
CHANELのリボン
セピア色のピンナップが、壁で静かに時代を止めて。
そこに写っているのは、パリの街角でキュと振り向く、褪せたロングヘアの女性。短パンからすらりと伸びた小麦色の脚には、柔らかなローファー。
ここは森にある小さな家。
テーブルには、埃と共に積まれた古い昔の『ELLE』。風がはらりと頁をめくると、グラビアを覗き込む、中指ほどの背丈のアヒルの子が顔を出します。つぶらな瞳と赤いくちばし、その子の名はガー子。
「ガー子、おっきなリボンの付いたドレス着たい」
夜、主であるお姉ちゃまを見上げて、ガー子は言います。
小さなフライパンを片付ける手を止め、お姉ちゃまは宙を見ます(......めんどくさい)
2人の出会いは知り合いのお店でした。カゴ一杯のアヒルのお人形達から一等大きなくちばしの子を取り出し、お姉ちゃまはこの子、と決めたのでした。
翌日家を出て、裏の森の小道を行くガー子はレースのワンピース姿になっていました。胸元には、大きなリボンが揺れています。
大きなミミズさんや、クールなシデムシさんに「素敵だね」「イカすよ」と褒められ、ガー子はタラッタ〜もっと誰かに会いたくて進みます。
木々の間から覗く空は高く、白い紋白蝶が二匹、絡まるように飛んできました。
「みた? 今の」
「おっきなくちばし。飛び跳ねて、変な子」
クスクス笑い声が遠ざかります。ガー子は咄嗟に言葉が出なくて、立ち尽くし、まあるい頭が俯いていきました。
どう歩いたのか、見事な桜が佇んでいました。
「あらやだ暗い顔。どうしたのお嬢さん?」
「ガー子、変?蝶々さんに、くちばしがおっきいって笑われた」
「まっ。失礼な小娘ね。今度はたき落としてやりましょう」
桜はふふ、と笑って、花びらを翻し
「あなたのくちばしはとってもチャーミングで私は好きよ。そのレースの色は『エクリュ』。大きなリボンもシャネルみたいで素敵だわ」
「しゃねる?」
「そう。私もここにこうして根を張るずっと前、パリの本店へ行って、ドレスを誂えたものよ。懐かしいわ。……あなただってきっと素敵になる。個性を大切にね」
帰り道ガー子の目に、景色はくっきり鮮やかに見えました。
その夜、ガー子はお姉ちゃまに宣言しました。
「ガー子は将来、しゃねるを着て、レッドカーペットを歩く女優さんになるの!」
「はいはい、どうぞ」
お姉ちゃまがくちばしを軽くぎゅーとつまんで揶揄うと「ガー子もう寝る!」テシテシ足音高くベッドへ向かうガー子でした。
(テープで止めただけだけど、その生地はヴィンテージのシャネルだからね。昔パリの蚤の市で見つけたとっておきの)
ガー子が眠る部屋の片隅には、ひょろっとした少女を囲んだ家族写真。畳んだまま随分長くそこにある沢山のドレスと積まれた靴の箱。無数のステッカーで補強された大きなアルミのスーツケース。
壁のピンナップが、夜風にひらと揺れ
お姉ちゃまは頷いて、明かりを消しました。
------------
【おまけ】
ガー子ティーパーティーへ行くも?
創作現場より
kantan.編集部発
https://note.com/kantannara/n/nc447416bfb25