいた。

里田「えっ  レコヌディングでは藀岡さんが歌っおたのに、ラむブでは藀巻さんが歌うんですか」

藀巻「たぁたぁ、オダゞなんおみんな䞀緒だから」

藀巻さんが歌うこずになったのは、藀岡さんの垌望だ。藀岡さんは前にでるこずを劙に嫌がるんだよ。でもさ、そもそも藀岡藀巻だっお、二人しかいないんだから目立たないなんお無理なんだよ。䞊んでるんだからさ。それずも瞊に䞊ぶ぀もりなの

客垭はただ怅子が䞊べられる前の広々ずした状態だ。そんな䞭、ステヌゞの真ん前でセッティングの様子を芋おたら、藀巻さんに声をかけられた。

藀巻「ケむメむさ。この歌、歌っおるずきどうしようか」

そういえば、振り付けのこずなんお誰も考えおなかった。

ケむ「これは、オダゞが嫌われおる歌だから、普通のデュ゚ットずは逆がいいですよ。藀巻さんが近づくず、たいちゃんが逃げるこずにしたしょうよ。それでどう」

里田「ハむっ」

えっ なに なんで、たいちゃんがむむ返事をしおるの しかも、真剣な顔でこっちを芋おる。

ふず暪を芋るず、䌚堎のスタッフ達が呚囲をずり囲んでいる。挔出家かなんかず勘違いしおる。違う、違うっおば

こんな堎でスヌツを着おるのは、䌚瀟員の自分しかいない。それがどっかの偉い人に芋えおるらしい。もうね、今さら「オレ、ふ぀ヌのサラリヌマンなんですけど」なんお蚀える状況じゃないんだよ。

おたけに取材時間になったもんだから、蚘者たちが䌚堎にゟクゟクず入っおきた。圌らも呚囲を囲んでくる。逃げ道を完党に塞がれたんだ。

心臓がバクバクしおる。なんで、そこらぞんの䌚瀟員が䌚堎スタッフや蚘者たちに囲たれお、ステヌゞのアむドルず話しおるんだよ。ヘンすぎるだろ 誰か気づいおくれよ

ふず舞台袖を芋るず、藀岡さんがこっちをみお、声を出さずにゲラゲラず嬉しそうに笑っおいる。オレ、たぶん今、死にかけおる。寿呜がすごい勢いで枛っおる。早死にする。もう、成りきるしかないじゃん。 

「たいちゃんは、ここでもっず䞋手に寄っおください。藀巻さんが近づくず避ける感じで。どうせなら、舞台から䞀瞬芋えなくなる䜍眮たで思い切っお行っちゃいたしょう」、「いいですねぇ。玠晎らしいです」ず、倧げさなゞェスチャヌで挔出家のフリをした。本物の挔出家なんお芋たこずないけど、たぶんこんな感じ。

ステヌゞでは、勘違いしおるたいちゃんが、うなずいたり、いい返事を返しおくれる。さすがはプロフェッショナルだ。そしお、その埌ろでは舞台監督が腕組みしおりンりンずうなづいおる。心の䞭で、「お前の仕事だろが」ず毒づいた。

でもね、これだけはハッキリず蚀っおおきたい。「ピンチはチャンスだ」なんおこずを蚀う人がいるけど、それり゜だからね。そんな䜙裕ないから。「ピンチはピンチでしかない」からね もっずも、この時、究極に远い蟌たれたせいで、䌚瀟の䌚議でハッタリをかたしおもなんずも思わなくはなったけど。

やがお本番がはじたった。ただCDが発売される前だから、お客さんは誰もこの歌を聞いたこずがない。でも、歌いながら藀巻さんから逃げ回るたいちゃんに、䌚堎から倧きな笑いず拍手が起こった。

それにしおも、たさに旬のアむドルず藀岡藀巻のデュ゚ットが本圓に実珟するなんお。楜曲も面癜いし、これはもうアむドルに䟿乗しおヒットが玄束されたようなもの。ようやく藀岡藀巻がメゞャヌな存圚になる時が来たず思ったよ。


第䞃章 なんかヘンなこずを蚀い出した

SHIBUYA-AXでのワンマンラむブは、無事に『オダゞの心に灯った小さな火』の初披露も終えお倧盛況に終わった。もっずも半分ぐらいは、里田たいちゃん効果だず思う。

そしおラむブから䞀週間が過ぎた。藀岡さん、藀巻さんず新橋の居酒屋で顔を合わせるず、二人ずもなぜか浮かない顔をしおいる。いたっお盛り䞊がる時だよね。いったい䜕があったのさ

ケむ「もうすぐ、”オダゞ火”『オダゞの心に灯った小さな火』のCDが発売されたすよね 売れるかな」

藀岡「うん、たさか、ホントに採甚されるずはなぁ 」

藀岡さんの歯切れがどうにも悪い。藀巻さんもう぀むき加枛だ。

ケむ「どうしたの もっず嬉しそうにしおくださいよ。だっおヒットさせようぜっお、売り蟌みに行ったんでしょ 盛り䞊がっおたじゃないですか」

藀岡「それはそうなんだけどさ、ふ぀うは採甚されないでしょ。オレ達の䌁画が認められたのはすごく嬉しいけどさ」

ケむ「䜕いっおるんですか 旬のアむドルずのデュ゚ットなんですよ。CDもバンバン売れちゃったりしお。ずころで、この歌をテレビで歌う時は、藀岡さんず藀巻さんのどっちが歌うんですか」

藀岡「うヌん、それが問題なんだよね 」

藀巻「うちは絶察にムリだよ 雑誌やラむブならずもかく、デュ゚ットなんかでテレビに出たこずが家族にバレたら倧倉なこずになるよ。歌詞が芋぀かっお捚おられたこずもあるんだから。藀岡くんは」

藀岡「うちだっおテレビはダメだよ。近所ずか芪戚の目があるしさ。あっ、ケむメむが代わりに歌っお来およ」

ケむ「えっヌ オレだっおダメだよ。カタギのサラリヌマンなんだから。だいたい藀岡藀巻でさえないじゃん」

藀岡「でも、オレたちが出たっお、芋おる人は誰だかわからないんだからさ。オレたちである必芁はないんじゃない」

藀巻「そうだよ オレたちの代わりなんおいくらだっおいるんだから」

藀岡「だいたいさ、なんでオレたちが出なきゃいけないわけ 芋おる人だっお喜ばないし、オダゞなんおみんな䞀緒なんだから、誰が出たっおいいじゃないか」

ケむ「なに蚀っおるんですか」

藀巻「オレたちは、䜕もしなくおも黙っお売れおくれたら、ただそれだけでいいんだよ」

ケむ「じゃ、どうするんですか テレビの時は『里田たい with 藀岡藀巻代理』っお名前にしお、別の人に代理で歌っおもらうずか」

藀岡「誰かっお誰だよ 堀内孝雄ずか  やっおくれないだろうなぁ」

ケむ「圓たり前だよ 怒られるよ。あっ、だったらハロヌワヌクで募集したらどうかね 職皮を『藀岡藀巻』ずかにしお」

藀巻「ダメに決たっおるだろ 藀岡藀巻になるくらいなら、ちゃんず就職するよ だいたい絊料も出ないじゃん」

藀岡「お面を぀けお、誰かが歌うずかどうかな」

ケむ「なんか猛烈に曖昧すぎたせん じゃ、テレビでは藀岡藀巻だけにしおもらうずかは」

藀岡「ムリ それじゃ、䌚堎にいる人はたいちゃんしか芋えないじゃん。どうすんの」

どうすんのじゃないよ 出ろよ このオダゞたちずきたら 。なんで今になっお家族バレがずか蚀っおるのさ。この前たでアむドルに䟿乗しお売れるんだっおノリノリだったじゃん。若気の至りずは蚀わせないぞ。オダゞなんだからな

それにしおも盲点だった。藀岡藀巻には「䞖間には知られたいけど、家族には知られたくない」ずいう臎呜的な匱点があったんだった。トム・クルヌズが必死で䞖界を守ったように、藀岡藀巻は家庭内での自分の居堎所を必死で守っおた。

そういえば藀巻さんなんお、ラむブの時には、家族にバレないように早朝にこっそりずギタヌを玄関の倖に出しおた。さらには䌚瀟にバレないように䌚瀟近くの喫茶店にギタヌを眮いおから出勀する涙ぐたしいこずをしおた。これはもうパンクだろ。匱虫なチキンパンクじゃん。

それから䞀週間が過ぎた。い぀ものようにミヌティングで二人ず顔を合わせるず、なんだか少しホッずしたような空気がある。

ケむ「ずころで、テレビ出挔の件はどうなったんですか」

藀岡「あれは断ったよ。だっお家族にバレるからムリだし」

ケむ「えっ」

この人たちなんなの っおいうか、なんで断っおるの

ケむ「でも、CDは発売されるんでしょ」

藀岡「それはされるよ」

ケむ「だったら、CDゞャケットにでかでかず顔写真が茉るから、バレるんじゃないですか」

藀巻「そこは倧䞈倫。事務所にオレたちの写真は茉せなくおいいっお蚀ったんだけど、それはダメだっお蚀われおさ。でも、できるだけ小さくしおもらうこずになった。たいちゃんはちゃんず映っおるんだよ。でも、オレたちはたぶん刀別できない」

ケむ「えっ そんなに小さいの 刀別できないぐらい」

藀岡「できないんだよ」

ゞャケットに茉りたくないなんおアリなの レコヌド䌚瀟の担圓者も困っただろうな。きっず出たくないずいう藀岡藀巻をなだめすかしお、小さな写真で劥協したんだず思う。担圓者の気持ちを想像するだけで涙がこがれそうになる。担圓者じゃなくおよかった。

ケむ「あっ、でもさ。プロモヌションビデオは䜜るんだから。結局バレちゃうんじゃないの」

藀岡「それも倧䞈倫。プロモヌションビデオの出挔はお断りしたから」

ケむ「えっ お断り じゃあ、プロモヌションビデオは」

藀巻「たいちゃんが、ひずりで出挔するよ」

なんなのが過ぎるんだけど、この人たち。担圓者の気持ちを想像するず、蟞衚を代筆しおあげたくなる。藀岡藀巻に関わった時点で終わっおた。

䞀方の里田たいちゃんはずいえば、久しぶりのシングル発売に「ずおも嬉しかった。やっぱり歌が奜きだ。私の原点なんだ」ずむンタビュヌ蚘事に玠敵なコメントをしおいた。

旬のアむドルがこんなにいいコメントをしおるのに、なにやっおんだよ。デュ゚ットなんだから歌えよ、もう だいたいなんでデュ゚ット曲のプロモヌションビデオに、たいちゃんを䞀人で出挔させおるんだよ やる気はどこいった

そういえば、ラむブの垰りに新橋の居酒屋に寄ったら、二人ずもギタヌを忘れお店をでたこずがあったっけ。店員さんが本のギタヌを抱えお、路䞊を走っお远いかけおくれた。ほんずにもう 真面目にやんなさいよ

もっずも、埌で完成したプロモヌションビデオを芋たら、掟遣瀟員圹のキュヌトなたいちゃんが思いっきりフィヌチャヌされおいたから、これが正解なんだず思えたな。だっお、おじさんを芋たがる人なんおいないんだから。


第八章 クラむマックスのはずがグダグダに

『オダゞの心に灯った小さな火』は、幎月にリリヌスされた。
もちろん藀岡藀巻は家族バレを恐れお、䞀切のプロモヌション掻動を避けおいた。だから、せっかくたいちゃんが歌うこずを楜しみにしおいた新曲も、テレビで披露されるこずは䞀床もなかった。

っおいうかさ、それじゃ売れるわけないじゃん 党力で売れない方向にダッシュしおるよ。なんで事務所に売り蟌みに行ったんだよ たいちゃんの身にもなりなよ

結局、たいちゃんが、この歌を歌ったのは、藀岡藀巻のラむブにゲストずしお出挔した時だけだった。

それにしおもプロモヌションには出おこないくせに、自分たちのラむブの時だけは、家族にバレないし、華がほしいからずアむドルに来おもらう厚かたしさよ。これがオダゞずいうものなのか 藀岡藀巻は生たれ倉わっおも、眰ずしおオダゞのたただず思う。たいちゃんの代わりに蚀うけど、ひどいぞ あずレコヌド䌚瀟の担圓者の代わりに蚀うけど、蚱さない

幎月日、枋谷クアトロの藀岡藀巻ラむブに、たいちゃんがゲスト出挔した。CDが発売されおから、初めおのラむブになる。これはもう盛り䞊がりが玄束されおいるわけで、この物語のクラむマックスになる堎面だ。藀岡藀巻ずたいちゃんが倧喝采を济びお、芳客垭が拍手で地鳎りを起こすずころ のはずなんだけど。

藀岡藀巻のラむブはいい感じで進んでいた。そろそろ終盀に近づいおる。ここで里田たいちゃんをステヌゞに呌び入れお、『オダゞの心に灯った小さな火』を歌うずいう段取りの堎面で、それは起こった。

藀巻さんが、ステヌゞぞず里田たいちゃんを呌び蟌んだ。

藀巻「では次の曲は『オダゞの心に灯った小さな火』ずいう歌です。里田たいちゃんずのデュ゚ットなので、圌女を倧きな拍手でお迎えください。では、里田たいちゃん」

䌚堎からアむドルを迎える倧きな拍手が起こった。

しかし、間がおかしい。い぀たでたっおも、舞台袖からたいちゃんが出おくる気配がない。拍手の音がだんだんず疎らになっおきた。藀巻さんが倧声で叫んだ。

藀巻「あれっ たいちゃヌん。たいちゃヌん」

藀岡「逃げたんじゃないの」

あたりに䞍自然な間に、最初は挔出かず思っおみおいた客垭もざわ぀きはじめた。藀巻さんは、舞台袖たで芗き蟌みに行っお、たた倧声で叫んだ。

藀巻「たいちゃヌん」

やっぱりなんの反応もない。さすがにヘンだ。

藀巻「ちょっず地䞋の楜屋たで、たいちゃんを呌びにいきたす」

䌚堎に笑い声が響いた。これっお挔出じゃないんだけど。なんなんだ このグダグダは 藀巻さんがステヌゞから匕っ蟌むず、その間を藀岡さんがMCで堎を぀なぐ。やがお藀巻さんが䞀人で戻っおきた。

藀巻「たいちゃん、出るのむダだっお」

えっ 䜕が起こっおるの ステヌゞでは藀岡さんず藀巻さんがMCで時間を぀なぐ。普通なら、ふたりのオダゞが必死になっおず曞くずころだ。けれど、そんな感じはたったくない。この人たち、ピンチ慣れしおる。これたでもトラブルばかり起こしおきたのか、怒られ慣れおるよ。

考えおみればサラリヌマンは、い぀も誰かに怒られおる。係長になれば課長に怒られ、課長になれば郚長に怒られ、郚長になれば圹員に怒られる。藀岡藀巻が身に぀けた鈍感力は本物だ。それどころか、ふだん誰にも盞手にされおいないオダゞが、芳客ずいう逃げ堎のない聞き手を前に、嬉しそうにダラダラ話を続けおる。

芳客もいい加枛に痺れをきらした頃、ようやくステヌゞにたいちゃんの姿が珟れた。歌詞にあわせおベヌゞュの事務服をむメヌゞした衣装でアむドルが登堎するず、淀んでいた空気が䞀倉した。藀岡藀巻はその効果を最倧にするために空気を淀たせおいたのかもしれないず思えるほど。もちろん、そんなこずは絶察にないず断蚀する。

里田「すみたせん。遅くなりたした」

藀岡「垰ったんじゃないかず思っお心配したんだけど」

藀巻「どこが出番かっお蚀っおなかったんだよね。考えおみれば」

里田「そうなんですよ。どこたでもヒドいず思いたした。ホントは、もうちょっず埌の時間だったんですよ。分ぐらいあずっお蚀われおたんで」

藀巻「そうでしたっけ」

里田「はい。それでゆっくりしおたら 。ただ着替えおもいなくお」

藀巻「そうだったんだ」

里田「ただ倧䞈倫だなっお思っおたら、いきなり『お願いしたす』っお蚀われお。えぇヌみたいな。いそいで着替えたした」

藀巻「あっ、そうなの。ここからたいちゃヌんっお呌んでたんだけど。そりゃ時間を蚀わなきゃわかんないよね」

里田「もう、䜕から䜕たでかみ合わないなっお」

藀岡「ちょっずさ、この構図がおかしいよ。だっお超有名人ずふ぀ヌのおじさんの䌚話になっおるし」

確かにおかしい。なにこれ 藀巻さんの他人事感がすごい。

里田「でも、今日はここに来るずきに若い女の子たちがいっぱい䞊んでお、藀岡藀巻さんの出埅ちでスゎむなっお思っおたんですよ。オレたちはダメだみたいなこずをいっ぀も蚀うじゃないですか。だから実は人気があるんだっおスタッフさんに蚀ったら、あれは藀岡藀巻じゃなくお、向かい偎でやっおるの吉本のファンだっお」

藀岡「人気ないんですよ。打ち䞊げずかでもホントに誰もいないよ」

藀巻「ラむブが終わるずみんなクモの子を散らすようにいなくなっちゃう。あっ、指が぀っちゃった」

里田「倧䞈倫ですか さっきも䞀郚が終わっお戻っおきたら、すごく咳き蟌んでたしたよね」

藀巻「あれは『倏をもらったぜ』っおいう歌があっお。あの歌を歌うの苊しいんだよ」

『倏をもらったぜ』は、歌の終盀でこれでもかず転調を繰り返しお、本圓に声がでなくなるたで䌎奏を䞊げおいく。「歌えなくなる」をラむブする歌だ。

藀巻「それよりたいちゃんずの歌、歌詞カヌド芋ないで歌うっおいうのがちゃんずできるかなっお心配なんだけど」

里田「結構、基本のずころだず思うんですけど」

藀巻「歌詞、芚えられないんですよ。この前もテレビの収録で行ぐらいの歌詞が二人ずも芚えられなくお」

人気絶頂のアむドル、里田たいちゃんをラむブに呌んでおいおこれだもの。それにしおもたいちゃんのプロフェッショナルずしおの矜持がすごい。グダグダの空気を芋事に修正しおしたった。たさに倩䜿のようなアむドルだ。

藀巻「では、あらためお。里田たいちゃんず『オダゞの心に灯った小さな火』です」

むントロが流れ始めた。里田たいちゃんず藀巻さんがデュ゚ットしお、藀岡さんがコヌラスに入る。歌の途䞭で、藀巻さんがたいちゃんに近づくず、たいちゃんが䞀定距離でどんどん逃げおいく。今回はきっず本気で逃げおる。

舞台袖たでいっお隠れそうになるず客垭から楜しそうに笑いが起こる。これこそアむドルが持぀華の力だ。

それにしおも、この物語はなんなのだろう このあたりっお感動的な堎面になるずころなんじゃないの ふ぀うなら䞻人公が倢を掎むために䞀生けん呜に努力しお、ようやくチャンスを掎み、芋事に拍手喝采を济びおめでたしめでたしになるずころだよ。それなのにクラむマックス的なずころで、䞻圹の藀岡藀巻がどんどん脇圹みたいになっおる。

たぁいいや。ずにかく、たいちゃんは最高だった。もう物語の䞻人公はたいちゃんだ デュ゚ットなんお関係ない。たいちゃんだけでいいんだよ もし映像だったら、圌女だけをずっずアップだ 藀巻さんも藀岡さんも、ちっちゃいワむプ画面にちょこっず映っおればいいよ。

歌が終わるず、ひずきわ倧きな拍手が䌚堎に響いた。お客さんは皆、ニコニコずしお、枩かい空気が流れおいる。拍手に包たれお、たいちゃんは舞台袖ぞず姿を消した。CD発売埌の初ラむブは倧成功だった。プロモヌションはないけれど。

埌幎、この歌の話題になった時、藀岡藀巻の二人が「この歌、カラオケでもりケるず思うのに、なんで売れなかったんだろうね」 ずこがしたずきには、私は圌らの襟銖を掎んで「お前らのせいだろがヌ」ず、揺さぶりたい衝動に駆られたのでございたす。


゚ピロヌグ 神さたっお倧䞈倫なの

それにしおも、プロモヌションから逃げ回っおたオダゞたちが、半幎先には『厖の䞊のポニョ』を歌うこずになるんだから、䞖の䞭っおのはわからない っお、いい話颚に締めたいんだけど、これでホントにいいのか、䞖の䞭よ 神さた、ちゃんず芋おる ホントにこのひずたちでよかったの このひずたち、䞀歩螏み出しただけなんだよ。そのあず、足螏みしおたよ。

ちなみにポニョは、広告代理店でゞブリの担圓だった藀巻さんが、詊しに、のぞみちゃんず歌う”歌のぞたなお父さん圹”ずしお仮歌を歌わされたら、「これでいいんじゃない」っお採甚されちゃった。確かにプロの歌手なら、あんなに埮劙な音階を出せるはずがない。きっず神さたにも、グダグダな気分になる時があったんだず思う。

実は『厖の䞊のポニョ』のあず、今床こそはず再び、里田たいちゃんず藀岡藀巻のナニットで、『続・オダゞの心に灯った小さな火』がリリヌスされおいる。トップアむドルず玅癜歌手のデュ゚ットずいう話題性もあったのに、なぜ、これが殆ど知られるこずなく終わっおしたったのか。それはたた別のお話。

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