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ケツァールの13番目の音 第27話

    『碑文の神殿』は、荘厳だった。観光客が集まっていた。エレナも見上げた。圧倒された。でも足は動かなかった。

    視線が、自然に横へ流れた。碑文の神殿の影に寄り添うように、小さな神殿があった。誰も立ち止まっていなかった。でもエレナには、そこに何かがあった。物悲しい、陰のようなもの。言葉にならなかった。でも身体が先に感じていた。エレナは碑文の神殿には向かわず、その小さな神殿の前に立った。ケイが気づいて、隣に来た。タリクも後に続いた。

    「13号神殿です」タリクが言った。「赤の女王が眠っていた場所です。」エレナは石壁を見つめたまま、動かなかった。

    建物の内部は、薄暗かった。外の喧騒が、遠くなった。エレナとケイだけがそこにいた。ケイが静かに言った。「ここから見つかった副葬品の中に、音楽に関連すると思われるものがあったという記録があります。」エレナはケイを見た。「音楽に関連するものが?」ケイは頷いた。「詳細はわかっていません。でも記録に残っています。そして副葬品の中に、ケツァールの羽も。」エレナは聞いたことがある名前だった。王の鳥とも呼ばれる鳥。緑の長い尾羽を持つ。「ケツァールは」ケイが静かに言った。「籠の中では生きられない鳥です。束縛されると、死んでしまう。だからマヤの人々は、羽だけをもらい、鳥は解放した。」

    エレナは石壁に手を触れた。冷たかった。でも何かが、その冷たさの奥にあった。「この場所に眠る人も」エレナは静かに言った。「何かから、解放されたかったのかもしれない。」ケイはエレナを見た。何も言わなかった。でも目が、静かに頷いていた。

    ケイが、手元の資料を見ながら静かに言った。「この神殿には、女王の遺骨だけではなかったようです。脇腹に黒曜石のナイフが刺さった老女。そして、首を折られた子供の遺骨も。」エレナは石壁を見た。物悲しい陰の正体が、少し見えた気がした。「儀式ですか。」エレナは静かに聞いた。ケイは頷いた。「犠牲を伴う儀式だったと言われています。」二人は黙った。薄暗い空間に、古い時間が漂っていた。エレナはあの夜の感覚を思った。雨の音と旋律が重なった時の、あの身体の熱さ。犠牲ではなく、解放だった。

    「同じ儀式でも」エレナは独り言のように言った。「全く違うものがあったんじゃないか。」ケイはエレナを見た。「そう思います。そしてそれを、誰かが必死に残そうとしていた。」

    「同じ儀式でも、全く違うものがあったんじゃないか。」その言葉は、誰かに向けたものではなかった。自分の中から、自然に出てきた言葉だった。ケイは何も言わなかった。でも否定もしなかった。二人はしばらく、その薄暗い空間に立っていた。石壁が、静かに二人を見ていた。やがてエレナは、外の光の方へ歩き始めた。答えはまだなかった。でも、問いを持っていた。それで十分だった。

    外の光が、眩しかった。エレナは目を細めた。階段にタリクが座っていた。スマートフォンを見ていた。二人が出てきたことに気づくと、すぐに立ち上がった。「どうでしたか。」明るい声だった。エレナは少し考えた。「良かったです」それだけ言った。タリクは頷いた。それ以上聞かなかった。

    三人は遺跡の出口へ向かって歩いた。タリクが先を歩いた。エレナはその背中を見ながら、13号神殿のことを思っていた。薄暗い空間の中で生まれた問いが、まだ胸の中にあった。

     
     

    Kanji

     
     
    Kanji。18年前に旅立った親友がつけてくれたニックネームです。いつか、この名前で世界に何かを届けたいと思っていました。「ケツァールの13番目の音」は、私が初めて書いた小説です。これは、大切な人たち全てへの恩返しです。

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