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Photo bymicho

「䞖界倱栌」――玺を着おグレヌの箱にいたあの頃


    教宀の隅でAdoを聎いおいた


    青かった頃の私は、䜕に噛み぀こうずしおいたのか、もう思い出せない。

    䞖界そのものだったのか。
    倧人だったのか。
    クラスメむトだったのか。
    それずも、誰より自分自身だったのか。

    昌䌑みになるず、教宀の隅でむダホンを耳に抌し蟌んだ。笑い声が飛び亀う教宀で、私だけが別の䞖界にいた。

    そこに流れおきたのが、Adoの歌だった。有線できになったからすぐにダりンロヌドしおずっずリピヌトした。䞭毒性があるのはわかっおいる。でもやめられない。

    怒りだった。叫びだった。嘆きだった。狂気だった。
    䞀芋諊めのように芋えお、匷烈なレゞスタンス。
    そしお、そのどれもが、生きおいるこずを確認するための声。いや、絶叫だった。

    圓時の私は歌詞の意味なんおどうでもよかったのだ。ただ、聞いたこずのない異色のメロディに倧衆ず同じく惹き぀けられた。そのうち、歌っおいるよりも歌詞の䞭に、䜕か倧きなものに胡麻化されおいる感じがわからないたた蚀語の組み合わせによっお、メッセヌゞ性があるこずが魅力なんだず感じた。でも、同時に嫌悪感もあった。自分が叫びたいこずを先にこんなにも真っすぐに歌える圌女がちょっず怖くもあった。「才胜」っお䞀蚀では片付けられない、なんだか運呜的なもの。熱狂的な興奮を起こさせるカリスマ性みたいなもの。
    そしお有り䜙る才胜があっおも、売れおからでも、きっず「この人も苊しいんだ」ず勝手に思い蟌み、その勘違いだけで十分救われおいた。

    今になっお振り返るず、私が聎いおいたのは歌ではなかったのかもしれない。誰にも届かなかったはずの、自分自身の心の声だった。誰にも届かなかったはずの、自分自身の心の声だった。

    教宀ずいう堎所は䞍思議だ。

    毎日同じ制服を着お、同じ授業を受け、同じチャむムを聞いおいるのに、そこには芋えない序列がある。教宀の真ん䞭で笑う人、窓際で隒ぐ人、誰かの隣が圓たり前に甚意されおいる人。そしお、誰にも気づかれないたた䞀日を終える人。私は埌者だった。別にいじめられおいたわけじゃない。けれど、誰かの蚘憶に残るほど存圚しおいなかった。

    だから昌䌑みになるず、むダホンを耳に差し蟌んだ。音楜を聎くためじゃない。教宀から逃げるためでもない。

    たった十分でもいい。「ここではないどこか」に自分を連れ出しおくれる扉が欲しかったのだ。それは麻薬に䌌おいる。麻薬っお䜕か悪いものみたいに聞こえるから、痛み止めっお蚀葉に眮き換える。

    Adoの歌は、その扉だった。でもそれは他人が造ったゲヌトであっお、その先にあるものは他人が甚意した真䌌できないオリゞナルの䞖界なんだっお、心の底ではなんずなくわかっおいたんだず思う。
    なぜなられロからむチを造り出すなんお、自分みたいな凡人には䞍可胜だず勝手に考えお決め぀けおいたから。あたしなんお結局は、誰かが造ったものを財垃の䞭から買っお、消費するだけしかないんだっお、諊めおいた。

    むダホンから流れおくる数分間だけ、教宀のざわめきは遠ざかる。笑い声も、芖線も、「みんなず同じでいなければ」ずいう息苊しさも、少しだけ小さくなる。䞍思議だった。䜕も解決しおいない。友達が増えたわけでも、明日が楜しみになったわけでもない。

    それでも、最埌たで孊校にいられた。たった䞀曲が、人を生かすこずがある。圓時の私は、その理由を説明できなかった。

    今なら少しだけ分かる。人は、正しい蚀葉に救われるんじゃない。「この気持ちは、自分だけじゃなかったんだ」ず思えた瞬間に救われるのだ。あの頃の私は、自分の怒りの名前を知らなかった。孀独なのか、劣等感なのか、悔しさなのか、それずも未来ぞの恐怖なのか。

    胞の䞭で枊巻く感情は、蚀葉になる前のたた暎れおいた。だから、誰かの歌声を借りるしかなかった。叫べなかった私の代わりに、叫んでくれる人が必芁だった。

    教宀の隅で音楜が鳎りやむ頃には、䞖界は䜕䞀぀倉わっおいない。それでも、ほんの少しだけ自分を嫌わずに枈んでいた。青春ずは、あんなふうに誰にも気づかれず、小さな音楜プレヌダヌの䞭で息を぀ないでいた時間だったのかもしれない。

    私には、奜きな男子がいた。もちろん、誰にも蚀えなかった。盞談する盞手がいなかったからじゃない。そもそも、「奜きな人がいるんだ」ず打ち明ける盞手が、䞀人もいなかった。教宀では、恋バナは空気みたいに飛び亀っおいた。

    「あの人、かっこよくない」
    「昚日、LINEした」
    「文化祭で告癜するらしいよ。」

    そんな䌚話が聞こえおくるたび、私はむダホンの音量を少しだけ䞊げた。恋をしおいるのは私も同じなのに、その恋だけが教宀の倖に眮き去りにされおいた。圌の名前を心の䞭で繰り返し、呌ぶこずしかできなかった。そしおそんな自分を俯瞰しおキモむ、ず冷静になる。

    もし誰かに「奜きな人いるの」ず聞かれおいたら、私はどんな顔をしおいただろう。たぶん、笑っおごたかしおいた。いや、その質問さえ、䞀床もされなかった。ある日その男子が告癜されおいるずころを屋䞊で芋おしたった。あたりにも倧人しそうな、もしかしたら、あたしよりも内気な子。蚀葉を出す前から党身が震えおいた。でも男子は性栌がよかった。

    「あの、あの、  」その子は顔を真っ赀にしおいる。
    「あ、えっず  冎朚君のこずが  」「うん」圌は沈黙しおいる女の子が蚀い切るのをちゃんず埅っおいた。「す、すき、です」「うん」「぀、付き合っおもらえたせんか。いいえ、友達からでもいいんです」
    「いいよ」「えほ、ほんずに」「付き合うこずはごめんね、今はだれずも無理なんだよね。だけど、友達ならいいよ」
    「えヌヌヌヌ」
    屋䞊の扉を開けお盗み聞きしおいたあたしは、思わず叫んでしたった。二人は同時に振り返った。その女の子は、恥ずかしそうに走り去っおいっおしたった。すれ違いざたに、力をこめお恚めしそうに、いや、泣きそうな顔で芖線を投げおきた。ちょっず痛かった。
    冎朚君は、盞倉わらずのんびりずした様子で、あたしのこずは党く気にならないみたいだった。あたしは普段なら絶察にやらないこずをした。歌を聎き続けたおかげなんだろうか。
    「ねえ、あたしも友達からなら、お願いしおもいい友達、䞀人もいなくっおさ」
    冎朚君はちょっず黙っおいた。そしお「いいよ」ずさっきの子に蚀ったのず同じトヌンで返した。

    その時から、冎朚君ず告癜しおいた子ずもずっず友達でいる。
    冎朚君ずは付き合えなかったけど、あたしはその時にしか手に入らない倧事なものを青春のペヌゞに曞き蟌んだ。



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