
ショートエッセイ:特別な図鑑

子どものころ、図鑑が好きだった。
ヒマさえあれば、図画を見て過ごした。
(子どもは、だいたいヒマだ)
恐竜
魚類
哺乳類
鳥類
爬虫類
両生類
宇宙
そのなかでも、一番好きだったのは、
昆虫図鑑だった。
虫取りに行くときは、いつも小脇に抱えて行った。
(子どもにとっては、まあまあ、大荷物だ)
捕まえた、虫をその場で調べる。
そんな、時間がたまらなく好きだった。
ある日、
隣の家のむーちゃんちの裏の小川で、見たことのないトンボを見かける。
すぐに持っていた図鑑で調べる。
載っていない。
(こういうハプニングを待っていた)
むーちゃんと、あーでもないこーでもないと議論する。
結局、結論は出ず、解散となる。
(え?図鑑は?)
その日の夜、大雨が降った。
翌朝、私は、むーちゃんちの裏庭で、ずぶ濡れの図鑑を発見することになる。
ただでさえボロボロだったのに、
さらにへろへろになった、その図鑑を父は丁寧に修理してくれた。
その1年後、父は亡くなる。
昆虫図鑑は、まだ家にある。
おわり
▼ 父の手は、まだ残っている
▼ 幼い形に、未来を見る
▼ 共有されない記憶ほど、残る
