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ラゞオ劇台本『月光綺譚宵埅草』

    䜜カオルのAI工房、奥村薫
    Stand.fmの短ドラ祭2026短線ドラマの祭兞2025幎8月のために曞き起こした䜜品です。玄3550文字、15分ほど

    登堎人物

    • 語り

    • 女

    • 店番

    • 猫

    • 骚董屋店䞻

    • 男


    音声版

    Stand.FM 薫の぀ら぀ら語り:
    https://stand.fm/episodes/6a924a804125ba7af3304857 

    台本


    語り
    およそ人の䞖の想いのうちで、「埅぀」こずほど、儚(はかな)くも、いずおしいものは、ございたせん。宵闇を埅っお、ひそやかに花ひらく、マツペむグサ  人呌んで、宵埅草。
    埅おど暮らせど、来ぬ人を、それでもなお埅ち぀づける心が、この䞖には、確かにございたす。されど  埅ちわびた「い぀か」が、ふいに宵の岞蟺ぞ流れ着くこずも、あるのだずか。
    これは、叀い唄を探しあぐねた、ひずりの女(ひず)の、お話でございたす。

    〔倏の名残の倕暮れ。町のざわめき、ひぐらし、など〕

    女(ため息)倏も終わりだずいうのに、ただただ蒞したすね  。(颚鈎の音)嗚呌、良い颚。あら、あそこのお店、ただ開いおいるのかしらんもうあきらめおはいるのだけど  

    〔ドアあるいは扉を開ける音〕

    店番はい、いらっしゃいたせ 蓄音噚ですかい、それずも盀ですかい

    女(遠慮がちに)  あの、昔のレコヌドを探しおいるのですが。

    店番ぞい、どんな盀で

    女「宵埅草(よいたちぐさ)」ずいう唄の入った盀(ばん)を  。

    店番宵埅草。  で、だれが唄っおるのでも、いいんですかい

    女それが  よく芚えおいないのです  ただ、宵埅草が、衚面(おもお)ではなく  裏面(うら)に、入っおおりたすの。

    店番裏面(うら)ぁ   あそれならたしか、ビクタヌの赀盀。『波浮の枯はぶのみなず』の裏面(うら)が、宵埅草。もう、十幎も前の盀ですがねえ。  ほら、これ 。臙脂(えんじ)色に、蓄音噚を芗く、犬の絵の。

    女(じっず芋お、銖をふる) いいえ。犬の絵では、ありたせんでした。たしか  藍色のレッテルに、䞉日月の、王様(もんよう)で。

    店番藍に、䞉日月ぃ 聞かねえレッテルだなあ。  それに近頃は、こういう湿っぜい唄は、ずんず流行らなくなっちたっおね。

    女衚面(おもお)の曲は  ごめんなさい、芚えおおりたせんの。あの人は、い぀も、裏面(うら)ばかり、掛けたしたから。

    店番裏面(うら)の曲で探されちゃ、こっちはお手䞊げでさぁ。すいたせんねえ。

    女どうも、お手数を  

    語り女は、幟床目かの、ため息を぀きたした。

    女(ひずりごず)  やはり、ないわよね。  あれから、もう十幎。あの人ず聎いた、あのレコヌド。もう䞀床聞けば、あの時に戻れそうな気がするのに。

    猫(小さく)うにゃっ

    語りその時、足もずに、䞀匹の、黒い猫が。

    女あら  。どうしたの、こんなずころで。

    猫なあ。

    語り猫は、数歩歩いおは、振り返り、尻尟を぀いっず䞊げお、たるで、぀いおおいで、ず蚀わんばかり。䞍思議なこずもあるものね、ず、女は、誘われるように、その黒い背を、远っおゆきたした。埀来をあちらに曲がり、こちらに入ったりし぀぀、曲がっおはならぬ角を、ひず぀、ふた぀——

    〔喧隒が途絶える。ガス燈の、じい、ずいう音。虫の声〕

    語りい぀しか、人の気配も絶え、ひっそりず静たり返った路地裏の突き圓たりにたたずむ䞀軒の店が。叀い硝子戞がらすどの、すり硝子には、かすかに読める文字で、月光荘、ずありたした。

    女こんなずころに、お店   猫さん、ここに入れずいうの

    猫にゃぁ。

    〔硝子戞が、からり。柱時蚈の、ゆっくりした振り子の音〕

    店䞻いらっしゃい。

    女あの  

    猫(店䞻に向かっお)旊那、お客さたを案内いたしたしたぜ。(女に)ようこそ、おいでなさいやし。

    女えっ  いた、猫が  。

    店䞻ええ。うちの店では、猫も、口をききたすよ。た、猫又ですけどね。  お垰り、ハチ。よく、お連れしたね。

    猫ぞい。街で、すっかりあきらめた顔を、お芋掛けしたもんでね。  人っおのは、あきらめた顔をしおる時が、いちばん、探しおるもんでさ。

    店䞻(女ぞ、穏やかに) ん、あなたさたが探しおいるのは  宵埅草の、レコヌドでございたしょう。

    女  なぜ、それを。

    店䞻この店においでの方は、皆、䜕かを探しおおいでです。そしお、たいおいの探しものは  自然ず、この店に流れ着くのですよ。

    猫  旊那。あれ、ありやしたね。奥の、いっずう叀い棚に。

    店䞻ああ。小鉢(こばち)、持っおおいで。

    〔遠ざかる足音〕

    猫(遠くから)ええっず、どこだったけか  

    (間)

    猫そら。

    〔䞀枚のレコヌドが、こず、ず眮かれる〕

    店䞻はい、ありがず。(女に) これ、ですかねぇ。

    女(息を呑んで)ああ  藍色の、レッテル。䞉日月の、王様。  これ。これです。間違いない、この盀。  ずっず、ずっず、探しおいたした。

    店䞻せっかくだ、ここの蓄音機でかけおみたしょうか

    店䞻  針は、裏面(うら)ぞ。っずね。

    〔れンマむを巻く。盀を、おく。針を萜ずす、ぷ぀、ずいう音ずノむズ。〕

    語り叀い旋埋がゆらりゆらりず立ちのがりたす。䞃重(ななえ)は、ふっず目を閉じたした。埅ち続けおきた歳月が、針の先から、ほどけおゆくように。

    〔針が、぀、ず、溝を飛ぶ。雑音が流れる〕

    男(独り蚀、聞こえるか聞こえない皋床に)  ん、違うな。  「埅おど、暮らせど」  いや。  月が  うん  。
    〔ノむズの奥から、男の声〕

    女  あら

    男  宵埅草。  いい唄だ。あの女(ひず)は、この唄を聎くず、決たっお、切なそうな顔をする。  僕はあの顔が、月よりも、奜きだった。

    女(小さく、震えお)  亮二(りょうじ)、さん  

    男(ただ、独り蚀のように)  黙っお消えた僕を蚱しおおくれ。いや、あの女(ひず)のこずだ、ずうに、蚱しおくれおいるんだろう。蚱しお  そのうえで、ただ、埅っおいるのかもしれない。  そういう人なんだ。  だから、いけないんだ。嗚呌。

    男(ふっず距離が瞮たり、すぐ耳元で囁くように)  䞃重さん。  䞍思議だな。今倜は、君の息づかいが、聎こえる気がするよ。

    女  おりたすわ。ここに。  ずっず、埅っお、おりたしたわ。

    男(次第に語りかけるように)  埅おど暮らせど、来ぬ人を。  いい唄だ。けれどね、もう、君の唄じゃあ、ない。埅぀のは、もうおしたいだよ。  宵埅草はね、宵を埅っお咲く。けれど、咲いた花は、もう、埅たない。あずは、ただ自由に月の光を、济びるだけだ。  君も、そうするずいい。月の綺麗な晩には、僕の分たで、月を芋おおくれ。  君が、愛おしかった。この䞖の宵埅草を、すべお集めたずお、足りぬほどに。

    女あなた 

    女  ずるい人。そんな蚀葉、眮き土産にするなんお  。溢れそうになる涙をこらえ、かすかに埮笑みながら

    〔たた、宵埅草の旋埋に戻る〕
    店䞻
    (静かに)  那之実亮二(なのみ りょうじ)。粋な文士(せんせい)でしたよ。ただ、ちょいずこの䞖には、生きづらそうな人でしたね。

    女  なぜ、あの人の声が  。

    店䞻さぁお、それは。  ここに流れ着く品には、ずきおり、想いの柱(おり)が、沈んでおりたしおね。この盀には、こずのほか濃いのがしみ぀いおおりたしたね。

    猫ずっず掛けおた盀だ。  溝より深いずころに、想いが刻たれおたさぁ。

    女(静かに自分に問うように)  わたくし、結局䜕を探しお、䜕を埅っおいたんでしょうね。

    猫さあおねぇ。

    〔針の䞊がる音、柱時蚈〕

    店䞻(静かに)  お持ちに、なりたすその盀。

    女(溜息)ありがずうございたす  。でも、じゅうぶん、聎きたした。(少し埮笑んで)この盀は、ここに眮いおゆきたす。  あの人の声ごず、この店に、預けたすわ。

    語り埅おど暮らせど、来ぬ人を。  埅぀こずを唄った叀い盀が、たった今、䞃重に、「埅぀のはおしたい」ず、告げたのでございたす。

    〔間〕

    猫  お客さん。衚たで、送りやしょう。倜道は、猫が、いちばん目がききたさぁ。

    女ありがずう、ハチ。

    〔硝子戞が、からり。衚は、すっかり宵闇。遠く、鈎虫が鳎きはじめる〕

    店䞻(店の䞭で、ひずりご぀)  よかったね、亮二(りょうじ)さん。

    〔柱時蚈の音。かすかに宵埅草の口笛()〕

    語りあの䞖ず歀の䞖の、ちょうど境目。逢魔(おうた)が時の路地裏に、ふっず珟れる、骚董屋、月光荘。  あなたも、い぀か、䜕かを探しあぐねた倕べには ― 足元をごらんなさいたし。黒い猫が、すりよっおきおいるかもしれたせん。

    語り(すこし調子を倉えお) 今宵も、玠敵な埮笑みが、あなたず共にありたすように。

    了



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