
行けなかった美術館の、その先に
約700km離れた実家から、
両親がこちらに来て、しばらく滞在している。
父はこの滞在中、歴史の残る街並みを歩き、
そこにある大きな美術館をくまなく見ることを、
とても楽しみにしていた。
一眼レフを手に、どんな景色を切り取ろうか、
そんなことを考えていたのだと思う。
ところが、行こうとしていたその日。
カメラの調子が悪く、
手入れに思いのほか時間がかかってしまった。
出発が遅くなりそうだったので、
その日は無理をせず、翌日に行くことにした。
そして翌日、美術館に行くと
その日から、
まさかのメンテナンスによる長期休館。
しかも、父の滞在中には再開しないという。
母はぽつりと、
「ほんと、お父さんはついてないよね…」と言った。
確かに、
楽しみにしていたことが叶わなかったのは
残念だと思う。
でも私は、その言葉を聞きながら、
少し違うことを考えていた。
私はこういうとき、
「あぁ、今はそこに行かないほうが良かったんだな」
と受け取ることにしている。
もし美術館に行けていたら、
もしかしたら何かトラブルに
巻き込まれていたかもしれない。
もちろん、何事もなく楽しめた可能性も大きい。
どちらが正解だったかは、誰にもわからない。
だったら、
「今は行かないほうが良かった」
そう考えておけばいいじゃないか、と思うのだ。
それに、父はもう高齢だ。
700kmも離れたこの地に来られるのは、
もしかしたら今回が最後かもしれない。
そんな思いが、どこかにあった。
けれどこの出来事のおかげで、
「今度こそ、美術館に行くぞ」
という気持ちが、父の中に生まれたとしたら
それはきっと、次への原動力になる。
まだまだ元気でいよう、また来よう。
そんな未来へ向かう力になるのかもしれない。
行けなかったことは、残念。
でもそれは、「終わり」ではなく、
「つづきがある」ということなのではないか。
そう思えたとき、私は、
今回美術館に行けなかったことが、
かえってよかったのかもしれない、と思えた。
人生は、ときどき寄り道をさせる。
けれどその寄り道が、
次の一歩につながることもある。
行けなかった美術館は、
またいつか、きっと。
その「いつか」を楽しみにできることが、
いまは何よりうれしい。