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Photo byhk_chiko56

老人は大食いを夢見る

    父と母は、大食い番組が好きだ。

    テレビの中で、若いタレントが巨大なトンカツにかぶりついている。

    「見て!」
    「あんな大きいトンカツ!」
    「ご飯五合だって!」
    「よくあんなに食べられるねぇ」

    ふたりは大喜びだ。

    しかもそのとき、ふたりは夕飯を食べ終えている。食後の果物も食べて、お茶も飲んで、もう十分お腹いっぱいのはずなのに、テレビの中で誰かがバクバク食べている姿を、食い入るように見ている。

    「すごいねぇ」
    「若いねぇ」
    「このペースならいけそうだな!」

    なんだかスポーツ観戦みたいだ。

    私は正直、大食い番組が苦手だ。
    何が楽しいのか、よくわからなかった。人が食べている姿を見て、そんなに喜べるものなのだろうか。不思議だった。でも最近、少しだけわかる気がしてきた。

    父も母も、昔ほどたくさんは食べられない。硬いものは少し苦手になった。脂っこいものも、前ほどは食べられない。好きなものを好きなだけ。
    若いころみたいにはいかない。だから、テレビの中の人に代わりに食べてもらっているのかもしれない。

    「おいしそうだねぇ」
    「すごいねぇ」
    と言いながら。

    戦後すぐに生まれた人たちにとって、
    お腹いっぱい食べることは、きっと特別なことだった。

    おいしいものをたくさん食べる。
    それは贅沢で、幸せで、夢みたいなことだった。だから今でも、山盛りのご飯を見て目を丸くして、「すごいねぇ」と笑う。その顔は、どこか子どもみたいだ。

    食べることが、うれしい。
    その気持ちは、ずっと変わらない。

    私は相変わらず、大食い番組の面白さはよくわからない。でも、隣で「おいしそうだねぇ」と笑っているふたりを見ていると、まあ、それも悪くないかと思う。

    テレビの中で誰かがバクバク食べて、
    それを見て老人が喜んでいる。
    なんだか平和な夜だ。

    今日のひとこと
    人の大食いを見て喜べるうちは、まだまだ元気。

     
     
     

    Kaori

     
     
    「老人と飯」食べることは生きること。喰って笑って、老いていく日々。 建築家・デザイナー。建築と食体験デザインの領域を横断し、「食べる」という行為を身体的体験として探究しています。現在は高齢の両親との生活の中で、食と老いをテーマに執筆中。

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