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【Elsewhere】お茶はいかが?|Fancy a cup of tea?

    ルイボスティー

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    私は、論文を書いていた。その冬は、一日の殆どを机に向かって過ごしていた。文字通り、一日じゅう。集中力が途切れて、文献の同じ行を何度も目で辿るようになってはじめて、立ち上がって台所までゆき、自分のためにお茶を作る。

    濃く煮出したルイボスティー。陶製のティーポットにティーバッグと水を入れて、ごく弱く直火にかける。煮立たせないのが重要なので、そのままガス台の前に立ち、その炎をぼんやりと見ている。

    みぞれ混じりの雨が、窓ガラスを叩く音だけがしていた。ティーポットから立ち上る蒸気が、柔らかく私の身体を包む。私は、その熱い茶を慎重に魔法瓶フラスクに注ぎ、そっと一口含む。お茶にはほんのりヴァニラの香りがついていた。

    ティーポット

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    「アゼルバイジャン人みたいなことをするのね」
    直火にかけた私のティーポットを指して、ギュルナルは朗らかに言った。
    「絶対に煮立ててはだめよ」
    「うん、わかってる」
    私は彼女の隣に腰を下ろしながら言う。ふたりの腿がそっと触れる。

    私たちの小屋の外は、もう夜が降りていた。「秋の夜はつるべ落とし」そんな古い日本語の言いまわしが、ふと口をついた。
    「こんな秋の、宵闇があっという間にやってくるのを、私の国だとバケツが井戸に落ちるみたい、て言うのよ」
    「ふうん」
    彼女は特に興味もなさそうに相槌を打った。テーブルの上の蝋燭に、火を灯してゆく。一つづつ、丁寧な仕草で。

    うさぎの血

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    小さなティーポットから、濃い錆色の茶をグラスに半分ほど注いで、上から熱湯をなみなみと注ぐ。その途端に、ぱっと茶の色が鮮紅色に輝く。小さな梨型の、ガラスの器の中で。

    「よいお茶は、うさぎの血の色、と言うんだよ」
    私にグラスを手渡しながら、アイシェは微笑む。
    「熱っつい」
    グラスの縁ぎりぎりまで注がれた熱い茶が、私の指を焼いた。それでも、他の皆は一様に涼しい顔だ。その灼熱のグラスを、優美に指先で捧げ持っている。ひとくち、その熱い茶を口に含み、にこやかに談笑している。

    「トルコ人はね、お茶をたくさん飲むから、指の皮が厚くなるんだってば。」
    いたずらっぽい声で、彼女が私の耳元で言う。砂糖のひとかたまりを私は口に放り込んで、その赤い茶をそっと啜った。

    夏の終わり

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    夏は、唐突に終わった。風が吹いて、雨が降った。
    「今年の夏も終わりだねえ」
    バルコニー越しに驟雨を眺めながら、マリアは言った。
    「お茶、飲むでしょ?」
    「うん。」

    私は短く答えて、雨雲がちぎれて飛んでゆくのを、また飽かず眺めた。しばらく見ていると、また元の青い空が戻ってきたものの、それは以前とは違って見える。すべてが元通りというわけではない。

    マグカップをふたつ携えて、マリアが戻ってきた。ほかほかと湯気が上がるそのお茶を口に含むと、それはルイボスティーだった。シンプルな、なんのフレイバーもない、正真正銘のルイボスの香り。私が絶賛すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

    「ちゃんとアフリカから持ってきたのよ」

     
     
     
    三年毎に暮らす国を変えて生きるPerpetual Traveler。旧ソ連、コーカサス、アフリカを経て、現在はイスラエル。土地の文化や歴史の記憶を、人間の物語に編み直したい。紀行や日記という枠を溶かして、虚構と現実のあわいに生じる「覚えていた夢」みたいな物語に。

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