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企業再生劇場から取引の暗闘へ 米国倒産最新事情

    ― FT記事 “The demise of the US bankruptcy lawyer” を読んで

    写真は、夕焼けを背景にした東京都心のスカイライン。日本とアメリカで企業再生の時代が大きく動いている。


    Financial Timesの"The demise of the US bankruptcy lawyer"(8月21日付)を読んで、胸の奥にざらついた感覚が残った。記事を読みながら、なぜ私はざらつきを覚えたのか。その理由はシンプルだ。

    いまの米国の企業再生は、裁判所という公開の場を経ずに水面下の取引で進められ、創業者やプライベートエクイティファンドなど一部の利害関係者だけが優遇されている。そしてその陰で、立場の弱い債権者は切り捨てられ、不利な立場に追いやられている。この構図そのものに、私は不穏な気配を感じた。

    かつて日本でも企業再生ブームがあった。ターンアラウンド・アーティストと呼ばれた弁護士や、ドラマ化されたハゲタカファンド――法廷という舞台に立つ人々が主役であり、そこには物語性があった。

    その頃のアメリカは1990年代、まさに9.11以前の世界。冷戦勝利で唯一の超大国となり、市場の力がすべてを良くすると信じられていた。民主党のクリントンでさえ「大きな政府の時代は終わった」と宣言し、小さな政府とグローバル化を掲げた。共和党・民主党を超えて市場原理主義が国を覆い、市場関係者もその風に乗って金融工学やITバブルに酔いしれた。理念より実利、取引の勝ち負けがすべてを決める――そんな空気の中で、日本も米国流の再生ノウハウを輸入した。

    思い出すのは80年代の映画『Wall Street』だ。強欲な投資家ゲッコーが「Greed is good」と叫び、父の世代の働き方を嘲笑した。製造業から金融取引への価値観の断絶。その延長に90年代の市場万能主義があり、そして今がある。

    記事によれば、破産法廷を経る再生は今や少数派。裁判所を避け、契約の抜け道を利用して資金を引き出す「社外再建(distressed exchange)」が全体の七割を占める。中古車販売のCarvanaはその象徴だ。資金難に陥った同社を救ったのは倒産専門弁護士ではなく、契約条項を読み解くファイナンス弁護士だった。創業家の株式は守られ、株価は急騰した。

    その姿は「企業再生のブラックジャック」のようだ。法廷では助からない患者を裏技で救う天才外科医。しかし守られるのは命ではなく、株主の持ち分である。しかも延命の代償は、他の債権者や従業員に押しつけられる。

    ここで守られるものが何か、私は考え込む。かつてのChapter 11なら株主は一度ゼロにされた。だが今は契約の抜け道を使い、一部債権者を味方につけることで、創業一族やPEファンドの持ち分だけが温存される。もちろん記事には書かれていないが、私は想像する。延命の数年間、彼らはできる限りの利益を確保していくのではないか。その後に破綻が訪れても、「もう回収済み」であれば問題はない。もし企業再生がスポンサーの収穫期にすり替わっているのだとしたら、それは再生ではなく「時間差の収奪」と呼ぶべきだろう。

    そのとき、ミシシッピ川の逸話を思い出した。火災に見舞われた船を、ある船長が命懸けで守り、延焼からフレンチクォーターを救った。彼の犠牲があったからこそ、歴史的な町並みは残った。その自己犠牲の物語と比べると、現代の企業再生スキームはあまりに対照的だ。守られるのは町でも人々の暮らしでもなく、創業家やファンドの株式だけなのである。

    時代は繰り返すのかもしれない。『Wall Street』のゲッコーが父の世代の産業を切り捨てたように、今のファイナンス弁護士は父の世代の倒産法廷を切り捨てている。形は違えど、前世代を否定し新しい強さを誇る構図は同じだ。ただ守られる対象は変わった。80年代は株価、90年代は市場の理念、そして今は創業家とPEファンドの持ち分。繰り返されるのは「倫理よりディールの勝利を優先する」構造なのだろう。

    企業再生はもはや法廷の劇場ではない。かつての9.11以前の楽観とは対照的に、契約条項と金融工学の暗闘が支配する。そこにはブラックジャック的な技術の光もあれば、インテリヤクザ的な影もある。そして、すべてを包むのはディール文化という時代の空気だ。――企業再生の物語は、金融を超えて、時代そのものを映す鏡なのではないか。

    あなたなら、この再生を“希望”と呼びますか?それとも“収奪”と呼びますか?

    #企業再生 #倒産 #ファイナンス #アメリカ社会 #歴史は繰り返す #エッセイエッセイ


     
     
     
    世界の出来事も、音楽も、身体も、 すべてはひとつの流れの中にある。 ジャズの名曲、翻訳編集、アレクサンダーテクニーク、 そして日々の思索を通して、 混沌の中にある「構造」と「響き」を言葉にしています。 編集者/ジャズシンガー・ベーシスト

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