
遊星歯車日記 第三十一話 夜廻りと未来
これほど半被の似合う男はいないだろう。ジンさんの背中を追いかけながらそう思った。今夜は防災活動のために釜ヶ崎のまちを練り歩いている。
「マッチ一本火事の元」
西成区の北部は住宅が密集しているので、本当にマッチ一本が命取りとなる。命取りとなるのにタバコを吸いながら歩いている人が多いから困る。
栄食堂で夕方からひたすらにぎったおにぎりをボランティアさんたちが路上に寝泊まりしている人たちに配っている。
寝ていた人からすれば拍子木の音で起こされてたまったものではないかもしれない。しかし早朝になると彼らは移動するのでどこにいるのかが把握しづらくなる。だから夜廻りで食料を手渡すしかない。
わしは釜ヶ崎のまちを歩きながら考えた。
屋根のない生活を送る貧しい世界がある。
キングダムバーガーの界隈は中流の世界といえるだろう。
大手ビール会社に勤める大さんのような上流社会もある。
こんなにざっくりと3つにわけるのは失礼だと思うが、わしがこれらの3つの世界を少し行き来して思うのは、どの世界もまったくつながっていないと感じる。
上流社会の人から見ると「そんな場所から抜け出せよ」となる。一方でわしの目から見ると、上流社会で毎日働きっぱなしの大さんは幸せなのかどうかもわからない。
わしのこれからの役目は、分断されたこれらの世界を行き来し続けて、伝えてつないでいくことなのではなかろうか。
「いらん! 知らんやつが握った飯なんか食えるかっ!」
ボランティアさんが寝転がっているおじさんに罵声を浴びせられている声を聞いて思考が現実に戻った。現場に緊張感が走る。
転げ落ちたおにぎりを拾い、ラップをはずしながらジンさんは「めっちゃ美味いですよ!」とうまそうに食べて見せると、おじさんはおにぎりをふたつほどつかんで「うるさいから、あっち行け!」と手で追い払った。
その様子を見てジンさんはニヤリとした表情を見せ、次の場所へと向かっていった。ボランティアさんたちは愚痴を言い合いながら歩いていた。
ボランティアさんたちからすれば「うるさい、あっち行け!」は気分の悪い出来事だろう。しかしジンさんの反応は逆だった。おにぎりを受け取った様子を見て目的が達成したと感じたのだろう。
サッカー番組で元サッカー選手がVTRを見ながら解説するように、だれかがそれを語り部となって橋渡しする必要があるとわしは考える。
ボランティアで来ている人たちは真面目だ。彼らや彼女たちよりも、この現実をまったく知らない人に伝えないといけない。それは真面目に伝えていてはダメだ。エンタメにしないと彼らの目にはとまらない。
それはもしかしたら赤べっ子のような歌って踊る伝え方がいいのかもしれない。赤べっ子の活動を通じて東北の現状を知った人もいるだろう。
あるいはモロキューなどキャラクターを使った伝え方がいいのかもしれない。
わしは金もないし、頭も悪いのでそんな器用なことはできそうにない。
できそうにないので、わしの拙い日記をnoteにしたためていくとしよう。日記なのでこれは個人の感想だといいやすい。
工場長からプラネタリーギアという仕組みを教えてもらった。太陽歯車はマキさんや、ジンさん、北浜店長のことだろう。
その周りを、ノエルさんやわしのような小さな歯車がくるくるとまわる。
すると風車のゆっくりとした回転でも、発電機を回せる高速回転に変換できるらしい。
誰かがこの日記を見つけてくれたら、少しは状況が好転するかもしれない。
このまちで出会った人たちにどうにかお返しがしたい。
【おしまい】